「そばにいて、話を聞いて──」 村も家族も失った モザンビーク、紛争下の人びとへの心のケア

2021年03月17日掲載

子どもの栄養失調の状態を確認するMSFスタッフ 避難先では食料不足が深刻だ © MSF子どもの栄養失調の状態を確認するMSFスタッフ 避難先では食料不足が深刻だ © MSF

「息子は連れ去られてしまった。二度と戻って来ないかもしれない」「村は焼き払われて、家族も家も、何もかも失った」

紛争が続くモザンビーク北部のカーボ・デルガード州。暴力から逃れ避難してきた人びとが語った声だ。安全を求めてやっとたどり避難民キャンプにたどり着いても、厳しい生活が続く。この現状が人びとから希望を奪い、心に痛みをもたらしている。

もう一度生きる力を取り戻すために──。国境なき医師団(MSF)が進める心のケアの活動を伝える。 

50時間以上休みなく歩き続けた先で

2017年にカーボ・デルガード州で始まった、モザンビーク政府軍と武装勢力との戦闘により、現在67万人近い人が自宅を追われている。村が焼き払われ、家や愛する人たちを失ったと逃げてきた人びとは語る。

安全な場所にたどり着くまでに、数日がかりで歩かなくてはならない人もいる。体力のない子どもやお年寄りにはなお厳しい。多くの国内避難民の出身地であるムエダから、避難先のペンバまでの道のりは268キロメートル。休みなく54時間ほどもかけて歩き、キャンプの一つにたどり着く。しかしやっと着いたキャンプは、食事も水も医薬品も足りていない。雨から身を守ろうにも、ビニールシートすら足りず、満足に寝ることもできない。

そのような状況を受け、MSFは、キャンプで生活している人びとに、トイレや清潔な水などを提供している。 

物資配布の準備をするMSFスタッフ © MSF物資配布の準備をするMSFスタッフ © MSF

思いを語れる場を 心のケアプログラムを開始

キャンプに着いても、避難民の体と心は苦しみの中にある。自身の経験や目撃した出来事を思い出して苦悩がよみがえり、眠れなくなったり、生きる意欲を失ったりしてしまうのだ。2020年12月、MSFは複数の避難民キャンプで心のケアのプログラムを開始した。会話サークル、演劇、サッカーの試合、ダンス、歌など、内容は多岐にわたる。

会話サークルは、困難な経験をした人が、自分自身を表現したり、悩んでいることを話したりすることができる安全な空間だ。MSFは、女性用と男性用に別々の会話サークルを作っている。

「苦しみから逃れようとして自宅を後にしたのに、苦しみが続いている人びとの話はとてもつらいものです。息子が連れ去られてしまい、二度と戻って来ないかもしれないと泣きながら言う人もいて、聞くと心が痛みます。今日は会話サークルである村のリーダーが、地域の住民を140人失ったと話していました。彼らにとって生きるのは容易ではありません」と、心のケアチームのスタッフは話す。

避難民のある女性は、会話サークルの中でこう話した。「茂みの中で、一人でいるこの子を見つけました。母親の居場所は分かりません。町から町へと移動して、本当に大変でした。私たちはあまりにも多くの苦しみを受けてきました。ここへは来たくて来たわけではありません。選べたなら、もっと良い暮らしができる場所へ行っていたはずです」 

キャンプの厳しい環境の中で生活する人びと © MSF/Amanda Bergmanキャンプの厳しい環境の中で生活する人びと © MSF/Amanda Bergman

心の痛みに耳を傾ける

心のケアを通じて、人は喪失感に対処する力を高めていく。MSF心のケアチームのあるスタッフはこう話す。「心のケアプログラムに参加した人たちは、感謝の気持ちを伝えてくれます。私たちがその場にいて話に耳を傾けているだけで、気持ちが楽になるそうです。歌や踊りも取り入れて、一瞬でも心の痛みが和らぐよう活動しています。女性の場合、自己表現により役立つのは歌うことです。どの曲にもストーリーがあり、本人たちが感じていることや将来への希望を現しています」

「キャンプの人たちはいつも、『私たちを忘れないで、また来てほしい。そばにいてほしい』と話します。『食べ物やテントを持って来ていなくても、様子を見に来て話を聞いてくれるだけで、痛みが和らぐから』と。つらさについて話すことで、そのつらさが和らぎます。私たちの心のケアの活動が役に立ち、また来てほしいと言われることは、とても嬉しいことです」 

心のケアの活動は会話サークルやサッカー、歌など多岐にわたる © MSF/Amanda Bergman心のケアの活動は会話サークルやサッカー、歌など多岐にわたる © MSF/Amanda Bergman

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