「テロとの戦い」で見過ごされる人道危機 モザンビーク、人びとがさらなる窮地に

2021年05月28日掲載

紛争から逃れてきた人びとが生活を送る、カーボ・デルガード州の国内避難民キャンプ © Tadeu Andre/MSF紛争から逃れてきた人びとが生活を送る、カーボ・デルガード州の国内避難民キャンプ © Tadeu Andre/MSF

武装勢力と政府軍の戦闘が続く、モザンビーク北部のカーボ・デルガード州。70万人以上が避難を余儀なくされ、人道援助のニーズが急速に高まっている。そのような中、「対テロ」の政策により、援助を必要とする人びとがさらなる窮地に立たされている。国境なき医師団(MSF)で分析部門の責任者を務めるジョナサン・ホイットールが解説する。 

カーボ・デルガードをめぐる3つの動き

ジョナサン・ホイットール 
© Alice Martins ジョナサン・ホイットール
© Alice Martins

モザンビークのカーボ・デルガード州では、3月から4月にかけて3つの大きな動きがあった。いずれも今後、人命に著しい影響をおよぼすと考えられる。

まず、3月中旬、米国政府はカーボ・デルガードで活動している反政府武装勢力を「テロ組織」と認定。米国から軍事顧問を派遣し、モザンビーク軍のテロ対策を訓練した。

2週間後には、フランスのエネルギー企業トタルが開発を進める天然ガス事業地に近いパルマの町が、武装勢力に襲撃された。殺害された人の数はいまだ明らかになっていないが、少なくとも3万人が避難を強いられる事態となった。

4月上旬、南部アフリカ開発共同体(SADC)加盟国は、この襲撃を「テロ攻撃」と強く非難。「このような忌まわしい行為がまた繰り返されたら、しかるべき対応をせざるを得ない」と述べ、SADC加盟国からモザンビークに3000人の兵士を送ることを提案した。

満たされない人道ニーズ

カーボ・デルガードはいま、反政府組織が武装勢力「イスラム国(IS)」とつながっているという見解や、パルマの襲撃で外国人が殺害されたことによって注目を集めている。それに比べ、70万人以上の人びとが家を追われている深刻な人道危機に対しては、国際社会の関心が低い。

南部アフリカ地域の国々をはじめ、モザンビーク政府を支援する立場の人たちの関心は、もっぱら「テロとの戦い」にだけ注がれている。このままでは、紛争で被害を受けた人たちの命を救うという緊急のニーズが見過ごされかねない。

夫が首をはねられた、妻が拉致された……。カーボ・デルガードの人びとが語る経験は過酷だ。何十万もの人びとが暴力から逃れた末に、過密状態のキャンプで過ごしている。やぶに身を隠し、安全を求め何日も歩かなければならないが、大抵は水も食料も持ち合わせていない。長引く情勢不安のために、人道援助が届かない場所も多い。

食料や水、仮設住居、緊急医療と、生存に必要なあらゆるものが不足し、人道援助のニーズは膨大だ。しかし、物資の搬入や追加人員のビザ発給も治安情勢と規制の壁に阻まれ、援助を拡大するのは非常に難しい。現場では、援助活動の規模がニーズの大きさに全く見合っていない。

最低限の生活を送るための、あらゆるものが不足している © Tadeu Andre/MSF最低限の生活を送るための、あらゆるものが不足している © Tadeu Andre/MSF

「対テロ」のもとで妨げられる人道援助

人道援助の拡大が困難な一方で、対テロ作戦は各国からの支援を受けて、ますます規模が拡大するだろう。この対テロ作戦は、困窮する人びとにいっそうの打撃となる恐れがある。私はシリアやイラク、アフガニスタンなど多くの紛争地で、対テロ作戦が時に人道援助活動を妨げ、むしろ人道ニーズを生み出す様を目にしてきた。

ある集団が「テロリスト」と認定され、非合法化されることで、現地の人びとに安全に人道援助を届けるための交渉が難しくなってしまう。「テロリストとは交渉しない」ことを旨とする政府もあるが、人道援助団体は公平に援助を提供するために、現地の支配勢力や、患者とスタッフに危害を加えかねない集団とも交渉する必要がある。しかし多くの援助団体は、対テロ法への抵触を恐れ、テロリストと認定された組織のいる場所での交渉を避けている。

MSFが公平に医療を提供するためには、対話の場を確保し、紛争地に立ち入る目的が人びとの命を救い、被害を減らすことだけなのだということを伝え、信頼を得ることが不可欠だ。

しかし、対テロ作戦は、人道援助を国家やそれを支える軍事同盟のコントロール下に置こうとする。政府が信頼を得たり、軍が人心掌握したりするために援助が提供されることもあれば、反体制派に協調したと見なされた地域を罰するために援助が止められることもあるのだ。このようなやり方では、弱い立場に置かれた人びとが援助から漏れてしまう。
 
だからこそ、MSFのような組織は独立した立場で活動する必要がある。人道援助団体が国家と連携しないのは、国家やその関係者が、反政府武装勢力の標的となることが多いからだ。対テロ戦争を行っている国家と足並みをそろえると、援助を最も必要とする人びとに医療を提供することができなくなる可能性もある。
 
各地の対テロ戦争において、「テロリスト」が紛れ込んでいたという理由で、民間人の犠牲が正当化されることが頻繁にある。住民全体が「敵対的」であると見なされ、戦闘部隊の行動規制が緩和されてしまうのだ。このような状況で、軍民の区別なく攻撃の標的となり、病院が破壊されたり、村全体が破壊されたりするのを私たちは目にしてきた。そこで暮らす人たちは、武装勢力による無差別な暴力と、国家によるテロ対策との間で、窮地に陥っている。
 
「テロ」への注目が、モザンビークに介入する人びとの政治的・経済的な利益につながることは明らかだ。しかし、それをカーボ・デルガードの人びとの命と引き換えにしてはならない。

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