HIV/エイズの患者を支えたカウンセリング これからは国が命を守る

2019年07月19日掲載

2019年6月27日、ミャンマーの大都市ヤンゴンにあるインセイン診療所が、その役割を終えた。この診療所は、国境なき医師団(MSF)がヤンゴンで2003年から運営しているHIV/エイズの治療プロジェクトの現場の1つとして多くの患者を受け入れてきた。近年、ミャンマーの国家エイズ対策プログラム(NAP)がHIV/エイズ対策能力を上げており、MSFは活動をNAPに移譲。これからは国が、HIVとともに生きる人びとに抗レトロウイルス薬(ARV)治療を提供していく。 

治療を支えたカウンセリング

MSFのカウンセラー、コー・ミョー・チョウ © Minzayar OoMSFのカウンセラー、コー・ミョー・チョウ © Minzayar Oo

コー・ミョー・チョウはインセイン診療所のカウンセラー兼患者教育担当として、およそ15年にわたってHIVとともに生きる人びとに寄り添ってきた。患者のカウンセリングで優先すべきことの1つが治療のアドヒアランス(服薬を遵守して治療を継続すること)の徹底だ。コーは、患者のやる気・社会生活上の困難や行動を視野に入れて取り組んできた。

「HIV/エイズの治療を難しくしている社会的・心理的要因はさまざまあり、ミャンマーでは差別や偏見もまだまだまん延しています。結核感染者は堂々とそう言えても、HIVはそうはいきません。偏見を恐れて治療を続けられないこともあるのです。HIVとともに生きる人びとは、毎日の抗レトロウイルス薬(ARV)の服薬が欠かせず、自宅や職場、学校で飲むこともあるでしょう。不名誉や恥の気持ちから、薬を飲む際に人目を避ける患者さんもいます。そのせいで服薬のタイミングが乱れ、治療への影響が生じます。夫婦げんかをして服薬を忘れてしまったり、治療を続ける意欲を失くしてしまったり、治療ではそうしたリスクの軽減も重要です。カウンセラーは患者さんと、患者さんの抱える困難を理解し、できるかぎり手助けします。カウンセリングの本質は、患者さんの効果的な治療を支えるために寄り添うことなのです」 

インセイン診療所でカウンセリング業務のワークショップを開催 © Minzayar Ooインセイン診療所でカウンセリング業務のワークショップを開催 © Minzayar Oo

HIV治療において、コーのようなカウンセラーの業務は「患者中心」の治療に不可欠なものだ。特に、10代の若い患者や性産業従事者、ドラッグの常用者など、弱い立場にいる患者が社会的に疎外され、治療を続けられないようなことがないよう、カウンセラーは患者とその家族、地域社会にも働きかけている。コーは続ける。

「この仕事に長らく携わってきて、カウンセリングの価値がわかりました。2004年以前は、MSFのようなNGOについてあまり知りませんでしたし、カウンセラーという仕事についても、初めて耳にしたのは看護師をしていた隣人の女性からです。2003年にMSFがこの場所でARV治療プログラムを開始すると、たくさんの人命が救われました。それがなかったら、ずっと多くの人が亡くなっていたでしょう。MSFの一員となり、貢献できることを誇りに思っています。現在は、他の団体もARV治療プログラムに着手していて、カウンセリングの研修が必要になると、MSFに経験を共有してほしいと声がかかります。私も、指導員や私自身の経験から学んだ知識と技術を伝えられることが嬉しいです」 

インセイン診療所には閉院を伝える看板が立つ © Minzayar Ooインセイン診療所には閉院を伝える看板が立つ © Minzayar Oo

ミャンマーは、2020年までにARV治療の75%を国家エイズ対策プログラム(NAP)で担えるようにすることを目標としている。インセイン診療所は閉院されるが、MSFは引き続き、より質の高いHIV治療を拡大していけるよう支援を続け、今後もヤンゴンのほかカチン、シャン、タニンダーリで包括的なHIV/エイズのケアを提供していく。 

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