モロッコ地震がもたらした見えない傷──発生から1カ月、被災地で続く心のケア
2023年10月08日
看護師のフジア・バラは、緊急対応チームの一員として、被災地で2週間活動。地震の影響を大きく受けた村の人びとに、最初の心のケアを提供した。活動中、フジアはグループセッションや個人セッションで150人以上と面会。そのほとんどが女性や子ども、若いボランティアだったという。
モロッコの現場から戻ったばかりのフジアが、被災地の状況と心のケアの重要性を伝える。
被災地の心のケア
地震発生後、モロッコ当局は数カ国の支援のもと、迅速に大規模な対応を開始。瓦礫の下から遺体を捜索し、負傷者を治療しました。また、ヘリコプターを飛ばし、遠隔地や山間部の人びとを避難させました。当局は被災地の緊急かつ差し迫った医療ニーズには応えているものの、まだ対応しきれていない分野があります。それが心のケアです。

恐怖と不安が口々に語られ…
MSFの震災対応における長年の経験から言えるのは、心のケアはしばしば後回しにされる場合があるということです。しかし、人びとが状況に適応し、回復し、生活を再建するためには欠かせない治療です。
アラビア語とベルベル語を話す医療者として、私は被災した人びとと話し、体験を聞き、彼らが感情を表現し言葉にするのを手助けすることができました。モロッコにはベルベル語を話す心理士が足りておらず、ベルベル語で心理的応急処置を行うことは難しいのです。
私は自分のバックグラウンドのおかげで、通訳を介さずにグループセッションを行うことができました。地震により人びとが受けた衝撃がどれほど大きかったか……。それを目の当たりにしたのです。何歳であろうと関係ありません。恐怖と不安が口々に語られました。
何人かは最初、話すこともできなかったほどです。ティグーガ近郊のある村の女性は、3人の子どもを全員亡くしたといいます。一番下の子はまだ生後1カ月だったそうです。彼女は日中、何も話すことができず、夜になると泣きながら子どもたちを探しまわっていました。

「どうやって生活を立て直すのですか?」「以前のように戻るのでしょうか?」「冬が近づいているのに、テントで暮らすしかないなんて……」
これらは、セッション中に繰り返し寄せられた質問ですが、全て被災者の心のケアにつながっていきます。
ボランティアにも心のケアを
一緒に活動したボランティアグループの17歳から24歳の若い人たちは、セッションにより自分たちの心に何が起きているのかを消化し、理解することができたのです。セッションが進むにつれ、彼らは心を開き、以前は隠していた、あるいは強くありたいためにあえて話さなかった苦しみを分かち合うことができました。
また、この震災は人びとが何年もの間、心の奥底に沈めていた多くの隠された心の問題を呼び起こし、彼らの状況や症状はますます悪化したのです。

迅速な対応が必要
MSFは今後数週間、地方当局や地元の組織と協力のもと、無償で心のケアを提供し、人びとの回復をサポートしていきます。何千人もの人びとが支援を必要としており、できるだけ早く実施しなければいけません。また、心の傷がまだ生々しいうちに、そして心的外傷後ストレス障害(PTSD)を防ぐためにも、可能な限り迅速な対応が望まれます。
私たちはモロッコの心理士、ヘルスプロモーター、ソーシャル・ワーカーと協力し、個人セッションやグループセッションを通じて人びとのニーズを特定し、心理的応急処置を実施するためのトレーニングを行っています。また、さらなる支援を必要とする人や、専門家や精神科医によるケアが必要な深刻なケースを特定するためのトレーニングも行う予定です。
地震を生き延びる。そんなトラウマ的な体験を経験した人には、長期的に起こりうる心の問題を避けるために、ケアを受けられる機会を増やし、早急に対応することが必要です。人びとには目に見える傷だけではなく、目には見えない心の傷がある──それを忘れてはいけません。
MSFのモロッコでの活動
MSFは現在、モロッコの被災地で以下の活動を行っている。
・被災者や最前線で活動するボランティアへの心理的なサポートの提供
・モロッコ保健省の医療・救急医療チームの支援
・健康推進活動とメンタルヘルス・キャンペーンの実施
・心理的応急処置に関する地元グループのトレーニングと支援