「人びとは雨と気候変動におびえている」——洪水から3カ月、リビアの今

2023年12月27日

リビア東部デルナで、暴風雨ダニエルによる洪水で数千人が命を落としてから3カ月が過ぎた。デルナの人びとは、災害がもたらした心理的な余波に今も苦しんでいる。国境なき医師団(MSF)の医師と心理士が、医療ケアと心のケアを続けている。 

9月に洪水が発生した直後のデルナの街。市街が大きく破壊されていた © Halil Fidan/Anadolu Agency via AFP
9月に洪水が発生した直後のデルナの街。市街が大きく破壊されていた © Halil Fidan/Anadolu Agency via AFP

2023年9月10日、スペインとギリシャで甚大な被害をもたらした暴風雨ダニエルは、地中海を通過する際に勢力を強め、リビア沿岸に上陸した。強風と激しい降雨により、地中海沿岸の都市デルナの上流で2つのダムが決壊した。9月11日午前2時30分頃、破壊的な洪水が市街地の一部を飲み込み、アパートを破壊し、泥の激流が、眠っていた数千人の住民を押し流した。

がれきの中から発見された時計が、悲劇が起きた正確な時刻に動かなくなっているのが写真で確認できるように、公式発表では死者4500人、行方不明者8000人以上という惨事となった。あれから3カ月が過ぎ、生き残った人々は今も、ショックと悲しみに耐えている。

「デルナは今も喪に服している」

 MSFの心理士アスマ・アマラアは言う。

「デルナは悲しみと沈黙に包まれています。人びとは今も常に喪に服しています」

MSFの最初のチームは災害の3日後にデルナに到着。医療面と人道面でのニーズを調査し、遺体収納袋やその他の緊急物資を保健当局に寄贈した。

災害から10日後、MSFチームは、破壊された市街地の両側にある2つの保健センターで、一般的な診察と、個人セッションやグループセッションによる心のケアを始めた。

洪水発生直後の9月16日、デルナの街でニーズを調査するMSFスタッフら © MSF
洪水発生直後の9月16日、デルナの街でニーズを調査するMSFスタッフら © MSF

MSFの医師はデルナでこれまでに、子どもから大人まで4480人以上の患者に診察を行ったが、その大半は高血圧、上気道感染症、胃痛などであった。MSFの医師たちは、患者の症状が身体的なものよりも、むしろ心理的なものであることが多いことに気づいた。

MSFのムハンマド・イブラヒム・アルガブラウィ医師は言う。

「私たちはすぐに、多くの場合、患者が身体的な症状よりも心理的な症状を訴えていることに気づきました。頭痛、胸のつかえ、息切れ、背中や胃の痛み、ほてりなどを訴える患者が多かったのです」

230人以上の患者が、基礎医療の診察からMSFのメンタルヘルス・チームの支援を受けるようになった。デルナでは一般的に、メンタルヘルスの問題は恥ずべきことだと考えられているにもかかわらず、である。「デルナでは、誰もが他人を知っており、心理士に会いに来ることは、いまだに恥だと思われることが多いのです」と、MSFチームの心理士の一人は言う。

今も残る恐怖

洪水以降、MSFの心理士らは個人セッションやグループセッションで、約1000人の患者に心のケアを行ってきた。

心理士らの報告によると、患者の多くは不安や暴力的傾向の兆候を示し、常に泣いたり、苦痛、悲しみ、恐怖の感情を表現したりする患者もいた。

「彼らは悪夢を見たり、災害が再び起こるかもしれないという印象を持ったり、雨や雲、気候変動を恐れたりします」とMSFの心理士は言う。「洪水が再び起こるかもしれないという恐怖から逃れられないのです」

多くの住民が深い心の傷を負い、街の物理的な構造にも目に見える傷跡が残っているにもかかわらず、デルナの暮らしは徐々に日常を取り戻しつつある。

仮設の避難所は徐々に閉鎖され、復興作業が始まった。学校がようやく再開されると、MSFの心理士らも、新学期が始まるという特に困難な状況に教師が対処できるよう支援を始めた。

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