「なぜ?」 壁に悲痛の叫び 日本人が収容センターで見た若者は夢を絶たれ・・・

2019年01月15日
リビアで活動した中嶋秀昭 副コーディネーター © MSFリビアで活動した中嶋秀昭 副コーディネーター © MSF

紛争を逃れた人、よりよい人生を望んで故郷を離れた人…難民・移民が母国を離れた理由はさまざまだ。アフリカや中東から欧州を目指し移動する人びとの渡航拠点、リビア。ここでは、地中海で遭難し連れ戻された人、またリビアで拘束された人などが、長期にわたり収容センターに勾留されている。収容センターはリビア内務省が管轄しており、人びとは法的手続きもなく、いつ出られるのかもわからない。

2018年8月から12月まで国境なき医師団(MSF)の副プロジェクト・コーディネーターとしてリビアで活動した中嶋秀昭は、収容センターで難民・移民への医療援助活動に従事した。そこで見たものとは? 

収容センターの環境は最悪

ホムス収容センターの居住エリア © Sara Creta/MSFホムス収容センターの居住エリア © Sara Creta/MSF

MSFは収容センターの中に診療所を設置して、難民や移民、保護を求める人びとに基礎的な医療を提供しています。センターでは、狭いスペースに数十人が一緒に過ごしていて、呼吸器系の問題がある人、海を渡る際に海水と燃料が混ざって化学反応を起こし、それによってひどいやけどを負った人もいます。食べ物はパンとパスタ、炭水化物だけ。ガリガリに痩せている、というわけではないものの、偏った食事なので栄養失調が懸念される人もいました。そこでMSFは、バナナやオレンジを配っています。 

食事は炭水化物ばかりで、栄養失調も心配される © Sara Creta/MSF食事は炭水化物ばかりで、栄養失調も心配される © Sara Creta/MSF

シャワーも入れないし、トイレも不潔。毛布も洗っていない不衛生な状況のなかで、疥癬(かいせん)という皮膚の病気が流行ってしまいます。結核にかかっている人もいますが、隔離できる状況ではないのでとても心配です。 

高い教育を持った若者たちなのに

地中海でリビア沿岸警備隊に拿捕され、ホムスの収容センターへ送られてきた人びと © Sara Creta/MSF地中海でリビア沿岸警備隊に拿捕され、ホムスの収容センターへ送られてきた人びと © Sara Creta/MSF

収容されている人の多くは、若い男性でした。サハラ砂漠を越えてここまでやってきた人、地中海で遭難してここにたどりついた人、家族を目の前で亡くした人…壮絶な体験をしています。

アフリカのフランス語圏の国から来た青年がいました。おそらく20代前半の若者で、彼は母国で高い教育を受けていました。ヨーロッパを目指したのも医学を学ぶためで、その途中で収容センターに入れられてしまいました。内臓の緻密なスケッチを壁に描いていて、それがものすごく上手なんです。生まれた場所や環境がたまたま大変だった、というだけで、国を離れる選択をしなければならない。それに胸が痛みました。 

人びとが見放されないように

人びとは収容センターの壁に思いを描く © Sara Creta/MSF人びとは収容センターの壁に思いを描く © Sara Creta/MSF

収容所を訪れたときに目に入ったのは、壁に書かれたグラフィティ(落書き)でした。「Why?Why? (なぜ?なぜ?)」と…。リビアはなぜ自分たちをここに押し込めるのか、いったいいつになったら出られるのか、彼らはひどい環境の中で先の見えない日々を過ごしています。心の健康状態もとても心配です。 

センターにはまだ幼い子どもたちの姿も © Sara Creta/MSFセンターにはまだ幼い子どもたちの姿も © Sara Creta/MSF

MSFは今後、収容センターにいる人びとの心のケアと、彼らが人間らしく過ごせるよう、人権を重視したソーシャル・ワークにも力を入れられるよう、模索しています。課題はありますが、彼らが一生このままどこへも行けず、何もできないまま放置されないようにしなければいけません。中には、自分の息子くらいの子どもたちもいます。彼らは「これから」の子どもたちなのです。 

リビアには、サハラ以南の国から多くの人びとが出稼ぎに来ており、収容センターにはこうした人びとも収容されている。リビア国内の治安悪化、経済危機が原因で、外国人を狙った強奪や誘拐が増加し、もともと欧州を目指していたわけではない人も、避難のため海を渡るしかなく、その途中で危険な海難事故に遭遇している。
MSFはリビアのミスラタ、ホムス、ズリテンにある4つの収容センターで医療活動や救援物資の配布を行うとともに、収容センターの環境改善を強く訴えている。

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