目の前で家族が息絶えた…女性たちの消えない心の傷

2019年01月30日

レバノンの難民キャンプ・シャティーラ。首都ベイルートの街中からわずか4kmの場所に広がる難民キャンプだ。1949年に、パレスチナ人難民のために設置されたものだが、今はシリア人や、他の少数派の人びとも身を寄せている。生活環境は劣悪だ。

国境なき医師団(MSF)は、2013年9月にこのキャンプで活動を始めた。困窮する避難者のニーズに応えるために、現在は1次診療所と婦人診療所を拠点に無償の医療を提供している。

MSFを訪れる患者は、相当数がシリア人で、精神保健サービスを求めてくる。主に女性が多い。戦争によるトラウマというよりも、避難生活が家族の交流、家族との関係にもたらす変化に苦しんでいる。

イラストレーターのエラ・バロン氏は、英紙「ガーディアン」の依頼を受け、そんな女性らと会い、証言を集めた。MSFのカウンセラーの協力を得て、彼女たちは体験を語った。バロン氏は彼女たちの体験をイラストにした。バロン氏の作品を、患者でもある彼女たち自身の声と、MSFカウンセラーの声と共に紹介する。
 

楽しかったあの頃

© Ella Baron© Ella Baron

患者:「ふるさとで楽しかった思い出?大学の卒業試験が終わった日の夜のことかしら。わたしたちみんなで広場に行って、バーベキューをしました。ゆっくり過ごしました」。

目の前で息絶えた家族

© Ella Baron© Ella Baron

患者:「自宅に爆弾が落ちて、両脚ががれきに挟まれ動けなくなってしまったんです。どうすることもできませんでした。目の前で家族が息絶えていきました。母と妹と2人の子どもが死にそうだったのに、何もしてあげられなかった…。レバノンに来てから、多くの日は家で過ごし、ほとんどずっと子どもたちと一緒にいました。最後に外出したのは5週間ほど前でした」。 

娘は連れ去られてしまった…

© Ella Baron© Ella Baron

患者:「キャンプの中にある幼稚園。そこからの帰り道で、6歳の娘が連れ去られました。夫は借金のせいで捕まっていて、私1人で子どもたちを育てなければなりません。学校に迎えに行ったりする時間もありません」。 

服をたたむように 心の傷と向き合う

© Ella Baron© Ella Baron

MSFのカウンセラー:「心の傷と折り合っていくことは、しまい込んだ服を出すのに似ている、と説明することがあります。引き出しを開けると、ぐちゃぐちゃに服がこぼれ落ちてくるので、きれいに畳めるように整理していきます」。 

空を飛ぶ鳥に「自由」を重ねて

© Ella Baron© Ella Baron

MSFのカウンセラー:「ここで働くのがつらい時もあります。息抜きが必要になると、診療所の屋上に登ります。ほら、鳥がたくさんいるでしょう!みんな、餌をあげているんですよ!不思議ですよね。自分たちもとても貧しいのに。でも、餌をやることに、ある種の自由を感じているのかもしれません」。 

母親は12歳の少女だった…

© Ella Baron© Ella Baron

MSFの助産師:「患者さんから、『男の子ですか?女の子ですか?』と、超音波検査の度に、最初に質問されます。胎児が女の子だと、ご家族によくないこともあるので、いつも『わかりません』とお答えしています。妊婦さんには、赤ちゃんの健康が第一だとお伝えし、手足や顔などを見せてあげたり、心音を聞かせたりします。赤ちゃんを取り上げることは、やはり嬉しいものです。でも、とても難しいケースもあります。担当した妊婦さんの中には、2人目のお子さんを妊娠している12歳の女の子もいます」。 

「職場でレイプされた…」13歳の少女

© Ella Baron© Ella Baron

患者:「私は11人家族で、13歳の時に働きに出されました。シャティーラを出てすぐの場所にある倉庫で衣類の整理をする仕事です。雇い主は45歳の男性でした。ある晩、1人で働いていると、彼はレイプしてきました。泣き寝入りしていたのは、家族を騒ぎに巻き込みたくなかったからです。でも、そうこうするうちに、姉が私のあざに気づきました。それで、全て打ち明けました。姉が、MSFのところに連れてきてくれました」。 

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