キリバス:浸食される土地、食料不安、病気のリスク… 人びとの命を脅かす気候変動
2022年12月09日浸食される土地… 食料事情に打撃
キリバスは国土の総面積が811平方キロメートルと小さく、首都タラワでも、最も高い場所で海抜は3メートルだ。そのため、特に海面上昇の影響を受けやすく、2016年の時点で既に多くの人がその直接的な影響を受けている。
海岸の浸食の跡はいたるところにある。ピクニックの名所やかつてビーチがあった場所には、根こそぎ倒れた木々が横たわり、満月の満潮時には土手道を越えて波が押し寄せ、家屋を浸水させてしまうことも。浸食とともに、地下水源や土壌の塩害、気温の上昇が起こり、キングタイド(極端に大きな潮の満ち引き)や干ばつも増加している。
農業への影響も深刻だ。キリバスでは、特に離島の人びとは自給自足の暮らしを営んでいるが、近年その数は減少している。また、過剰な人口増加と気候変動は漁業にも影響を与え、沿岸漁業は近い将来、需要を満たせなくなる可能性が高い。キリバス全体で増大する国内需要を維持するためには、2030年までに今より50%以上の食料が必要になると予測されている。
ライフスタイルの変化も
食料不安の原因は異常気象だけではなく、ライフスタイルの変化も大きい。多くの若者は、伝統的な方法で食料を生産したり調理をしなくなり、便利な輸入食品を好むようになった。魚やババイ(タロイモ)、パンノキやココナッツなどの伝統的な食生活からの移行は、人びとの健康に影響をおよぼしている。今では多くの人が白米を主食にし、輸入された甘い飲み物や缶詰、加工食品に頼っている。
新鮮な農産物を手に入れることも難しく、かぼちゃは13キリバス・ドル(約1178円)、スイカは20キリバス・ドル(約1840円)にもなる。最低賃金が時給2キリバス・ドル(約184円)であることを考えると、人びとが新鮮な食べ物を手に入れることは難しい。ほとんどの住民が、推奨されている量の果物や野菜を摂取できないのも当然だろう。
キリバスでは男性の38%、女性の54%が肥満で、5歳未満の子どもでは25%が低体重と推定されている。また、全人口の住民の70%を占める18〜69歳の成人は、非感染性疾患の危険因子のうち3つ以上を持っている。
気候の危機は、健康の危機
影響は妊産婦と赤ちゃんにも
気候変動が環境や人びとに与える影響を検証した最新の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の報告書では、「気候変動の影響を最も強く受けるのは、それに対応することが最も難しい立場に置かれた人びとや生態系である」と指摘されている。キリバスの状況は、気候変動がもたらす最も過酷で現実的な影響を、私たちに示している。