国境なき医師団、輪島市の避難所に洗濯機を寄贈──「洗濯したい」切実な思いを受け

2024年02月20日

国境なき医師団(MSF)は2月19日、洗濯機20台を石川県輪島市に寄贈した。能登半島地震で避難所での暮らしを余儀なくされている被災者の方々に使っていただく。被災者の心のケアなどのため現地に向かった医療・人道援助団体が、なぜ洗濯機を寄贈するのか。「洗濯したいのに、できない」という切実なニーズを知ったためだ。

洗濯機を運び込む市とMSFのスタッフら © MSF
洗濯機を運び込む市とMSFのスタッフら © MSF

洗濯は人間の尊厳にかかわる問題

道路はあちこちにひびが入って段差が生まれ、横倒しのビルや倒壊した木造の家屋がそのまま残る輪島市。市の中心部にある輪島市文化会館で、MSFと市の職員らが、トラックから積み下ろされる新しい洗濯機を一台一台運び込んだ。

洗濯機は全部で20台。いったん、支援物資の受け入れ窓口となっている文化会館のホールに積み上げられた。受け取った輪島市が今後、市内8カ所の避難所に、それぞれ1~4台ずつ搬入し、据え付ける。8カ所では、2月上旬段階で計約1000人が避難している。それぞれの避難所への搬入は、水道や電気の復旧状況を見ながら、市側で決めていく予定だ。市は2月下旬から各避難所での水道復旧に本腰を入れる計画で、そのタイミングに間に合うかたちでの引き渡しとなった。

MSFは輪島市で、被災者や、被災者を支援している市職員らを対象に心のケアを提供している。そんな医療・人道援助団体が被災地に洗濯機を持ち込む理由は何か。発案したプロジェクト・コーディネーターの川邊洋三は「清潔な衣服で過ごすことは、人間としての尊厳にかかわる問題だから」と話す。 

輪島市街で活動に向かうMSF心理士の福島正樹(左)とプロジェクト・コーディネーターの川邊洋三。輪島市内では、路上のがれきは片付いたものの、倒壊した建物はほとんど手つかずのままだ © MSF
輪島市街で活動に向かうMSF心理士の福島正樹(左)とプロジェクト・コーディネーターの川邊洋三。輪島市内では、路上のがれきは片付いたものの、倒壊した建物はほとんど手つかずのままだ © MSF

「自治体の負担を減らすことも一つの支援」

輪島市では水道の復旧がなかなか進まず、飲料水は給水支援やペットボトルなどのかたちで手に入るものの、生活用水を入手するのが難しい。このため、避難所に身を寄せる人びとは衣服を洗濯するのが著しく困難だ。

同じ服を着続けるか、支援物資として寄せられる下着などを「使い捨て」するか。車がある人は、水道と電気が機能している金沢市内まで2時間以上運転して出かけ、コインランドリーで洗濯したりしているという。

避難所で聞き取りを続ける中でこの状況を知った川邊が輪島市当局と協議したところ、「2月中旬以降に避難所での水道復旧を目指しているので、そのタイミングに合わせて洗濯機が設置できればありがたい」との反応を得た。

国側にも洗濯機の配布などの支援策があるが、役所同士の手続きになるため、市役所側が設置予定個所を全て事前調査したうえで納入計画を書類にまとめて送ったりと事務負担が大きく、市はその作業に人員を割ける余裕にとぼしい。さらに書類不備などがあれば、計画がさらに遅れることになる。

川邊は「我々が寄贈した場合は、市がどこかに書類を出す必要もなく、自由に使ってもらえる。発災から続く激務で疲れ切っている自治体職員の負担を減らすことも、一つの支援と考えた」と語る。 

プロジェクト・コーディネーターの川邊 © MSF
プロジェクト・コーディネーターの川邊 © MSF

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