障がい者4人を抱えるシングルマザー 家は空爆され、避難生活を送る——戦争がイラクに残した深い傷
2018年12月22日過激派勢力「イスラム国(IS)」の支配、そして米国主導の連合軍による爆撃……長年にわたる紛争や経済制裁は、イラクの人びとの心に深い傷を残した。
故郷を奪われ、肉親を亡くした人びとの喪失感は大きい。国境なき医師団(MSF)は、各地のキャンプ内で医療援助をするほか、国内避難民の心のケアにも取り組んでいる。
地元の町はISに支配され、ゴーストタウンに
アムリヤット・ファルージャ避難民キャンプでコンテナ暮らしを続けるラフマンさん一家 © Mohammad Ghannam/MSF
モハマド・ラフマンさん一家は3年前から避難生活を送る。「地元の町アル・カイムで爆撃や銃撃が起こり、2015年9月にバグダッドへ避難したんです」。40歳のモハマドさんはこう話す。
バグダッド生活は長続きしなかった。度重なる抗争や貧困で暮らしが行き詰まり、家を引き払ってクルド人自治区の首都アルビルに居を移した。そこで職を見つけたが収入はわずかで、一家の生計は立てられなかった。
2017年後半以降はアル・カイムから数百キロ離れたアムリヤット・ファルージャの避難民キャンプに身を寄せ、人道援助で命をつないでいる。
荒野にテントとコンテナが点在するアムリヤット・ファルージャ避難民キャンプで、壊れた自転車に乗って遊ぶ少年 © Mohammad Ghannam/MSF
2017年11月、アル・カイムの町はISから奪還された。しかし、1年余り経った今なお町は廃虚のままだ。
妻のウッムさんはこう話す。「テレビでISが倒されたと知って、うちが無性に恋しくなり……残った親類に帰宅を助けてもらえるよう頼みましたが、町は悲惨な状態だと言われました。以前は裕福だった人も貧しくなり、公務員だけが何とかやりくりできていると」。
避難民キャンプでテント生活を送る少年 © Mohammad Ghannam/MSF
「もうアル・カイムへ戻るつもりはありません……。イラクそのものを離れたい。紛争に怯え、貧困にあえぐ生活はもうたくさんです。このキャンプでは援助物資を受け取ることもできますが、それでは10日持つかどうかです。それでも、地元で暮らすよりはマシなんです」(ウッムさん)
障害を持つ子どもたちを70歳の母親が介護 心身も限界に
アムリヤット・ファルージャ避難民キャンプで暮らすナダマさん一家 © Mohammad Ghannam/MSF
ラフマンさん同様、アル・カイムから逃れて来たナダマさん(70歳)。自宅は空爆で全壊した。
コンテナの仮設住居に同居する4人の子どもには先天性の障害がある。夫が2004年に腎不全で亡くなって以来、女手ひとつで子どもたちを育ててきた。イラク戦争の当時、医療は著しく不足していた。
ナダマさんは疲れ果て、いら立ちを隠せない。「どん底の暮らしです。老骨にむち打って子どもたちの食事や入浴を介護していますが、何の援助もなく、この砂漠のキャンプにいつまでいるのかも分かりません。時々、怒りが爆発しそうになるんです」。
避難民キャンプで活動するMSFの精神科医アメル・ジャセムはこう語る。「年齢を問わず、多くのイラク人が心の傷を抱え、睡眠障害と不安症に悩まされています。特に子どもや10代の若者への影響は深刻です。学習障害、発話障害、神経症、攻撃性が見られる子が大勢います」。MSFは薬物療法や心理療法を取り入れ、傷ついた避難者たちの心のケアを行っていく。