薬物におぼれて、家族も家もなく……。路上生活する薬物中毒者がたどり着いた場所

2019年11月26日掲載

イラン・首都テヘラン。テヘラン南部にある国境なき医師団(MSF)診療所では、医療が受けにくく、感染症にかかりやすい人びとを中心に診療を行っている。患者の大半が、薬物を頻繁に使っている路上生活者。MSFのプロジェクト・コーディネーターのエステル・トマが活動について語った。 

患者をケアするMSFスタッフ © MSF患者をケアするMSFスタッフ © MSF

300万人の薬物中毒者がいるイラン

アウトリーチ活動(医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動)に取り組むスタッフ © MSFアウトリーチ活動(医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動)に取り組むスタッフ © MSF

「いまは朝7時15分です。最初の患者さんたちがMSFの診療所に姿を現し始めました。8時に受け付け開始です。必ずしも早起きに慣れた人たちではありませんが、早く温まろうと早めにやって来ます。寒い晩を路上で過ごした後だと、暖房と、MSFの診療所にいるMSFスタッフの人間性の両方が嬉しいようです。

ここテヘラン南部では患者の大半が路上生活者で、その多くは薬物を使用しています。薬物を使用したために路上生活者になった人もいますが、住む場所がなかったから薬物を使い始めたという人もいます。誰もが苦しい立場にあり、定職に就いている人はいません。例外的に、ごみの収集・販売や非合法の仕事をしている人もいます。家族がいる患者さんもいれば、家族がいない人もいます。全員に共通しているのは、こうした生き方のために、社会から締め出されているということです。地元のシェルターで一晩を明かすこともたまにありますが、普段は路上で寝泊りするか静かな場所を見つけて薬物を使い、午後から翌朝までそこにとどまっています。そうした場所は数え切れないほど多くありますが、大体は公園で、他にも、歩道や町の南側にあるバスターミナル周辺の通りなどがあります。

イランでは総人口8400万人の3.5%にあたる、300万人近くの人が 薬物中毒であると麻薬取締局は発表しています。MSFの診療所周辺は、テヘラン南部でも貧困と人口過密な歴史を刻んできた地区です。薬物中毒者は主に、ヘロインとメタンフェタミン(覚せい剤)を使用しています。あぶって煙を吸い込む加熱吸煙か、吸引して使用しています。薬物を注射する人はあまりいないため、汚い針を介して病気をうつすリスクは比較的低いです。

路上生活者、セックスワーカーや少数民族のゴルバティ民族と同様に、イランでは薬物常用者に偏見があるため、薬物常習者にとって医療機関受診は難しいのです。テヘラン南部でMSFはこの診療所を運営し、無償の医療を担っています。診療内容には心理・社会面の支援も含まれており、いまお話した全ての人たちに対応しています」

仕事を求めて都会へ……そこでクスリに溺れた……

テヘラン南部にあるMSFの診療所 © MSFテヘラン南部にあるMSFの診療所 © MSF

「モハメッドさん(40歳)は、今日初めてMSFの診療所に足を運びました。25年前、まだ15歳だった時に実家を出て、テヘランで仕事を探したそうです。しかし仕事が見つからず、市内に手助けしてくれる親類もいないまま、モハメッドさんはクスリに溺れてしまいました。クスリのため幻覚がたびたび現れ、テヘランの公園で寝泊りしています。そこでMSFの移動診療チームと出合いました。

モハメッドさんは、医師のアイーダによる診療と、健康教育担当のマリアムによるカウンセリングを受けた後、HIV、B型肝炎とC型肝炎、梅毒、結核を含めた感染症の検査を受けました。C型肝炎の検査で陽性反応が出た時には、無償の治療とサポートをMSFの診療所で受けることができます。また、HIVか結核に陽性反応を示した時には、国の治療プログラムに紹介しています。

モハメッドさんの検査結果は、C型肝炎に陽性反応が出ていました。アイーダとマリアムに会って、 病気についての説明を受けました。きちんと治療を受ければ治る、MSFの医師、看護師、心理療法士、ソーシャルワーカー、地域保健担当者がサポートし、治療薬をきちんとのむとともに幻覚に対処していきますと。次に紹介されたのは地域保健担当者のネダです。ネダは、連絡役として予約の日が近づいたときにお知らせもすることで、治療全期間を通してモハメッドさんをサポートしていきます」

サポートがなければ入院もできない

現場で活動するMSFスタッフ © MSF現場で活動するMSFスタッフ © MSF

「MSFの医師が医療と心理・社会面の問題を抱えた患者を見つけた場合、よその専門医に紹介して、その後患者が診察、精密検査、入院などを受けるようにしています。これまで、心臓の病気や精神障害などを抱える患者がいました。入院治療が必要な患者は、ソーシャルワーカーのサポートを受けて入院手続きを進めています。大抵の人は入院治療になじみなどなく、サポートがなければ断られてしまう可能性もあるからです。

MSFチームは、地域保健担当者、健康教育担当スタッフ、同じ境遇を体験した元患者がサポートを担う『ピア・ワーカー』などの15人で構成されています。マリアムやネダもこのチームのメンバーです。テヘラン南部の地元に住んでいるため、薬物常用者、路上生活者、セックスワーカーがどこにいるのかを知っていて、実態も理解しています。医療を必要としていそうな人びとを探し当てることができるので、MSFの診療について教えるとともに、MSFの診療所と、市内とその近郊で週に数回行われる移動診療に案内しています。

チームは、感染症をうつすリスクについても教え、日々、患者をサポートしています。またソーシャルワーカーを中心に、患者家族、シェルター、慈善団体との関係を作り上げます。他の機関へ紹介するときには患者に付き添い、MSFの診療所を初めて受診する患者の手助けをします。

MSFの診療所は、午後4時半で受け付け終了となります。移動診療はもう少し遅い時間まで開いています。薬物常用者はたいてい、午後の遅い時間に集まるからです。やがて患者は一人、またひとりと町に消えていきます。多くは、市内に点在する公園か路上のねぐらに向かっています。翌日は、朝早くからMSFの診療所に来ることで一日を始めるでしょう。少なくともMSFの診療所であれば、温かく迎えてもらえますから」 

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