私の心は殺された──ハイチで横行する性暴力の現実と被害者の叫び
2025年01月23日
カリブ海に位置するハイチ。その首都ポルトープランスにおいて深刻な問題となっているのが性暴力だ。
近年、現地では、暴力と治安悪化のなかで、レイプなどが横行しているのだ。その被害者たちに向けた避難施設、心のケア、医療ケアが緊急の課題となっている。
2015年より、国境なき医師団(MSF)は、ポルトープランスにあるプラン・メム診療所で、性暴力被害者に向けた医療や心のケアにあたってきた。2024年11月、スタッフや患者に対する脅迫があったため、MSFの医療活動は首都全域で一時停止した。しかし、翌12月には活動を再開し、現在も24時間体制で無償医療を続けている。

いま課題の一つとなっているのは、彼らの安全な居場所です。性暴力を受けた人びとへの医療は可能です。しかし、安全な日常生活に戻るための場所が確保されていないのです。
MSFハイチ活動責任者 ダイアナ・マニラ・アロヨ
武装集団と性暴力
近年、ポルトープランス一帯では、武装集団と警察との衝突が相次いでいる。治安悪化によって、公立病院なども次々と閉鎖に追い込まれた。
暴力が横行する中、MSFがポルトープランス一帯において治療にあたった性暴力被害者は、2022年で1775人、2023年で3207人であり、2024年は4463人にのぼった。この3年間で急増しているのが分かる。
また、MSFはポルトープランスにおいて、移動診療を通じた被害者ケアにもあたった。被害者の中には、身近なパートナーから暴力を受けた人も多い一方で、2022年半ば以降は、見知らぬ人からの被害件数が増加している。

「父の家にいた時のことです。誰かがドアをノックしました。そして、外から『ドアを開けないと撃つぞ』という声が聞こえてきました。ドアを開けると、武装した覆面の男が3人いました。そして、拒否すれば殺すと脅してきたのです。その日、私はこの3人から性的暴行を受けました」
私の心は殺されたのです。襲われた時の記憶が私を苦しめ、涙が止まらないのです。
行き届かない支援
現在、ハイチは社会的に混乱している。それゆえ、被害者が司法に被害を訴えたり、行政当局に保護を求めたりすることも難しくなっている。
性暴力被害者の多くは、ポルトープランス市内にある国内避難民が集まる地区で暮らしており、そこでも多くの危険にさらされている。ほかにも、路上で寝泊まりしたり、性暴力を受けた地域に戻るしかない人もいる。
ポルトープランスには、性暴力被害者に特化した避難施設は数カ所しかしない。その収容能力も非常に限られており、数日間しか滞在できないこともある。
子どもがいること、特定の疾患を抱えていることを理由として、受け入れを拒否されることもある。被害者の中には、経済支援や司法救済を求める人も多い。しかし、彼らへの相談体制も十分に整備されていない。
被害者が心身ともに回復していくには、医療と心のケアが不可欠だ。MSFが対応にあたった患者の1人は、こう語っている。
心理士の女性に話を聞いてもらったんです。それで気持ちが楽になりました。彼女は、医師によるサポート体制についても教えてくれました。
被害者自らが最善の選択をできるように
被害者が回復していく段階の一つ一つにおいて、医療と心のケアを受けられるようにしなければならない。被害者本人の状況に応じた医療体制が重要なのだ。たとえば、被害を受けた直後には、HIV予防薬や避妊措置などの速やかな対応が求められる。
アロヨは最後にこう語った。
「性暴力被害者の誰もが、自分の健康と将来について十分な情報を受け取り、自ら選択していく権利があります。医療、心のケア、社会経済支援、避難施設、保護体制などに関する情報は、広く周知されるべきです。また、そうしたサービスを誰もが受けられるようにすべきです」
被害者が自らの尊厳、健康、身体について、自分自身で最善の選択ができるようにすべきなのです。
MSFハイチ活動責任者 ダイアナ・マニラ・アロヨ
