ハイチのMSF病院に花が咲く 日本の画家が森の壁画をプレゼント

2019年08月22日

国境なき医師団(MSF)のハイチの病院。真っ白だった壁に、日本の画家ミヤザキケンスケさん(40歳)らが絵を描いた。

テーマは、ハイチの童話「魔法のオレンジの木」。継母にいじめられた娘とオレンジの木の物語だ。この民話に着想を得て、ハイチの真っ青な空と木々、そこに戯れる動物たちを壁画にすることにした。

病院の入り口にある外来病棟には、フラミンゴが飛び、サルが跳びはねる。  

小児科病棟に続く廊下には、気球が飛ぶ。 

小児科病棟には、花が咲いた。 

夜はこんな雰囲気になる。 

ミヤザキさんは、2006年から3回、ケニアのスラム街にある小学校に絵を描いたことをきっかけに、壁画を描いて世界をつなぐことを目的とする「Over the Wall」(オーバー・ザ・ウォール)プロジェクトを立ち上げた。

2016年に東ティモール、2017年にウクライナ、2018年にエクアドルを訪れ、作品を残してきた。 

今回は初めての病院での作品作り。中学生のときに、テレビ番組でMSFを知って以来、いつか一緒に活動したいと思っていたという。

6月28日、プロジェクトメンバーである義弟のイ・チャンハンさん、その友人ソン・ミヌクさん、インテリアデザイナー兼パン屋経営の山田拓也さんとハイチに赴いた。そこに、ハイチ人の通訳ジェファーソン・ヴォルテールさんが加わった。

7月1日、作品づくりに着手。日本から、花や動物の写真をカラー印刷した用紙60枚を持ち込んだ。それをお手本に、MSFの病院スタッフ、患者やその家族が、モチーフを一つひとつ壁に描いていった。

ミヤザキさんが下絵を描いて…

子どもらが花の写真を参考に色を塗っていく。 

こうして描かれた参加者の絵を生かす形で、ミヤザキさんが周りを完成させていく。 総勢60を超える人たちが筆を取った。

少しずつ完成していく壁画は、患者さんたちの楽しみに。「病院スタッフと患者さんが話しながら、絵を描いているのが印象的でした」とミヤザキさん。

こんなに小さな子も参加してくれた。 

やけどを負って、リハビリに励む患者さんも参加してくれた。 

ひどいやけどを負って、半年入院していた小学生の男の子。きょうだいの世話をしなくてはならない家族が見舞いにくる機会も限られ、ベッドでひざを抱えて、ふさぎ込むことも多かった。壁画プロジェクトが始まると、外に出てきて、モチーフを三つ完成させてくれた。「『ここに自分が描いたんだ』って誇りに思ってもらいたい」とミヤザキさん。 

高校生の女の子ジュシーさんは、自宅でガスが爆発して、大やけどを負ってしまった。初日から毎日、絵を描いてくれた。 

「絵を描くのは共同作業。だから、共有した時間が形となって残り、みんなの思い出になります」とミヤザキさん。「どの国に行っても、みんな絵は大好き。人種や言葉は違っても、絵を完成させるという一つの目的のもと仲良くなれる。仲間になれるんです」

白かった病院の壁が…… 

こんな美しい姿になった。 

1日約10時間、2週間余り描き続けたミヤザキさん。脚立の昇り降りで脚はパンパンになり、「右手の人差し指はけいれんを起こすぐらい痺れ、感覚も無くなった」。それでも「100%%の力を出し切ったと言うためには、まだまだやれる」と最終日に最後の絵を描きあげた。

スタッフが休憩するレファレンス・ルームに木が生えた。木の下にいるのはMSFのスタッフたち。 

7月17日、完成お披露目会が開かれた。MSFの憲章は「人種、宗教、信条、政治的な関わりを超えて差別することなく援助を提供する」とうたう。人種や宗教などと関係なく絵でつながる壁画プロジェクトと、同じコンセプトだ。 

「Over the Wall」プロジェクトが手がけてきた壁画にはいつも、太陽がある。世界はいろんな国に分かれている。争ったり、仲良くなったり。でも、「世界中どこでも同じ太陽がある」。

※写真はいずれもOver the Wall提供 

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