アフガニスタン各地で激化する戦闘 緊張続く現地の医療はいま
2021年08月13日
アフガニスタンでは、政府軍と反政府勢力タリバンとの間で続く戦闘が今年5月以降一層激しさを増している。現地時間8月9日未明には、国境なき医師団(MSF)が支援するヘルマンド州ラシュカルガにあるブースト病院の救急処置室付近で、ロケット弾が爆発する事件も起きた。
「人口密度の高い地域でも容赦なく攻撃が行われています。民家が爆撃され、大勢の人がひどいけがを負っています」。ヘルマンド州でプロジェクト・コーディネーターを務めるサラ・リーヒーがこう語るように、各地で銃撃や爆弾などによる死傷者が増加し、数十万人が戦火を逃れるために避難を余儀なくされている。
こうした状況は、現地の医療にどのような影響を与えているのか──。MSFが活動するラシュカルガ、クンドゥーズ、カンダハルから現状を伝える。
手術件数が10倍に ラシュカルガ、ブースト病院
MSFが支援するヘルマンド州ラシュカルガのブースト病院は、充実した機能を備え、新生児科、小児科、外科、入院・集中治療や、栄養失調のケアなど、地域の必須医療を支える州内唯一の基幹病院だ。スタッフは戦闘音で十分な睡眠もとれない中、全診療科・部門の業務を維持し、8月の1週目には大勢の戦闘負傷者を治療した。
リーヒーは言う。「これまでラシュカルガでは、他団体が運営する医療施設が中心となって外傷患者への対応をしてきたため、MSFが行う手術は1日に2件程度でした。しかし戦闘によって負傷者の数が急増し、20件もの手術をすることもありました」
5月3日から7月31日までにMSFが治療した外傷患者の数は482人に上り、その9割以上が銃弾や砲撃によって負傷した人たちだ。また18歳未満の若者や子どもの患者も全体の約4分の1を占めているが、こうした数字は、暴力によって負傷した人たちのほんの一部にすぎないと推察される。
外傷の治療以外にも、人びとが安心して医療が受けられる環境が失われている。保健医療体制がぜい弱なこの国では、暴力によって医療アクセスが奪われるのだ。多くの人が危険を恐れて病院に行くことを控えたり、重症になるまで自宅で待機したりする。ブースト病院でも5月以降、到着した時に重症になっているケースが増加した。
救急処置室・集中治療室の医師は「医療の必要な身内がいても、皆、本当に病院に行くことが必要か何度も迷い考えます。2~3日が経過し、呼吸が浅く反応がなくなって、それ以上待てない状況になって、ようやく来院するのです。ほぼ、手遅れの状態です」と語る。

MSFのオフィスを治療施設に転用 クンドゥーズ

🄫 Felipe Treistman/MSF
外来診療については2018年から建設を進めている新しいクンドゥーズ外傷センターへの移転を進め、さらに市外にあるチャルダラ地区の派出診療所も支援している。
遠隔通信を活用した診療を カンダハル
南部のカンダハルでも、多くの人が危険を恐れて病院に行くことを控え、重症になるまで自宅で待機している。実際、MSFの救急処置室、新型コロナウイルス感染症治療センター、外来診療所では、暴力の広がりに伴い患者の数が減少したことが確認されている。
こうした状況を受け、カンダハルの薬剤耐性結核(DR-TB)プロジェクトでは、来院のために患者が戦闘地域を通らずにすむよう、遠隔通信で診療を行ったほか、備蓄薬を多めに処方するなどの対応を実施した。救急医療、出産、慢性疾患などに対する医療ニーズは、たとえ紛争下であっても途切れることはない。
医療施設とスタッフの安全確保を
戦闘が及ぼすMSFスタッフへの影響も深刻であり、医師の中にはこう訴える者もいる。「スタッフはみな疲弊しています。患者さんが急増しほとんど休む暇もない上に、自宅に残した家族のことも心配でたまりません」
戦闘が都市部に及んでも病院は業務を続けるが、8月9日にブースト病院でロケット弾が爆発したように、MSFの施設やスタッフは危険にさらされている。いかなる状況においても、全ての医療施設、スタッフは安全を保障されなければならない。
MSFはブースト病院のあるラシュカルガ州をはじめ、ヘラート州、カンダハル州、ホースト州、クンドゥーズ州の5つの州で需要の高い医療の提供を続け、刻々と変わる医療ニーズに可能な限り対応していく。