アフリカなど:フィスチュラ対策、MSFが果たすべき役割は?
2013年06月05日国境なき医師団(MSF)は、アフリカのブルンジなど複数の活動地で、産科フィスチュラの予防および修復手術を提供している。国連は2013年から、毎年5月23日を「産科瘻孔を根絶するための国際デー」と定め、対策を進める姿勢を示している。MSFのヘールト・モレン外科医に、フィスチュラによる身体的・社会的苦痛と、この問題に目を向けなければならない理由を聞いた。
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難産で発症、社会から疎外されることも

患者も少なくない
産科フィスチュラは、膀胱(ぼうこう)と膣、または膀胱と直腸の間に空いた孔(あな)で、排泄物が絶えず身体から漏れ出る原因となる。一般に難産が原因で、胎児の頭部が母親の骨盤を圧迫し、組織への血流が一定時間を超えて止まった場合に発生する。胎児が亡くなってしまうことも多い。
モレン医師は「母親にとっては心の痛む体験です。長時間の難産に苦しむだけでなく、赤ちゃんを亡くした上、失禁の原因となるフィスチュラを患うのです」と説明する。フィスチュラの身体的影響が、社会的疎外に帰結することも少なくない。ただ、幸いなことに、フィスチュラは大半の症例が外科処置で治療できる。
治療が必要な女性は100万~200万人
フィスチュラは、保健医療体制の機能していない場所では珍しいものではない。出産時に技能の確かな助産師の立ち合いがあれば、フィスチュラが発生するリスクは低くなる。モレン医師によると、フィスチュラは女性が医療を受けられない場所での発症が多いという。
モレン医師は「この問題の社会的側面は常に念頭に置いていなければなりません。貧しい女性が最大の被害者なのです。1日平均100~150人の女性がフィスチュラを発症しているという推計もあります。治療の必要な女性は今も、100万~200万人に上ります」と指摘する。
優先すべきは治療か?予防か?

生活へと帰っていく(ウルムリ・センター)
しかし、残念ながら、フィスチュラの修復手術を進んで担当する地元の外科医は少ない。洗練された医療器具は必要ないが、技術的にかなり難しく、その習得に一定の時間を要するためだという。また、患者の大多数が貧しいため、報酬のいい仕事ではないことも理由に挙げられるという。
すべてのフィスチュラ患者を救えるほどの人数の外科医が今後も確保できないのであれば、質の高い産科医療による予防が鍵となる。これはMSFにとっては難しい選択だ。フィスチュラ治療のできる産婦人科医を育成すべきか?分娩に立ち会う熟練助産師の確保を重視すべきか?言い換えれば、治療と予防のいずれを優先すべきかということだ。このジレンマはどうすれば解消できるだろうか?
モレン医師は「MSFでは、予防を視野に入れたフィスチュラ治療プログラムを行っています。ブルンジの例で言えば、ブジュンブラ近郊県カベジに専門産科センターを、また、ギテガ県にフィスチュラ治療センターを設置しています。これらの施設でフィスチュラの修復手術を受けた患者は1000人を超えます」と話す。
モレン医師は、フィスチュラ治療のできる産婦人科医の育成において、MSFが中心的な役割を担えるとみる。「MSFはギテガ県の地元外科医の研修に力を注いできました。技術を習得したブルンジ人医師が増えれば、MSFは活動を引き継ぎ、撤退することができます。MSFにとっては、それが1つの成果なのです」
ウルムリ・センター
MSFはブルンジで、救急産科医療と産科フィスチュラの修復を中心とした母子保健に重点を置いている。同国の医療不足は特に女性への影響が大きい。世界保健機関(WHO)によると、年間4000人の女性が分娩の際に亡くなり、約1200人に産科フィスチュラが発生しているという。
中部のギテガ県にあるウルムリ・センターでは、MSFが無償で、産科フィスチュラ患者の女性に24時間体制の医療を提供。2012年の修復手術は300件を超えた。地元の医師2人を対象に外科技術の研修も始まった。