エーゲ海に浮かぶ「監獄の島」から届いた精神科医の手紙

2018年09月27日

レスボス島のモリア・キャンプで暮らす難民の子どもたちレスボス島のモリア・キャンプで暮らす難民の子どもたち

エーゲ海に浮かぶギリシャのレスボス島が、今、閉鎖された監獄のような場所になっている。ここは、アフリカや中東から欧州へ逃れてきた難民・移民が命をかけて海を渡り、たどりつく場所。ギリシャ政府が管理するモリア難民キャンプでは、劣悪な状況で9000人もの人びとが勾留され続けている。キャンプで医療援助を行っている国境なき医師団(MSF)の精神科医が、難民たちの悲惨な状況を綴っている。 

アレッサンドロ・バルベリオ
臨床精神科医/国境なき医師団(MSF)ギリシャ・レスボス島プロジェクト

MSF精神科医のアレッサンドロ・バルベリオMSF精神科医のアレッサンドロ・バルベリオ

私はイタリア・トリエステの精神保健科で臨床精神科医として14年勤務してきました。精神科救急の専門家と呼ばれ、依存症や精神疾患の併存を抱える人びとに携わっています。また、人身売買の被害者の治療、難民や抑留施設に収容された人の心の健康支援、保護・社会復帰プログラムへの助言も行っています。これまでの職務を通じ、複雑な背景や危機的な状況のもとで、相応の臨床・実務経験を積んできました。

長年、医療に携わってきましたが、現在のレスボス島ほど、圧倒的な数の人が深刻な心の不調に苦しむ姿を目にしたことはありません。大多数が精神病の症状で、自殺を考えたり、実際に自殺しようとしたり、混乱した状態です。十分な睡眠や食事をとったり、身の回りを清潔にしたり、意思疎通などのごく基本的な日常の行動さえも満足にできない人が大勢いるのです。
 

シリアから家族とともに逃れてきた55歳の男性の腕には、無数の傷が残るシリアから家族とともに逃れてきた55歳の男性の腕には、無数の傷が残る

この島のモリア・キャンプで受け入れられる人数は最大3100人ですが、今は9000人以上を抱えています。3分の1が子どもで、ひどい環境で過ごしており、心身の健康が悪化しています。

自国にいるときも国外に脱出してからも、ひどい拷問や暴力にさらされた人たちは、心身に重い傷を負っています。レスボス島の生活はまるで監獄です。日々、年齢に関わらずあらゆる暴力にさらされ、人びとの心には危険な精神症状が繰り返し引き起こされています。島にたどり着く人が増える一方、本土へ出ていく数はあまりにも少なく、状況は悪化し、心の健康がますます損なわれているのです。

モリアと、ミティリーニの町の診療所では、私の同僚であるスタッフが連日、小児科や心のケアなどの医療活動に奮闘しています。彼らは、症状の重い大勢の患者に疲労困憊しながらも、放置されたニーズに対応しようと努めているのです。
 

レスボス島のごみ捨て場には難民が身につけていたライフジャケットが散乱するレスボス島のごみ捨て場には難民が身につけていたライフジャケットが散乱する

難民を庇護する制度は崩壊し、キャンプの滞在環境が急速に悪くなっていても、ギリシャ政府・ヨーロッパ連合(EU)・国連難民高等弁務官事務所はこの危機に十分に対応していません。状況を変えるための条件さえそろっていません。新しい患者は増え続け、これまでよりも重篤な精神疾患患者も増えるばかりです。この状況は、すぐには変わりそうもありません。

現行の封じ込め政策が続く限り、患者たちには精神面のケアが必要でしょう。追い詰められた人びとは、庇護申請の結果を待つ間にもストレスと圧迫感にさらされます。ひどい滞在環境と繰り返される暴力、認められるべき自由と権利はなく、心身の健康は悪化するばかりです。今、レスボス島はまるで、患者の人権も認められない閉鎖された精神病院のような場所になっています。
 

モリア・キャンプに勾留されているシリア人男性モリア・キャンプに勾留されているシリア人男性

日々レスボス島で目のあたりにする紛れもない人権侵害と、深刻な医療・精神ケアのニーズから、モリア・キャンプは明らかに緊急事態にあります。現状を理解せず、すぐに断固とした行動を起こさないのは合理的でも倫理的でもありません。私は、長年の臨床経験と複雑な背景の分析から、今後何週間かのうちに状況がさらに劇的に悪化しかねないと強く懸念しています。暴力がさらに過熱すれば、レスボス島は混沌に陥るでしょう。 

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