たどり着いたフランスで待ち受ける苦難 極寒の冬に野宿を強いられる未成年の移民たち

2020年02月27日

内戦、紛争、飢餓などから逃れるため、アフリカや中東地域からヨーロッパ大陸を目指す大勢の難民や移民たち。しかし、希望を求めてたどり着いたとしても、彼らを待っているのは、必ずしも平穏と幸福ではない──。  

パリ郊外にて、移民の人びとが焚火で寒さをしのいでいる光景 © Mohammad Ghannam/MSF
パリ郊外にて、移民の人びとが焚火で寒さをしのいでいる光景 © Mohammad Ghannam/MSF

フランスでは数百人の移民と庇護希望者が、いま野宿を強いられている。フランス政府には、彼らに寒さをしのぐ宿泊先を提供する義務があるが、それを怠っているのだ。そこで、国境なき医師団(MSF)は、パリとマルセイユで現地の団体と連携して、宿泊施設を緊急提供。保護者のいない未成年者150人が利用している。

コネさん、アルファさん、ブバカルさん、メディさんに話を聞いてみた。みな15歳から17歳の未成年。コートジボワールギニアモロッコの出身だ。

「寒くて寝つけない夜もあります」と16歳のコネさんは語る。コネさんは、友人たちとともに、寒さで震えながら、一晩中、木の板を焚火にくべて過ごしている。夜明けまで一睡もできないことが多いという。

マルセイユで過ごすメディさんは、乗り捨てられていた車で寝泊まりしていたそうだ。窓をテープでふさいで冷気を防いだ。パリで過ごすブバカルさんは、一晩中パリ市内を循環するバスに乗車して寝るようになった。いくらか温まるからだ。ブバカルさんは、重い病気があるため、MSFスタッフによる治療を受けている。

受けられるはずの保護が受けられない

パリ郊外でバスを待つ移民の人びと ©Mohammad Ghannam/MSF
パリ郊外でバスを待つ移民の人びと ©Mohammad Ghannam/MSF

公的な保護を受けるには、18歳未満で保護者がいないものと認定されなければならないが、この年齢層は「自立できるはずだ」「成熟している」「フランスに来るまでのいきさつが不明瞭」などの理由で、県の審査当局に未成年者と認められないことが多い。

一方、マルセイユでは、保護者のいない未成年者と公的に認められた10代の若者たち──すなわち、社会保障を受ける資格がある者たち──でさえ、路上で寝泊まりしているのだ。当局は、宿泊施設が足りないためと説明している。

フランス政府には、冬のあいだ、あらゆる路上生活者に向けて、緊急の宿泊先を無条件で提供する義務がある。しかし、地元当局も中央政府も、こうした弱い立場にある若者たちに対して、その義務を果たしていない。

頼れる人もなく、フランスの路上で暮らす若者たち。悲惨な生活環境に追いやられ、衣食住にも事欠くありさまだ。空腹を満たす、体を洗う、服を着る、平穏に過ごす──そのようなささやかな人間の営みすら、彼らにとっては容易に手が届くものではない。慈善団体、地域団体、個人による寄付などの支援に頼らざるを得ない状況だ。 

野宿を強いられ、暴力におびえる若者たち

ポルト・ドーベルヴィリエの仮設キャンプ ©Mohammad Ghannam/MSF
ポルト・ドーベルヴィリエの仮設キャンプ ©Mohammad Ghannam/MSF

若い移民や庇護希望者がパリに来れば、たいていの場合、仮設キャンプで寝泊まりできた。パリ市の周りにはそうしたキャンプが点在していたが、3カ月前から当局が撤去に乗り出したのである。

ブバカルさんは、パリ郊外にあるポルト・ドーベルヴィリエのキャンプに着いた日のことを語る。「ここで寝るなんて絶対に無理だと最初は思いました。想像してみてください。フランスにたどり着くまでに、地中海でどれだけの人間が死んだか。そこまでしてフランスまでやってきて、待っているのは路上生活です。でも、ほかにどうしようもありません。こうしてしのぐしかないのです」

ブバカルさんは、県当局の審査によって「成人」と認定されたため、その後2カ月も路上生活を続けた。最近になって、少年裁判所が「未成年」と裁決して、ようやく社会保障を受けられるようになった。

路上で暮らす彼らは、今の生活が危険に満ちており、家族も友人も支援の輪もないと、口々に訴える。15歳のアルファさん(ギニア出身)は語る。「一番危ないのは一人きりになることです。集団で集団に暴力をふるっている光景も見かけます。みな無言です。すごく心が痛みます」。アルファさんは、テントを張って暮らしていた仮設キャンプで襲われた。わずかな持ち物を盗まれた翌日、盗んだ男性を見かけて返してほしいと要求したところ、暴力をふるわれたのだ。
 

MSFは未成年の移民向けに生活支援を実施

移民向けの医療支援に従事するMSFスタッフ ©Mohammad Ghannam/MSF
移民向けの医療支援に従事するMSFスタッフ ©Mohammad Ghannam/MSF

MSFは、パリにおいて現在65人の未成年者を保護。パリ郊外パンタンに設置したデイ・センターにて、治療と心のケア、法と社会面の支援に取り組み、900床の緊急宿泊先を提供してきた。2017年12月に開設して以来、1520人の若者が、このセンターで支援を受けた。一方、マルセイユでも、MSFは現在60人に緊急宿泊先を提供。また、慈善団体や草の根団体も、ネットワークを作って彼らを支援し、公的機関の怠慢を補っている状況だ。 

この記事のタグ

関連記事

活動ニュースを選ぶ