「私は"水の何でも屋"」 エチオピア、内戦で傷ついた村に水を

2023年08月18日
ティグレ州の村で手押し井戸ポンプの点検作業をするアセファ(右) © Gabriella Bianchi/MSF
ティグレ州の村で手押し井戸ポンプの点検作業をするアセファ(右) © Gabriella Bianchi/MSF

「私は"水の何でも屋"です。最高にやりがいのある仕事ですよ」。こう話すのは、国境なき医師団(MSF)で水と衛生の専門家として、エチオピアにて活動するウェルデキロス・アセファだ。

2020 年から政府軍と反政府勢力との戦闘が激化したティグレ州。紛争の影響で、水が手に入りにくい状況が続いていた。アセファはいまティグレ州のメイクウェートという小さな村で、手押し井戸ポンプの点検作業に取り組んでいる。ここではMSF の支援によって、600台のポンプが修理され、2 年ぶりに清潔な水が使えるようになった。

破壊された水設備 感染症が広がった

「戦闘が激しくなった時、村の人びとは 1 週間ほど森の中に逃げ込んでいました。戻ってみると、電気は止まっているし、手押し井戸ポンプも壊されている。石が詰められていたそうです。村民たちは水が使えなくなってしまいました」とアセファは話す。

その結果、メイクウェート村の人びとは、1.5 キロ歩いて川から水を汲んで来なければならなくなった。すると、多くの人びとが下痢で体を壊していった。川の水は料理や飲料に使われたが、洗うことには使われなかった。清潔な水で洗わなければ、病気が広まる危険が高まるのだ。

2022 年 11 月、停戦が合意された。2 年間の紛争によって、この地のインフラは壊滅的な損害を受けていた。医療施設も、ほとんど機能不全の状態だった。

同月にティグレに戻ったMSF は、取り組むべき最優先課題として、医療施設への給水網を復旧させること、廃棄物処理システムを再構築させることにフォーカスした。例えば、ティグレ州シレの拠点病院であるスフル病院では、安全な水を再び使えるようにするほか、トイレ、シャワー、洗濯場も整備した。同時に、焼却炉も設置している。注射針、注射器、使用済包帯などの医療廃棄物を処理するためだ。それにより、病院の近辺にあったゴミの山を除去することができた。この山のなかに、危険な医療廃棄物がどれだけあったことか。

わが子の予防接種のためにMSF施設に来た女性。「村が戦場になって、みんな逃げ出しました。2カ月後にようやく村に戻ることができて、私はその1カ月後に出産したんです」 © Gabriella Bianchi/MSF
わが子の予防接種のためにMSF施設に来た女性。「村が戦場になって、みんな逃げ出しました。2カ月後にようやく村に戻ることができて、私はその1カ月後に出産したんです」 © Gabriella Bianchi/MSF

コレラの流行を防ぐ

もうひとつの最優先課題となったのが、安全な水を人びとの家庭に届けることだった。各家庭が清潔な水を使うことこそ、急性水様性下痢、皮膚病、眼病、寄生虫による病気など、水系感染症の流行に対する防御壁となるのだ。さらに、清潔な水の不足によるコレラ流行には、特に注意を払わなければならない。

今年の4月末、ティグレ州シェラロの一角にある小さな村で、10 歳の少年が医療施設に向かう途中に死亡した。その後、この村では、急性水様性下痢が数件発生。これを受けて、MSF チームは、村の 120 世帯に浄水剤を配り、ほかに病気になっているケースがいないか確認作業も実施した。すると、死亡した少年のきょうだい 2 人がひどい下痢をしていると分かった。MSF チームは、コレラ流行に備えて、シェラロに設置した隔離センターに 2 人を入院させた。

こうした状況にあるため、MSF チームは、車で 2 時間の距離にある拠点病院のスフル病院にも入って対応に追われた。同病院では、コレラ治療センターを改修し、コレラが流行した場合に備えて対応能力を強化するため、スタッフに研修を行っている。

MSF の水・衛生チームリーダーで、現地を調査したチームの一人、ダニエル・シュモンディは、次のように語る。「村の状況は本当にひどいものでした。井戸がないので、村の住民たちは川の水を利用していた。自宅の近辺で野外排せつもよく行われていたようです」

ティグレ州で給水活動に取り組むMSFチーム。MSF は、6 つの避難民キャンプに毎日最大 140 万リットルの安全な水を供給している © Gabriella Bianchi/MSF
ティグレ州で給水活動に取り組むMSFチーム。MSF は、6 つの避難民キャンプに毎日最大 140 万リットルの安全な水を供給している © Gabriella Bianchi/MSF

人びとに安全な水を

国境付近にある村アデメイティ。この村で暮らすアディサレムさんが、まだ朝も早いうちから、手押し井戸ポンプの修理に必要な資材をラクダに積んでいる。

「この村では、住民のほとんどが(避難先から)戻っていません。まだ、キャンプや受け入れ先の家で暮らしているんです」と、アディサレムさんは話す。

情勢がまだ不安定なこともあり、紛争からの復興は遅れたままだ。ティグレの水インフラは、何回もコストをかけて修理されているが、そのたびに、再び略奪されたり、意図的に破壊されたりしている。そうした理由から、援助団体は大規模な活動の開始に踏み切れずにいる。

復興に合わせて、安全な水をもっと供給できるようにしなければならない。衛生環境も全面的に改善しなければならない。そのために、さらなる力が必要だ。
ポンプの修理資材をラクダに乗せるアディサレムさん © Gabriella Bianchi/MSF
ポンプの修理資材をラクダに乗せるアディサレムさん © Gabriella Bianchi/MSF

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