「毒ヘビの治療薬か棺桶か……」 コロンビア、ジャングルの奥地で直面する現実 

2020年12月21日掲載

ジャングルの奥の活動地へ向かう医療チーム © Steve Hide/MSFジャングルの奥の活動地へ向かう医療チーム © Steve Hide/MSF

「毒ヘビにかまれた人に売る伝統治療薬は、棺桶と同じ値段です。どちらを選ぶかはあなた次第」

そう話すのは、コロンビアで伝統医療を伝承する年配の女性だ。南米最大の毒へビであるベルゴサ、小さいが危険な毒を持つタルラエクシス、木に隠れるのが好きな毒ヘビのパパガヨ……。コロンビアでは、農場で働く人たちにさまざまな毒ヘビが牙を向ける。

彼女は、何世代にもわたって伝統的な薬を作り、販売してきた家系の一人だ。その調合法は一家の秘密として厳しく守られている。彼女の仕事が成立するのは、ここにはほかの治療法がないからだ。最寄りの診療所まではモーター付きカヌーで6時間。ガソリンは不足しているか高価で、乗れたとしても、武装勢力が川を監視している。

政府と反政府勢力の緊張が続き、十分な医療が届いていない地域がコロンビアには数多くある。このような地域で、国境なき医師団(MSF)は医療援助を提供している。現地活動責任者であるスティーブ・ヒデが、その経験をつづった。 

村は墓地になった

コロンビア西部、太平洋に面したナリーニョ県。活動地まで来るのに2日かかった。初日は車に乗ってぬかるんだ道を走り、2回カヌーを乗り継いでからジャングルの中を歩き、ついに到着した。

MSFは廃校になった校舎に仮設診療所を設置し、地域の人びとに医療援助を提供している。この地域の人びとは、長年公的な制度から取りこぼされてきた上、銃を持った男たちにいつ出会うか分からないという不安の中で生活している。

武装勢力の存在は、この地域でコカインの原料になるコカの栽培が行われていることに関係がある。彼らは、前触れなくやってくる州軍によるコカ駆除と、コカ目当てにここに押し寄せてくる勢力からこの地域を死守しようとしているのだ。地元の武装勢力は和平プロセスを拒否したコロンビア革命軍(FARC)ゲリラの残党で、エクアドルと国境を接する土地の支配権をめぐって争い続けている。

MSFのチームは、地元の農家が銃を突きつけられてジャングルに逃げ込んだ後、ほどなくしてこの地域に入った。そのとき、家々の財産は奪われ、作物はだめにされ、寸断された犠牲者の遺体が村の周りにバラバラに埋められていた。

「テロ行為の象徴でした。彼らは村を墓地に変えたんです」とMSFスタッフのサミュエルは話す。
MSFは医療チームと心理療法士を村に派遣した。深刻な暴力事件の後には、心のケアが重要だ。 

廃校に設けた仮設診療所 © Steve Hide/MSF廃校に設けた仮設診療所 © Steve Hide/MSF

伝統的なシステムとの連携

今回、私たちは新しい戦略を立てた。壊される可能性のある診療所やインフラに焦点を当てる代わりに、「人を中心としたアプローチ」を採用し、繰り返される紛争への抵抗力を高めようという試みだ。

直接医療を提供することはもちろん、伝統的な自助努力のシステムへの協力も求める。紛争が起こる前から、これらの地域は、伝統療法に基づいた独自の対処メカニズムを持っているのだ。

私は地域を歩き回って、悪意を持った視線を受けると災いがふりかかると言われる「邪眼」を治すスピリチュアル・ヒーラー、地元の植物でマラリアを治療するヤーバテロス(薬草医)、一針2万ペソ(約600円)で傷口を縫うコセーロ(縫う人)と話をした。

そして、下流の村である検査技師出会った。彼はかつての強力なネットワークの名残で、スライドグラスに塗られた血液標本からマラリア原虫を見つけ出すために顕微鏡を使う訓練を受けていた。

数年前までは、どの村にも検査技師がいて、マラリアの診断と治療が、自宅近くで受けられていたのだ。しかし、このシステムはゆっくりと衰退している。技師はもはや地元の保健局と契約していないし、物資は滅多に届かない。きちんと維持管理もなされていないので、顕微鏡にはカビが生えている。しかし技師はこのシステムの復活に希望を持っている。 

川の恵みと共に生きるジャングルの人びとの暮らし  © Steve Hide/MSF川の恵みと共に生きるジャングルの人びとの暮らし  © Steve Hide/MSF

子どもたちを守るために

村には子どもが多く、皆楽しげに遊んでいる。棒や葉っぱでヘリコプターを作り、空に向かって飛ばす子もいれば、手作りのコマを回す子や、自転車のタイヤを転がして村中を走り回る子もいる。しかしこの牧歌的な風景は長続きしないだろう。10代に入ると間もなく、コカの収穫作業に駆り出されるほか、武装勢力のメンバーになるよう誘われる。15歳になれば少女たちは伝統的に家庭を持つことになる。

子どもたちが武装勢力に感化されず、勉強を続けられるように、教員たちはさまざまな工夫をこらしている。最も効果があるのはサッカーだという。教員は自由時間にサッカーを指導するほか、寄付金を頼りにボールなどを購入している。

村の女性たちが置かれた状況も深刻だ。家族計画やリプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)が浸透していないので、20代でも5人の子どもがいる母親は珍しくない。多くの女性たちが、5年間妊娠を防げる避妊用インプラントを切望している。

これから、停戦が成立する可能性はある。しかし、地域が恐怖にさらされ、村に閉じ込められたまま、さらなる紛争が起こる可能性の方が高い。そうなれば、適切な医療を受けられる機会はさらに限られるだろう。MSFは新たな医療チームの配置を急いでいる。 

MSFによる無料の診療を受けるために訪れた子どもたち © Luis Angel Argote/MSFMSFによる無料の診療を受けるために訪れた子どもたち © Luis Angel Argote/MSF

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