「せめて子どもたちを屋根の下で寝かせたい」 武力衝突が続くコンゴで父は願う

2022年08月18日
武力衝突から逃れた人びと。支援物資の配給を待つ © Alexis Huguet
武力衝突から逃れた人びと。支援物資の配給を待つ © Alexis Huguet

「家族皆で農作業をしていた時です。近くで銃撃戦の音が聞こえ、私たちは着の身着のまま逃げ出しました」
 
そう話すのは、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の北キブ州に暮らすポンシー・ベンダさん(54歳)だ。今年3月下旬から、北キブ州では反政府武装勢力「3月23日運動(M23)」とコンゴ軍との武力衝突が激化。これまでに19万人以上が自宅を追われた。5カ月が経ついまも不安定な状況が続く現地から、人びとの声を伝える。

木の棒で作る仮住まい

北キブ州のルチュルから州都ゴマを結ぶ国道沿いで、多くの人が避難生活を送っている。「うちの家族は外で寝泊まりしています。この仮住まいは私が木の棒で組みました。バナナとユーカリの葉を買ってきて、屋根代わりに覆うつもりです。そうすれば、子どもたちが外で寝ずに済むでしょう」とポンシーさんは話す。

小学校の敷地で避難生活を送るポンシーさん一家 © Alexis Huguet
小学校の敷地で避難生活を送るポンシーさん一家 © Alexis Huguet

ルチュル=サントのルガボ・スタジアムには、1400人以上の家族が集まっている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は共同避難所を建設したが、いつまで持ちこたえるか予断を許さない。18×5メートルのテント一つに、およそ35家族が寝泊まりしている状況だ。

「雨が降ると避難所の地面は水浸しになり、水の中で夜を過ごすことになります」と、4カ月以上前に10人の子どものうち6人とともにルチュルに到着したアグリッピン・ヌマガンヤさん(53歳)は話す。「他の子どもたちは今頃ウガンダにいるはずなのですが、飛行機に乗ってから音信不通になってしまいました」
 
ルチュルでMSFの緊急対応コーディネーターを務めるベネディクト・ルコックは、「避難してきた人たちは密集して暮らし、シャワーやトイレも足りません。はしかやコレラなどの感染症が広がるリスクが非常に高い状況です」と話す。

子どもたちが外で寝ずに済むようにと、木の枝で小屋を作るポンシーさん  © Alexis Huguet
子どもたちが外で寝ずに済むようにと、木の枝で小屋を作るポンシーさん  © Alexis Huguet

住民からもらった葉を煮込む

住まいだけでなく、食料も不足している。「月曜日から日曜日まで、毎日葉っぱを煮て食べています」とポンシーさん。「妻が、畑の持ち主に許可を得て、葉を摘んできます。地域の人たちは私たちの苦しみを理解してくれていて、わずかな手持ちを分け与えてくれるのです」

ルチュル総合拠点病院でMSFが支援する重度栄養失調児の病棟では、7月にベッドの稼働率が140%に達した。ルチュルとニーラゴンゴの郡でMSFが支援している医療機関では、診療件数が1日平均100件を上回る。マラリア、呼吸器感染、下痢に苦しむ人が特に多い。

「ニーズは膨大で、私たちMSFだけですべてをカバーすることはできません。全ての人が無償で診療を受けられるよう、この緊急事態にはより多くの援助関係者の力が必要です」とベネディクトは語る。

緊急ニーズに加え、長期的な影響も懸念される。ほとんどの人は農家として食料をまかなってきたにもかかわらず、数週間から数カ月にわたって畑に出られないでいるからだ。この地域の人びとには、今後さらなる食料難も懸念される。

避難先の住民からもらった葉を煮込んで食べていると話す  © Alexis Huguet
避難先の住民からもらった葉を煮込んで食べていると話す  © Alexis Huguet

人道援助が足りない

何カ月も続く危機に対し、アグリッピンさんとポンシーさんをはじめとした人びとが、人道援助の不足を嘆いている。「食料の配給も、洗面器も鍋も、何一つもらっていません」とアグリッピンさんは話す。

ポンシーさんは、「なぜ、北キブはいつまでも戦争から抜け出せないのでしょうか」と失望する。「逃げるのは今回が初めてではありません。このような状況で子どもたちをどう育てていけばよいか、検討もつきません」

ルチュルとニーラゴンゴ郡で暴力が再燃したことで、以前から悲惨だった人道状況はさらに悪化。2022年6月現在、北キブ州全体で推定160万人が避難し、250万人以上が援助を必要としている。

小学校の教室で避難生活を送る人びと。医療も食料も足りない状況が続き、MSFは援助の拡大を訴えている  © Alexis Huguet
小学校の教室で避難生活を送る人びと。医療も食料も足りない状況が続き、MSFは援助の拡大を訴えている  © Alexis Huguet

MSFの緊急援助活動

診療所をルバレ、カレンゲラ、ムニギ、カニャルチニャで支援しているほか、ルチュル=サントのルガボ・スタジアムと、多くの避難民が集まっているルマンガボ簡易診療所の隣に仮設診療所を開設。また、避難民が過ごす場所数カ所にトイレとシャワーを設置。ムニギでは、診療所のほか4カ所で毎日清潔な水を提供するほか、石けん、貯水容器、生理用品などの衛生用品キットを1000世帯以上に配布した。

また、MSFはコンゴの隣国ウガンダのキソロ県で、国境を越えて逃げてきた人たちの援助にも当たっている。ブナガナ診療所とキソロ県立病院を支援するほか、ニャカバンデの一時滞在キャンプで基礎医療を担い、半仮設シェルターやシャワー、トイレの設置を行っている。

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