沈黙を破って傷を治そう——性暴力をなかったことにしない、決して

2019年08月01日掲載

「昨日の午後です。キャッサバを採りに、空港近くの野原へ出かけました。途中、大きな草刈り鎌を持った男2人に脅され、座らせられました。一人は私に目隠しをし、もう一人は私の服を脱がせにかかりました」

Mack Alix Mushitsi / MSFMack Alix Mushitsi / MSF

被害者4000人

オルガさん(41歳)は震え声で振り返る。

これはオルガさんの話。だが、ここ中央アフリカ共和国の首都バンギでは、数千人が同じような性暴力の被害に遭っている。国境なき医師団(MSF)は2018年、被害者4000人近くを診た。今年前半だけでも、バンギ市民病院内にあるMSFのプロジェクトで800人余りを治療している。

長年の紛争。町のあちこちに武装兵士がいる。性暴力が起きやすい土壌が広がる。だが、ここ中央アフリカでは、性暴力はタブー視されている。話せば家族の恥になる。だから被害を打ち明けられない。「レイプ」という単語が存在しない現地語もある。 

「何度も自殺しようと考えました。外を歩くのも恥ずかしかった。誰もが私を見ているように思えて。夜も眠れません」

MSFの心理療法士がオルガさんの話に耳を傾ける。この病院のMSFプロジェクトの名前は“トンゴロ”という。現地サンゴ語で“星”という意味だ。

このプロジェクトのコーディネーターを務めるビアトリス・ガルシアは「近所の人たちや家庭の中で性的暴行事件が多発しています」と話す。「家族に恥をかかせないためとして、地域や家族同士で解決されてしまい、医学的に緊急に処置が必要だという事実には見向きもされません」

治療を受けやすくしようと、MSFはバンギ市民病院プロジェクトをバンギ郊外にも広げた。ベデ・コンバタンという地区の中心部に分院を開いた。

「被害に遭ってから72時間以内に来院しやすくできました」とガルシア。望まない妊娠、HIVなどの性感染症を防ぐには72時間以内のケアが大切になる。

オルガさんは被害に遭って24時間後に、この新しいMSFの分院で受診し、薬を処方された。 

ずっと誰にも話せず

Mack Alix Mushitsi / MSFMack Alix Mushitsi / MSF

「6年も重荷を背負ってきたんです。自分の身に何が起きたか誰にも話せないでいました」

マルティーヌさん(53歳)。戦闘が広がった2013年、森に避難していて、武装兵士2人に襲われた。「下腹部に鋭い痛みを覚えました。自分の体を汚らわしいとも感じて、武装兵士を見かけると、恐怖を覚えるようになりました」

夫を失い、3人の子どもを育てるマルティーヌさんは、いまMSFの分院で週1回、無料心理カウンセリングを受ける。「気が軽くなりました。怖がったり、恥じたりすることはないって思えるようになりました。今はほらこのとおり」。緊張のほぐれた様子で、分院を後にする。 

子どもや男性の治療に

問題の根深さを知ってもらうキャンペーンを続けてきたこともあり、マルティーヌさんのような被害に遭った人たちが、中には事件から数年経っていても、病院に来てくれるようになった。

子どもたちや男性の被害者の治療にも力を入れる。特に、被害が表面化しにくく、複雑であることが多いためだ。

プロジェクトコーディネーターのガルシアはこう説明する。「性暴力被害に遭う男性も多いのですが、怖くて声を挙げられないでいます。治療センターに来てくれることはまれ。助けを求めるのをためらわれます。地域社会は大きな心理的圧力をかけ、暴力的に襲うこともあります」

首都バンギでは、性暴力被害者への支援が行き届いていない。MSFの診療以外、法的にも、社会的にも、経済的にも、サポートが受けられない。だからこそ、寄付者、当局、人道援助機関の関心を高めるために、問題の根深さを訴えることが欠かせない。

(文中仮名)  

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