栄養失調の子どもたち 食べ物もなく、病院にも通えなかった ついには皮ふがはげ落ちてしまった…

2018年11月03日

ボサンゴア大学病院栄養治療科の病棟。© Elisa Fourt/MSFボサンゴア大学病院栄養治療科の病棟。© Elisa Fourt/MSF

 中央アフリカ共和国(以下中央アフリカ)北西部ウハム州。州都ボサンゴア・ボサンゴア大学病院栄養治療科の病棟は、この日も重い栄養失調の子どもらで込み合っていた。

ミルクの配布を待つアナサンジェ・フェクジュナさんと息子のジュヴェナル君。© Elisa Fourt/MSFミルクの配布を待つアナサンジェ・フェクジュナさんと息子のジュヴェナル君。© Elisa Fourt/MSF

この日も、アナサンジェ・フェクジュナさんは息子のジュヴェナル君を抱きかかえ、一緒にミルクの配布が始まるのを待っていた。ジュヴェナル君は重い栄養失調のため、この病院で治療を受けている。ここでは毎日午後3時に、ミルクの配布がある。この時間になると、病棟のホールはコップを手にした親たちでいっぱいになる。 

ギヨーム・ブロッスーさんと息子のオスカル君。© Elisa Fourt/MSFギヨーム・ブロッスーさんと息子のオスカル君。© Elisa Fourt/MSF

「はじめに村の近くにある診療所に行ったら、オスカルに出せるものはないと言われて。だからここまで歩いてきました」と話すのは、ギヨーム・ブロッスーさん。幼い息子、オスカル君も重い栄養失調を抱える。そのため、住んでいる村から100km離れたこの病院を訪れた。「食べ物は、キャッサバしかありません。他に何も買えないんです。妻は2週間前に亡くなりました。他12人の子どもたちは全員、自宅に置いてきたままです。この子を助けに、ここに来るしかありませんでした。子どもたちが生き伸びられるよう願っています。神に頼るほかありません」 

祖母のマリー・ムボラ・コメッセさんと、孫のジナッス君。© Elisa Fourt/MSF祖母のマリー・ムボラ・コメッセさんと、孫のジナッス君。© Elisa Fourt/MSF

病室では、ジナッス君がミルクをすすっている。そばで見守る祖母のマリー・ムボラ・コメッセさんとボサンゴア病院に来たのは2週間ほど前。ジナッス君の体調はとても悪く、回復に時間が掛かっている。「孫の両足の皮膚が剥げ落ちてきました。それでここに来ました。孫は、痛みのせいでよく泣いていました。なんとか助けたかったのです」 

病院に来る栄養失調の子どもが急増

ミルクの配布を待つ子どもらで込み合う病棟。© Elisa Fourt/MSFミルクの配布を待つ子どもらで込み合う病棟。© Elisa Fourt/MSF

重い栄養失調になる要因は、いくつかある。中央アフリカでは紛争などで常に情勢が不安定だ。人びとは何度も避難を重ねている。国内全土で、食べ物を手に入れたり、医療機関で受診したりする機会が限られている。受診したい場合は、遠い医療機関まで行かなければいけない。だが交通費が高いため、多くの人びとが病院に行けなかった。

「今起きている紛争で、多くの人びとが何もかもを無くしました。避難も度重なり、医療機関への交通費も出せず、食べ物に困っている家族もいます」と、MSF看護チームリーダーのナタナエル・モンバは話す。「いつも治安が悪く、怖くて自宅から出ることもできないこともあります。それだけではありません。医療機関の多くは、近年の戦いで被害を受け、壊滅状態。大きな町にでも住んでいない限り、医療は受けづらくなっています。受診をためらってしまう状況です。そのため、来院するときには既に、症状が悪くなっている人が多くいます」

だが2018年に入り、国境なき医師団(MSF)が支援する病院に来る患者が増えている。MSFによる重い栄養失調の治療件数は1~8月で721件。2017年1年間の治療件数計671件を既に上回っている。9月には、45床しかない栄養治療科に、栄養失調の約80人の患者が入院した。MSFの医療従事者の一人、ヒラレー・ドゥトゥムベイは、「テントを張り、追加で医療スタッフを募集しなければなりませんでした。私は2013年からこの病院で働いていますけど、こんなに多くの患者さんが来たのは見たことがありません」と話す。

地域でのアウトリーチ活動の様子。© Elisa Fourt/MSF地域でのアウトリーチ活動の様子。© Elisa Fourt/MSF

患者が増えている理由について、ドゥトゥムベイは「患者が医療施設にアクセスがしやすくなったからです。MSFの健康教育と、地域でのアウトリーチ活動が効果的でした。新たな患者を見つけ、病院に行くよう勧めることができました」と話す。またMSFは、患者の搬送する体制も整えた。毎月、200人以上の重い症状の患者を、オート三輪で医療機関に搬送している。 

栄養失調の子どもを脅かすマラリアの恐怖

小児科の集中治療室(ICU)でも、栄養治療病棟と全く同じ光景が広がっている。マラリアにかかった幼い子どもたちがたくさんいるからだ。2018年1~8月にかけて、小児科で治療したマラリア症例件数は前年同期比で約5割増となった。検査を受けた患者の約8割は、マラリアに感染。この時期、計13万8675人がマラリア治療を受けたことになる。 

ジェルメーヌさんと、生後6ヵ月の双子の息子。© Elisa Fourt/MSFジェルメーヌさんと、生後6ヵ月の双子の息子。© Elisa Fourt/MSF

ICUでは、ジェルメーヌさんが、生後6ヵ月の双子の息子、ディウ・メルシ君とディウ・ベニ君を見守っていた。最初に受診したのは、ジェルメーヌさんが住んでいる村に来ていたMSFの移動マラリア診療所。ジェルメーヌさんの村は、ボサンゴア大学病院から100km先の場所。当時、息子が熱を出していた。2人ともマラリアと診断され、そのままボサンゴア病院に搬送された。ジェルメーヌさんは「マラリアの症状は知っているので驚きませんでした。2人とも体はいつもより温かく、震えていました。もっと早くマラリアに気づいてあげていられたらよかったと思います」と話す。

メダさん、マトゥリさん、息子のテレンス君。© Elisa Fourt/MSFメダさん、マトゥリさん、息子のテレンス君。© Elisa Fourt/MSF

生後18ヵ月のテレンス君もマラリアだと診断された。これで4度目になる。両親のメダさんとマトゥリさんは、こう話す。

「息子はここ5日間、何も食べていません。疲れきっています。私たちは二人ともマラリアに何度もかかりましたから、それほど怖くはありません。でもテレンスの具合がこれほど悪くなったのはこれが初めてで。もうよくならないのではないかと、心配しています」 

マラリアは中央アフリカではよくある病気。そのため、深刻な状態になってしまうと考える人が少ない。だが、「マラリアと栄養失調は密接に関わっています」とMSF看護チームリーダーのナタナエル。

「毎年、雨期が来ると、マラリアの症例数は増えます。すでに中等度の栄養失調になっているところへマラリアに感染すると、短い期間で体が弱ってしまいます。栄養失調も症状も重くなってしまいます。まさに、悪循環といえるでしょう。この時期、この辺りで治療できるのはMSFの病院だけになります。ほかにはありません」

MSFの医療従事者のヒラレーは「まだ食料が足りていません。医療機関へのアクセスも不十分です。また、病気になったらどうすればよいか、という知識もあまり知られていません。まだまだやらなければならないことはたくさんあります」。 

MSFは中央アフリカ保健省と共同で、2013年からボサンゴア病院で、小児科、栄養治療科、集中治療、入院部門、産科、外科を運営している。またここでは、患者への心理ケアも実施。他の地域でも、診療所や医療施設を支援。集団予防接種の実施や、栄養失調などの治療にあたっている。2018年には、地域全体で11万を超えるマラリア患者と、約1200人の栄養失調の子どもを治療した。 

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