わたしたちはどこへ行けばいいのか 学校に通えず、感情を押し殺し、地下経済で働かざるを得ない人たちがいる

2019年08月23日掲載

襲われて、刺された。兄弟2人は殺された。故郷の村は跡形もなく破壊された。あの日。2017年8月——。

難民キャンプを走る女の子=2019年6月、クトゥパロン=バルカリ難民キャンプ © Dalila Mahdawi/MSF難民キャンプを走る女の子=2019年6月、クトゥパロン=バルカリ難民キャンプ © Dalila Mahdawi/MSF

ミャンマーの少数民族ロヒンギャに対する大規模な迫害事件から2年。ビビ・ジャンさんはバングラデシュの難民キャンプ内の喫茶店に腰をおろす。腕には刺された傷跡が残る。服の袖を引っ張って、それを隠す。 

ジャンさんと息子フェイゾラーマン君(5歳)=2019年6月、クトゥパロン=バルカリ難民キャンプ © Dalila Mahdawi/MSFジャンさんと息子フェイゾラーマン君(5歳)=2019年6月、クトゥパロン=バルカリ難民キャンプ © Dalila Mahdawi/MSF

ミャンマー政府は数十年にわたり、同国ラカイン州に住む少数民族ロヒンギャを排斥し、迫害してきた。2017年8月、ロヒンギャ武装勢力の襲撃に対し、ミャンマー政府治安部隊が掃討作戦を展開。殺害や焼き討ちのニュースは世界を駆け巡った。それから2年経つが、ロヒンギャの法的地位、ロヒンギャの排斥を巡る根本的な解決はほとんど進んでいない。

バングラデシュでは91万2000人余りが、竹で造った簡易住居にいまも住むことを余儀なくされている。移動と就業は制限され、生活は人道援助頼みだ。

国境なき医師団(MSF)は、コックスバザール県内の診療所で治療を続けている。清潔なトイレがなかったり、水が不足したりするなど劣悪な生活環境に起因する病気が主で、2017年8月~2019年6月の診療件数は130万件に上る。

「子どもたちを学校へ行かせてやりたいんですが、お金が足りない上に、キャンプからも出られません。子どもたちの将来計画を立てるのも厳しいのです」とジャンさんは打ち明ける。ロヒンギャ難民の子は学校に入れてもらえず、将来的に生活を上向かせる機会すら奪われている。「仕事があれば、配給に頼らず、自分たちの力で生きられるのですが」 

ミャンマーに残っても

ミャンマーに残るロヒンギャを取り巻く状況も厳しい。1982年の国籍法施行によって、実質的に無国籍にされた。さらに、行政へのアクセス、教育・婚姻・家族計画の権利、移動の自由、医療を受ける権利といった多岐にわたる権利を剥奪された。 

5000人が暮らすアーナウクイエー避難民キャンプに向かうMSFの医療チーム=2019年8月、ラカイン州 © Scott Hamilton/MSF5000人が暮らすアーナウクイエー避難民キャンプに向かうMSFの医療チーム=2019年8月、ラカイン州 © Scott Hamilton/MSF

2012年、ラカイン州でロヒンギャと、それ以外の住民の間で起きた衝突によって、村々が破壊された。それ以来、いずれもムスリム系少数民族のロヒンギャとカマン・ムスリム計12万8000人がラカイン州中部の劣悪な避難民キャンプで暮らしている。自由に移動できず、職業にも就けず、基本的な福祉サービスすらなく、ここも人道援助が頼みの綱だ。

「働くあてはありません。採る魚もいません。店もなく、欲しいものも買えないんです」とロヒンギャの一人、スレイマンさんは話す。ンゲト・チャウン地域に9000人ほどがひしめきあう。「どこに行くこともできず、何もできない。みな悲しみに暮れて、失望に沈んでいます。でも、失望を訴えることはできません。そんな機会はなく、ため込むばかりです。隣町にさえ行けず、みんな感情を押し殺しています」 

スレイマンさん=2019年8月、ンゲト・チャウン © Scott Hamilton/MSFスレイマンさん=2019年8月、ンゲト・チャウン © Scott Hamilton/MSF

ラカイン州内には55万~60万人のロヒンギャが残っているとみられる。ミャンマー政府軍とロヒンギャ武装勢力との争いは激化し、ロヒンギャの人たちの状況は悪化している。 

マレーシアに逃げても

マレーシアに逃げたロヒンギャの人たちも不安定な状況に置かれている。ここでも法的地位は保障されておらず、合法的に働けない。したがって、地下経済にもぐることになり、搾取、借金の形の強制労働、労災といった被害に遭いやすい。町を歩いていても、病院にかかっても、収容センターに送られたり、ゆすられたりする恐れがある。

イマン・フセインさん(22歳)は2015年にラカイン州から逃げのび、タイを経由して、マレーシアのペナンに落ち着いた。フセインさんを含む難民の多くは、好景気に沸く建設業でかろうじて生計を立てている。フセインさんの雇用主はここ10週間、給料を払ってくれていない。それでも、フセインさんは働き続けるしかない。現場で寝泊りしており、辞めてしまえば、行き場はないからだ。 

イマン・フセインさん=2019年4月、ペナン © Arnaud Finistreイマン・フセインさん=2019年4月、ペナン © Arnaud Finistre

「ここ2年、ロヒンギャに対する差別の根本的な解決も、無事な帰還も、手つかずに近い状態です」とMSFのブノワ・ド・グリズド・グリズは話す。ミャンマーとマレーシアのオペレーション・マネージャーを務めている。「国際社会がミャンマーとの外交努力に力を入れて、全てを奪われたロヒンギャの人たちの幅広い法的地位を勝ち取らねばなりません。ロヒンギャの未来はそこにかかっています」 

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