“死の組み合わせ”で消えゆく命 栄養失調の子どもたちに、はしかが及ぼす深刻なリスク

2022年03月22日
2カ月前にはしかにかかり、体調を崩していたサミラちゃん。はしかは子どもの免疫力を低下させ、治癒してからも健康問題につながる可能性がある Ⓒ Tom Casey/MSF
2カ月前にはしかにかかり、体調を崩していたサミラちゃん。はしかは子どもの免疫力を低下させ、治癒してからも健康問題につながる可能性がある Ⓒ Tom Casey/MSF

高い感染力を持つ、ウイルス性疾患の「はしか」。免疫力を低下させ、肺炎などの合併症を引き起こす。特に栄養失調で免疫力が低下している子どもにとっては、命に関わる病気だ。
 
現在、アフガニスタンでは深刻な栄養危機に加え、はしかの患者が急増している。国境なき医師団(MSF)が、ヘルマンド州とヘラート州で行うプロジェクトの状況を報告する。
 

眠れない夜

昨夜、ザイナブさんはよく眠れなかった。照明に加え、絶え間なく機械音が鳴り響く集中治療室で寝つける人はあまりいない。それに加え、1歳の息子、タクベーラちゃんのことが心配だったからだ。タクベーラちゃんも苦しそうな夜を過ごしていた。医師から処方された薬のおかげで、なんとか呼吸ができる状態だった。
 
「どうしてこの子の脚はこんなに冷たいのでしょう?」ザイナブさんはタクベーラちゃんの足首を握り、胸に毛布を押し当てながら、医療スタッフに尋ねた。肺炎と低血糖症の合併症のため、彼の手足は冷たくなり、危篤状態に陥っていた。「息子はいつまでここにいなくてはならないのでしょうか」とザイナブさんは聞いた。「うちには他にも病気の子どもがいて、どうしているか……」
 
この3日間、タクベーラちゃんはMSFが支援するヘルマンド州ラシュカルガにある、ブースト病院の小児集中治療室に入院している。10日前、2人の姉とともに熱と下痢の症状があったが、タクベーラちゃんの容体は姉たちよりもずっと深刻だった。発疹が出たため、母親がブースト病院に連れて来たところ、はしかと診断された。

合併症に対処するため、タクベーラちゃんには酸素、抗菌薬、ブドウ糖が投与されている。この男の子は、MSFが2月にヘルマンド州とヘラート州のプロジェクトで診た1400人以上のはしかの子どものうちの1人だ。その半数は何らかの合併症にかかっていたため、入院が必要だった。

ベッドが足りない

ブースト病院では、はしかの患者数が急激に増えている。 2021年12月から2022年2月末までに、毎週平均して150人以上のはしかの子どもが来院した。その4割は肺炎などの重い合併症があり、入院して治療を受けている。

ヘラート州では、MSFは2月に800人弱のはしか患者を診察した。このプロジェクトでは、2022年の始めに結核やはしかなどの感染症患者用に隔離ベッドを8床用意したが、あっという間にはしかの患者でいっぱいになった。今後、改修工事により60床が完成する予定で、重症患者や回復期の患者の入院治療が可能になるが、これも充分とは言えない。ヘラートの病院を訪れたはしか患者の60%は入院が必要で、重症患者の半数は栄養失調になっていた。

“死を招く組み合わせ” はしかと栄養失調

既に栄養危機に直面しているアフガニスタンでは、状況はさらに深刻だ。ヘルマンド州とヘラート州にあるMSFの栄養治療センターでは、治療を受ける子どもの数がベッドの総数を上回り、数カ月前から一つのベッドに数人の子どもを寝かせている。また、1月から2月末までの2カ月間に、両プロジェクト全体で約800人の子どもが重度の急性栄養失調で入院した。

MSFのブースト病院臨床チームリーダーであるファザル・ハイ・ジアルマルはこう語る。

 
「私たちが栄養治療センターや集中治療室で診る子どものほとんどは、最近はしかにかかった子どもです。はしかは、子どもの免疫系にダメージを与えるため、肺炎などの合併症を併発すると非常に危険です。
 
現在、アフガニスタンには栄養失調児が多く、免疫力が非常に低下した状態です。この状態ではしかに感染するとより重症化しやすく、回復するまでに長びく恐れがあります。その結果、子どもの免疫力はさらに低下し、より一層健康が脅かされる状態になってしまうのです。栄養失調の子どもの多くは、はしかの後の合併症で命を落としています」

ブースト病院のはしか隔離病棟で治療を受ける患者 Ⓒ Tom Casey/MSF
ブースト病院のはしか隔離病棟で治療を受ける患者 Ⓒ Tom Casey/MSF

どこへ行けば治療を受けられるのか

はしかは予防接種で防げる病気だが、アフガニスタンでは接種率が低く、患者数が急増する一因となっている。また、複数の家族が一つ屋根の下で暮らしていることもあり、病気が急速にまん延する条件がそろっている。

はしかに感染しても自然に治る子もいる一方で、合併症のために薬を必要とする子もいる。アフガニスタンでは、薬や物資が不足している医療施設が多いため、保護者の多くは薬局で買わざるを得ない状況だ。

ブースト病院のはしか検査室で息子を待つハン・ビビさんは、孫に囲まれて次のように説明する。

「12人いる孫は全員病気になりましたが、そのうち3人が一番ひどいです。みんな、ぼんやりした表情を浮かべて気がふさいだ様子です。3人ともはしかにかかっています。

村で薬を買いましたが、子どもたちの状態は良くならないので、ここに来ました。長女は胸が痛いと言って泣き、吐いていました。水はたくさん飲んでいますが、それ以外は何一つ受けつけません」

ブースト病院のはしか検診室で、孫と一緒に待つハン・ビビさん。一緒に暮らす12人の孫は全員はしかにかかっていた Ⓒ Tom Casey/MSF
ブースト病院のはしか検診室で、孫と一緒に待つハン・ビビさん。一緒に暮らす12人の孫は全員はしかにかかっていた Ⓒ Tom Casey/MSF

予防接種の定着が急務

ヘラート州でMSFのコーディネーターを務めるサラ・ビルステークは「はしかの合併症で毎日2人の子どもが亡くなっています。私たちが地方で訪問した公共医療施設は、はしか患者でも軽度の合併症なら対応できています」と説明する。
 
「でも、重症や合併症のある患者については、必要な物資やスタッフ、設備がなく、どの施設でも対応できないと、スタッフは口をそろえて言っていました。重症の子どもや最も弱い立場にある子どもにできることはほとんどないのです。
 
MSFは施設のベッド数を増やせますが、根本的な解決にはつながりません。集団予防接種が広域で行われない限り、今後6カ月間は感染者が増え続け、普普段からからもろい医療体制にさらなる負担がかかるでしょう。長期的には、患者の急増に対応するのではなく、はしかの定期予防接種の活動を強化し、子どもへの定期接種を定着させる必要があります」

ブースト病院でタクベーラちゃんに付き添っていたザイナブさんは、残念ながら息子と一緒に帰宅することはかなわず、荷物をまとめて、残された子どものために一人で故郷に帰って行った。小児集中治療室では、タクベーラちゃんが寝かされていたベッドに医師らが集まり、いまも新しい患者の命を救おうとしている。

ブースト病院のはしか隔離病棟で、患者にブドウ糖を与える看護師。2022年1月から2月にかけて、440人以上のはしか患者がこの病棟に収容された Ⓒ Tom Casey/MSF
ブースト病院のはしか隔離病棟で、患者にブドウ糖を与える看護師。2022年1月から2月にかけて、440人以上のはしか患者がこの病棟に収容された Ⓒ Tom Casey/MSF

この記事のタグ

関連記事

活動ニュースを選ぶ