コートジボワール:救急医療の膨大なニーズに対応続ける(5月11日現在)

2011年05月18日

大統領選挙以後、多くの町や集落を破壊してきた暴力が大半の地域で収束してからほぼ1ヵ月が経つが、コートジボワールでは救急医療の不足がいまも危機的状態にある。大都市アビジャンの診療所や病院は、新たに負傷した患者も含む大勢の患者であふれ、市内の医療物資や医薬品の供給量はまだ危険なほど少ない。国の西部では、極度の緊張状態が続いており、多くの村が無人のままであり、人びとはいまだに森の中に隠れている。徐々に家へ戻り生活を再開しようとする人も出はじめているが、隣国リベリアには依然として10万人を超える難民が残っており、コートジボワール西部にある避難民キャンプではいまも何万もの人びとが過密状態で避難生活を送っている。


各地で続くMSFの活動と現地の状況報告

1. アビジャン市内:対応に追われる医療機関

市内の多くの地域では現地の医療従事者が徐々に仕事に戻りはじめているが、医薬品と医療物資の供給不足は続いており、医療制度は膨大な救急医療のニーズにまだ対応しきれていない。国の医療制度が復旧に努めている現在、国境なき医師団(MSF)はアビジャン市内にある複数の病院と診療所の支援を続けており、医薬品を寄贈するほか、一次医療と二次医療の援助を行っている。MSFは、多くの地域でいまも起きている暴力によって新たに負傷した患者の治療にあたると同時に、手当てが遅れたために深刻化した救急疾患にも対応している。戦闘が続いていた期間は、多くの人びとが負傷しただけでなく、さまざまな病気の患者も、数日間、ひどい場合は数週間も治療を受けられなかった。このため、いまは外科処置が必要なほど深刻な容態に陥っているのである。MSFが無償で医療を提供しているという情報が広まるにつれ、緊急産科医療や一般診療などを求める大勢の患者が殺到し、スタッフは対応に追われている。このため、MSFは新たな活動を立ち上げ、救急救命医療の差し迫ったニーズへの対応を拡大する予定である。

ヨプゴン:暴力による重傷患者の治療を継続

ヨプゴン・アティエ総合病院で治療を受ける、戦闘による負傷者。 ヨプゴン・アティエ総合病院で治療を受ける、戦闘による負傷
者。

アビジャン市西部のヨプゴン・アティエ総合病院で、MSFは、緊急入院、外科治療、術後ケアを担当している。過去3週間に新たに入院した患者は307人で、そのうち125人は、近隣で続いている武力衝突が原因の、銃弾や爆弾による負傷者だった。2週間前から攻撃が収まりはじめ、人びとがようやく急を要する治療を受けに出かけられるようになったため、この病院の診療件数は4倍になった。MSFは緊急手術に加え、一次医療の診療と搬送システムも開始した。最も患者数が多いのは、マラリアと呼吸器感染である。MSFはこの病院の産科病棟も支援しており、25人の新生児の分娩を介助した。

またMSFは、セント・ローレン避難民キャンプで避難生活を続ける人びと400人に無償で医療を提供し、これまでに869件の診療を行った。ヨプゴンに近いアテクベ医療センターでは、一次医療とリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)のケアを支援するほか、性暴力の被害者の受診を促進する活動を行っている。

アボボ:戦闘は減少するも内科と産科の患者数は爆発的に増加

ベッドが足りないため、患者を床に寝かせている。南アボボ病院にて。 ベッドが足りないため、患者を床に寝かせている。南アボボ
病院にて。

MSFは、アビジャン市北部のアボボ地区にある南アボボ病院で、いまも1日5~10人の銃弾による負傷者を受け入れている。疾病を抱える人や合併症を持つ妊産婦が殺到し、内科と産科の患者数が爆発的に増えている。MSFは1日平均350件の診療と40人の新生児の分娩介助を行う。また、マラリアによって貧血に陥った子どもの患者が多いため、毎週80~90件の輸血も行っている。

MSFはさらに、NGO「ハンディキャップ・インターナショナル」から派遣された理学療法士と協力して、整形外科病棟で術後患者のケアにあたっている。これに加え、MSFの心理療法士が、負傷者や手足を切断した患者にサポートを提供している。近い将来、暴力を目撃して強いショックを受けた医療スタッフにも心理ケアの提供を始める計画である。

またアボボにあるアボカティエ医療センターでは、同センターの再開に伴い、医薬品の寄贈、医療スタッフへの給与支払い、アドバイス提供などの支援を行っている。この支援を通して、すでに250件の診療が行われ、産前検診、分娩介助、HIV/エイズのケアなどすべてのプログラムが再開された。

多くの施設で混雑が限界に

多くの患者が治療を待つ南アボボ病院の外来受付の様子。 多くの患者が治療を待つ南アボボ病院の外来受付の様子。

南アボボ病院では、毎日病院の外に順番待ちの列ができる。病院の施設は小さく、元々はベッド数20床しかなかったが、現在は入院部門、ロビー、そしてMSFが屋外の敷地に設置した2つのテントも含め、あらゆるスペースを利用して130床以上のベッドで満杯になっている。

人びとの医療ニーズに応えるために限界を超える数の患者を受け入れている医療機関は南アボボ病院だけではない。アビジャン市のさらに南にあるトレッシュビル地区において、MSFは4月中旬にベッド数25床のナナ・ヤムーサ診療所を引き継ぎ、多数の負傷者と産科ケアを必要とする妊産婦のために、2つの手術室で緊急外科手術の提供を開始した。最初の2週間の診療件数は531件だった。外科チームは24時間態勢で1日10~12件の手術をこなし、ニーズを満たそうと努めている。活動開始初日の4月18日、月曜日には、42人の外傷患者に外科手術が必要だった。しかし、数日後には、合併症を持つ妊産婦を搬送できる医療機関が市の南部では他にないことから、緊急産科ケアの件数が増加した。現在はベッド数25床の施設に患者50人が詰め込まれており、手術を必要とする新規の患者をこれ以上受け入れるスペースはない。

アビジャン市南東部にあるコマシ総合病院では、MSFは5月の第1週に2000件の一次医療診療を行い、先月からの診療件数は計6140件に上った。産科病棟では、活動を開始してから合計467件の分娩があった。はしかの「疑い例」が数件見つかっているため、感染状況を監視するための移動診療も始めた。

負担を軽減するため新しい施設を開設

戦闘によって負傷し、アニャマ病院に入院している患者。 戦闘によって負傷し、アニャマ病院に入院している患者。

現地の医療施設の負担を軽減してより多くの患者を治療するため、MSFはアビジャン市内のいくつかの地区で新しい活動の支援を開始した。4月18日には、南アボボからさほど離れていない市内北部郊外のアニャマの病院がMSFの支援を受けて再開した。この病院では南アボボ病院から搬送された整形外科患者に外科手術と術後ケアを行っている。MSFはまた、小児医療と一般医療の支援も行っている。南アボボ病院やナナ・ヤムーサの場合と同様に、アニャマでも、治療を求める人びとが朝の5時から建物の外で並んでいる。

5月3日には、MSFはアボボ地区にあるウフェボワニ総合病院において、外来診療と小児科医療を開始した。この施設では産科医療の提供も開始する計画である。この取り組みを通じて、南アボボ病院の負担がいくらか軽減し、救命救急医療を受けられる患者の数が増えることが期待される。

市内南部にかかる負担を軽減するため、MSFは空港に近いポール・ブエ総合病院で新しい活動を開始しようとしている。MSFのスタッフはすでにこの病院にある2つの手術室の復旧に取りかかっており、今週からは術後ケアが必要な患者をトレッシュビルのナナ・ヤムーサ診療所からポール・ブエ病院へ搬送しはじめる予定である。MSFは、手術室の復旧が済みしだい、外傷緊急外科手術、産科ケア(緊急帝王切開を含む)、術後ケアを行うとともに、救急治療室を運営する予定である。

2. コートジボワール西部:襲撃を恐れて避難生活、森での潜伏は続く

国の西部では、何万という人びとが過密状態で厳しい環境のキャンプで避難生活を続けている。多くの村はまだ無人のままで住民が戻っておらず、とりわけトゥレプルーの南部と北部のリベリア国境に最も近い地域では、人びとがいまも森の中に隠れているという報告がある。MSFは、避難民が集まる場所現地の医療施設で援助を続ける一方で、孤立した人びとに医療を届けるため、西部各地で移動診療のチームを増やした。

ドゥエクエ

ドゥエクエ地域の村の移動診療で診察を受ける子ども。 ドゥエクエ地域の村の移動診療で診察を受ける子ども。

ドゥエクエでは、MSFは総合病院の支援を続け、二次医療の活動を拡大している。また、カトリック伝道会のキャンプでは2万5000人の避難民に一次医療を提供している。さらにドゥエクエの北西部の村々でも移動診療を増やしている。

ギグロ

ギグロでは、MSFは2つの医療施設で活動し、ナザレ教会周辺のキャンプで生活する4800人の避難民に一次医療を提供している。ニクラ病院の内科入院病棟では、急性栄養失調やマラリアによる重度の貧血を患う子どもたちを治療している。MSFはこの3週間で400件の診療を行ったが、そのうち40%はマラリアの治療だった。このほかにも、内科と外科の救急患者をドゥエクエ病院に搬送する活動を行っている。

森に隠れる人びとのもとに向かう移動診療

いまも多くの人びとが、報復やさらなる攻撃を恐れて森の中に隠れている。とりわけギグロとブロレカンを結ぶ道路沿いには、いまも人の姿が見えない村や、焼かれた村、破壊された村がある。MSFはこの道路沿いの地域で移動診療を行い、森に隠れている人びとのもとに赴き、医療ニーズに応えるべく活動を続けている。ギグロ南部では、特に人びとがいまも森に隠れ援助を必要としているという報告があった地域、タイを中心に、さらに詳しい調査を行っている。

リベリア国境付近

ダナネとトゥルプル間のリベリア国境付近の地域では、MSFは移動診療数を2倍に増やし、週に2回10ヵ所に医療チームを派遣している。さらに、移動診療チームが入院が必要な患者を搬送する場所を確保するため、バンウーエにある現地保健省の診療所において入院病棟の運営を開始する予定である。

南西部での調査

国の南西部にある海辺の町グラン・ラウでは、アビジャン市を逃れリベリアに向かう途中の傭兵(ようへい)による住民の殺害事件が複数報告されている。MSFはすでに近辺にある現地の医療施設に医療物資を寄贈する計画を立てていたが、現在その他のニーズも調査中である。さらにリベリアとの国境にある町タブーと、国の中央にあるダロアでもニーズを把握するための調査活動を行っている。

3. リベリア:帰国に消極的な難民たち

国境を越えてリベリア側に避難する一家。(3月12日撮影) 国境を越えてリベリア側に避難する一家。(3月12日撮影)

過去2週間でリベリアに避難してくるコートジボワール人の数は大幅に減少したものの、難民の到着は続いており、その多くが先に避難した家族を探している。中には帰国しはじめた人びともいるが、まだ何千人もが帰国を恐れている。その一方で、リベリアで農作物の種をまいたから収穫までコートジボワールには帰れない、という人もいる。

リベリアにいる難民の数を特定するのは困難であるが、推計では12万人に上るとみられる。これらの難民の大多数は、特にコートジボワール国境に近いグランド・ゲデ郡とニンバ州の2郡で、リベリア人の家庭や集落に身を寄せている。コートジボワール人の難民を受け入れているリベリア人家族の多くは、過去にコートジボワールでの難民生活を経験している。2003年に収束したリベリアの長い内戦の際には、彼ら自身が避難を余儀なくされたのだ。

MSFは、約6万人の難民がいるグランド・ゲデ郡で16チームによる移動診療を行っている。これらの移動診療による診療件数は、4月だけで4500件に上った。またこれらのチームは835人にはしかの予防接種も行った。近隣のニンバ州にも推定5万人が避難しているため、国境地域沿いの11ヵ所で移動診療を行い、1日平均220件の診療を行っている。人びとが治療を必要とする主な病気は、マラリア、呼吸器感染、下痢である。診療件数の30%を占めるマラリアは雨期のため患者数が急増しており、MSFの懸念事項の1つになっている。

MSFは、国境地帯での移動診療に加えて、4500人が避難生活を送るバーン難民キャンプにおいて簡易診療所を運営している。ここでは1日平均50~60件の診療を行っており、その大半はマラリアと呼吸器感染の患者である。また、近くにある保健省の診療所の外来部門を支援するほか、ニュー・ヨーピーにある一時滞在キャンプにおいてスクリーニング(治療の必要な患者を見つける検査)を行っている。

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