事務局からのお知らせ

虐待・搾取・ハラスメントのない活動環境の実現を目指して

2025年09月11日

国境なき医師団(MSF)は、いかなる虐待やハラスメントも許さない活動環境づくりを推進しています。MSFの指導部は率先してこの問題に向き合い、虐待・ハラスメントの防止や問題発覚後の対応策の強化に取り組んでいます。また、全てのMSFスタッフには、MSFの行動規範憲章で規定された基本理念の遵守を徹底させます。

MSFは、虐待・ハラスメント撲滅に向けて行ってきた取り組み、課題、前年度に寄せられた容認できない行動の通報件数と内部調査の結果を声明として発表してきました。そして今年も、2024年の通報件数、および現在の取り組みに関する最新状況をご報告いたします。MSFは引き続きこの重大な問題に一丸となって取り組んでまいります。(2023年度の報告はこちら

不正行為の通報体制

MSFでは、あらゆる種類の不正行為を、予防、発見、通報、対応するため、組織内外から通報できる体制を以前から導入しています。全てのMSFのスタッフは、所属部門長や専用のメールアドレスをもつ窓口を通じて不正行為を通報するよう奨励されています。MSFの活動地においても同様に、不正行為の被害者や目撃者はMSFに通報するよう奨励されています。

MSFは団体内での意識向上を目指して全スタッフに通報体制の存在を周知しています。通報体制に関する情報はマニュアル化されているほか、ブリーフィング、活動地視察、研修等の際に伝えられています。さらに、虐待とその対応に関するオンライン教育ツールは定期的に更新・改善されています。

過去数年の間にMSF全体でこの問題に対して行われたさまざまな取り組みの例です。
 
・ 研修、活動地視察、調査を担う新たな役職の創設や人員増強
・ 問題解決に必要な対策を検討するためのスタッフ向けワークショップや個別相談の実施
・ ハラスメント、虐待、搾取の通報の仕方についてスタッフに提供される手引きの改善・周知・徹底
・ 活動地における患者や地域社会への啓発の強化
・ MSF全体でのデータ収集・共有
・ 組織的課題への取り組み強化および多様性・公平性・包摂性(DEI)の奨励

機密保持

MSFが目指すのは、最大限の機密保持性の徹底です。被害者および内部通報者の身の安全や雇用、守秘的情報を守り、安心して通報できる環境を作ります。 

不正行為が通報された際、MSFは被害者と内部通報者の安全と健康を最優先します。被害者には細心の注意のもと、直ちに心理ケアと医療ケア、法的なサポートを提供します。

事態を司法の手に委ねるべきか否かについて、MSFは常に被害者の判断を尊重しています。未成年に対する性的虐待が起きた場合には、MSFは司法当局への通報を基本方針としています。しかしその場合も子どもの利益と、該当する司法プロセスの有無を最優先しています。

2024年実態

2024年は世界全体で約6万7077人が国境なき医師団(MSF)の活動に携わりました。この年、虐待ないし不適切行為に係る合計945件の通報・苦情が申し立てられ、うち864件が活動地で働くスタッフから、81件が活動統括本部(オペレーション・センター、事務局など)から寄せられました。
 
これらの通報・苦情のうち、調査の結果、345件が虐待または不適切行為と認定され、2024年末時点で調査中のものあります。活動地と活動統括本部の事案は、法制度や通報体制の違いから必ずしも同様に扱うことができないため、以下では事案をそれぞれ分けて詳細を報告しています。
 
2024年の通報・苦情の件数は、前年と比較して21%増加し、864件にのぼりました(2023年はその前年比較で24%増加の714件)。国境なき医師団の活動内容の幅広さや活動範囲の広さを鑑みると、患者やその介護者、地域住民の方々から虐待や不適切行為について十分に報告されていないことを懸念しています。

2024年の医療・人道援助活動地からの通報

  • MSFで働くスタッフの89%(6万580人)は活動地での業務に従事しており、そうしたスタッフからの通報・苦情は、2024年は864件となり、2023年の714件から増加しました。
  • このうち、調査によって308件を虐待ないし不適切行為にあたる事案と認定し(2023年は264件)、2024年末時点で調査中のものもあります。
  • その中で256件を、何らかの形態の虐待(性的搾取・虐待・ハラスメント、権力の乱用、嫌がらせやいじめ、差別、搾取、攻撃的行為、報復や虚偽の報告、介入、守秘義務違反を含む不正な事案管理など)と認定しました(2023年は187件)。
  • 何らかの形態の虐待を理由に合計83人のスタッフを解雇しました(2023年は85人)。また、事案の重大性に応じて、停職、降格、正式な文書による警告、強制的な研修など、他の処分も行っています。
  • 256件の虐待事案のうち、126件が性的搾取・虐待・ハラスメントで、2023年の85件より増加しました。当該の事案調査の結果に基づいて解雇されたスタッフは59人で、2023年の45人から増加しています。セクシャル・ハラスメントのような行動には、さまざまなものが含まれます。
  • その他の事案として、嫌がらせやいじめが35件、権力の乱用が30件、攻撃的行為が17件、搾取が14件、差別が22件、不正な事案管理が12件、それぞれ認定されました。
  • 不適切行為として確認または発覚した事案は52件で、2023年の77件から減少しました。不適切行為とは、上記の虐待行為にはあたらないものの、MSFの行動基準に沿わない行動のことで、不適切な人事管理、不適切な人間関係、社会通念上不適切とされる行動、チームの団結を揺るがす行動、不適切なコミュニケーション、薬物やアルコールの乱用などが含まれます。

現地採用スタッフなど、これまで通報・苦情が少なかったグループからの件数も増加していますが、特に患者や地域住民からの通報・苦情件数については、まだ改善の余地があります。
 
患者とその介護者から提出された苦情の総数は、2024年に45件、地域住民(MSFスタッフが遭遇した患者およびその他の地域住民を含む場合もある)から35件と合わせて、合計80件でした(2023年は69件)。 その他の外部関係者からの通報は40件で、これは、物資の納入業者、メディア関係者、他団体の職員、現地コミュニティ、協力先パートナー、元MSFスタッフ、MSFの契約外のスタッフからの通報を含みます。
 
患者やその介護者、地域住民からの通報が非常に少ないままであることは、依然として問題です。患者や地域住民への働きかけを強化し、彼らの権利、MSFスタッフの行動基準を周知するとともに、虐待や不適切行為に対するMSFの責任を追及するために、利用しやすい適切な苦情処理メカニズムを確保する必要があります。
 
現地採用されたスタッフから提出された苦情の総数は2024年には414件となりました(2023年は328件)。現地採用スタッフからの通報を奨励するためになすべきことは多くあります。なぜなら、現地採用スタッフはMSFの労働力の87%近くを占める一方で、通報者の58%を占めるにすぎないからです。
 
MSFのスタッフおよび組織外の個人から寄せられたすべての苦情を検討した結果、差別に関する通報は75件で、2023年の45件から増加しました。
 
以前より多くの人が差別について通報するようになりましたが、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)に関して、いかなる形態の差別行為であれ、その被害を受けた人びとが確実に報告できるよう、継続的かつ持続的な取り組みが必要です。
 
活動統括本部からの通報

MSFは2020年以降活動地からの通報とともに、世界各地の活動統括本部(オペレーション組織、事務局など)からの通報・苦情も集計しています。MSFの全スタッフの約11%(7505人)が世界各地の統括本部に勤務しています。
 
活動統括本部における通報・苦情のデータは、世界各地で異なる法律や人事プロセスに関連しているため、団体内で完全に調整していない可能性があり、引き続き標準化する努力を続けています。
 
2024年は全ての事務局から81件の事案が通報され、2023年の109件から9%減少しました。
 
上記の通報・苦情のうち、37件を虐待もしくは不適切行為にあたる事案と認定しました(内、2024年末時点で11件は調査中で、虐待ではない通報も含まれます。)一部案件は両方に相当することから、2024年は35件の虐待と19件の不適切行為がありました。(注:虐待と不適切行為の両方の要素を含む事案もあったため、合計は一致しない場合があります)。2023年の34件の虐待と21件の不適切行為から微減となりました。
 
全体で16人が指導もしくは文書か口頭による注意などの処分を受けているほか、12人が解雇処分を受けています。
 
MSFは引き続き、虐待や搾取、ハラスメントのない職場環境を実現・維持するために、また私たちが努力して支援している弱い立場の人びとに危害を加えないよう、一丸となって取り組んでまいります。患者、MSFスタッフ、その他MSFと接するすべての人が、虐待や不適切行為を通報できるよう、引き続き努力してまいります。

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