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シリア:人道援助の最後の越境地点が閉鎖の恐れ 国連安保理は決議の更新を

2021年06月25日
シリア北西部イドリブ県にあるキャンプでテント暮らしをする親子。何度も避難を繰り返してきた=2020年 © Abdul Majeed Al Qareh/MSF 
シリア北西部イドリブ県にあるキャンプでテント暮らしをする親子。何度も避難を繰り返してきた=2020年 © Abdul Majeed Al Qareh/MSF 

シリア北西部に対し、周辺国から国境を越えた人道援助を認める国連安全保障理事会の決議(第2533号)が7月10日に更新を迎えている。同地域で人道援助を必要としている人は400万人以上にのぼり、同決議が更新されなければ、この地に生きる人びとは援助へのアクセスを絶たれることになるが、ここ数年で人道援助の越境地点は次々と閉鎖されてきた。

国境なき医師団(MSF)は、国連安保理に対し同決議を更新するとともに、過去2年で閉鎖された北西部と北東部の越境地点の復活を求める。

残された唯一の越境地点

反体制派の最後の砦となったシリア北西部のイドリブ県。何百万もの人が戦火を逃れてここへたどり着き、いまや県人口の半数以上は避難民が占める。しかし、安保理決議に基づき、この地域へ援助物資を届けるための生命線は現在、バブ・アル・ハワの国境検問所のみとなっている。

「たった1カ所しかない生命線が途絶えたら、その影響で多くの人が亡くなるでしょう。医療物資の供給が止まれば、在庫では3カ月しか持たないため、患者の治療が難しくなります。また食料や飲料水が供給されなければ、避難民や住民が病気や感染症にかかるリスクが高まるでしょう。イドリブには、14回以上も場所を変え避難を繰り返してきた人たちもいます。こうした人たちはすべてを人道援助に頼って暮らしているのです」とシリアでMSFプロジェクト・コーディネーターを務めるアブドゥルラマンは言う。

2014年、国連安保理は、周辺国からシリア政府の支配下にない地域へ人道援助を送るために、4カ所を国境通過地点として使用することを認める決議を採択した。安保理は毎年、この決議の見直しと更新を繰り返してきたが、2019年と2020年にロシアと中国が、それまで合意された全ての越境地点を認める包括的な更新決議に拒否権を行使。その結果、バブ・アル=サラーム、アル・ヤルビヤ、ラムサの3カ所が、国境通過地点のリストから除外された。現在、シリアへの正式な人道援助のルートとして残るのは、北西部のバブ・アル・ハワのみとなっており、この決議が投票に付される7月10日には、この最後の越境地点さえも閉鎖されかねない。

越境許可が絶たれることの影響

越境許可が更新されなければ、すでに絶望的なシリア北西部の人道的状況はさらに悪化する。医療・人道支援が大幅に削減され、援助が届くまでの時間も長引くことが予想される。北西部で活動する数少ない医療団体の一つとして、MSFも援助を届ける上で多くの困難に直面すると懸念している。どの医療施設でも医薬品が不足し、患者の命が危険にさらされる事態となる。さらに、この地域での新型コロナ対応や集団予防接種も影響を免れない。個人防護具や酸素ボンベ、人工呼吸装置、医薬品、ワクチンなど、必須物資の供給が滞ることになるからだ。

「シリア内戦が10年に及び、この決議の更新はかつてないほど重要なものとなっています。何百万もの人びとの命がかかっており、その大半は女性と子どもです。MSFは国連の委任を受けたパートナーではないため、この決議による許可のみに依存した越境援助を行っているわけではありません。ただ、閉鎖された場合、MSFの現地チームは直ちにその影響を受けることになるでしょう。国連機関やその他の団体がシリア北西部への援助を大幅に削減すれば、その欠落を補うことは不可能です」とMSFのシリア活動責任者を務めるファイサル・オマール医師は説明する。

シリア北部のラッカの近郊で医療・人道的ニーズを調査するMSFチーム=2017年 © Diala Ghassan/MSF 
シリア北部のラッカの近郊で医療・人道的ニーズを調査するMSFチーム=2017年 © Diala Ghassan/MSF 

悪化の一途をたどるシリアの生活環境

現在も続くシリアへの経済制裁に加えて、今年起きた経済危機と通貨の切り下げにより、国内全域で人びとの生活が大幅に悪化している。国連機関によると、援助に用いる食料の価格は220%以上まで高騰し、人口の80%が国際貧困ライン以下にとどまる生活をしている。また、90%の子どもたちが人道援助に頼っている状況だ。

MSFはこの1年間、シリア北東部で新型コロナ対応を行うなかで、アル・ヤルビヤを通過する国連の越境支援を更新しないという安保理の決定により、大きな人的被害が生じていることを目の当たりにしてきた。イラク経由の救命援助が、北東部に届かなくなったためだ。そのような事態を今年、北西部で繰り返してはならない。

MSFは、国連安保理の常任理事国および非常任理事国に対し、越境決議を更新するとともに、北西部のバブ・アル=サラームと北東部のアル・ヤルビヤの越境地点を復活させることを求める。越境のみが実行可能な人道援助の経路であることに変わりはなく、両地点なくしてシリア北部で高まり続けるニーズには応えられないからだ。

MSFは現在、シリア北西部で8カ所の病院、12カ所の基礎診療所、救急車5台の運用を支援するとともに、国内避難民キャンプ80カ所余りでの移動診療支援、同キャンプ90カ所余りで水と衛生活動を行っている。

シリア北東部では、MSFは2カ所の新型コロナウイルス感染症入院施設、ERを含む包括的な基礎医療施設1カ所、非感染性疾患と栄養失調のケア、12カ所での定期的な予防接種を支援し、アルホール・キャンプの住民に水と衛生活動、栄養ケア、一次医療を行っている。

最近では、新型コロナ感染者数の増加にともない、MSFは対応能力を備えた医療施設を支援している。昨年は、シリア北部で新型コロナ隔離治療センター6カ所の開設、移動診療による迅速診断検査導入を支援し、北西部の医療施設で、世界保健機関(WHO)の研修を受けた新型コロナ予防接種チームの受け入れ、新型コロナの予防とワクチン接種を迷っている人を対象にした健康教育を支援した。

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