プレスリリース

地中海:相次ぐ事故で100人以上が死亡——目を背ける欧州

2022年04月06日
浸水したゴムボートから救出された113人=2022年3月29日 © Anna Pantelia/MSF
浸水したゴムボートから救出された113人=2022年3月29日 © Anna Pantelia/MSF

粗末なボートでリビアから欧州を目指す難民・移民の海難事故が相次いでいる。地中海中央部では3月最終週だけで2件の事故が起き、100人以上が命を落とした。また130人以上がリビア沿岸警備隊に拘束され、リビアに強制送還された。送還された人びとはリビアの収容施設で不当な扱いを受け、拷問に遭う可能性が高い。国境なき医師団(MSF)は、遭難船の救助に対するイタリアとマルタの対応の不備を指摘。さらには、欧州連合(EU)がウクライナ危機に対し深い連帯を示しているにも関わらず、地中海での死者と人権侵害に対して無関心でいることを非難する。 

助かった命と失われた命

3月29日午後、MSFの捜索・救助船「ジオ・バレンツ号」は地中海中央部で漂流するゴムボートから113人を救助した。救助活動時にはボートから大勢の人が海に転落し、燃料を吸い込み意識を失う人もいたが、全員が無事に救助され手当てを受けた。同船は現在、全員を安全に下船させられる港の割当を待っている。

「ゴムボートの底が抜けて水が入ってきたので、驚いて海に飛び込みました。救助スタッフが引き上げてくれましたが、そこで気を失ってしまって、その後のことは何も覚えていません」ギニア共和国出身のジャンさん(17歳)は当時の状況をそう話した。

MSFプロジェクト・コーディネーターとしてジオ・バレンツ号に乗るキャロライン・ウィレメンは、「MSFが治療した生存者の多くは低体温症で、燃料による中毒の重症例もみられました。海上で過ごした時間と、漂流した船の状況、そして生死を分ける救助活動を経験し、大半の人が心に傷を負っています。さらに、3分の1は保護者のいない未成年者で、そのうち何人かは15歳にもなりません」と話す。

3月31日には、リビア沖を数時間漂流し、遭難信号を発していた超満員のゴムボートが、リビア沿岸警備隊に拘束された。船内には子ども4人と女性7人の遺体が発見された。生存した126人は全員がリビアに強制送還されたため、現在も同国内で拘束されている可能性が高い。
 

無視された援助の申し出

救助された中には海上生活で疲れ果て、海に落ちた人もいた=2022年3月29日 © Anna Pantelia/MSF
救助された中には海上生活で疲れ果て、海に落ちた人もいた=2022年3月29日 © Anna Pantelia/MSF

4月2日には、欧州に渡ろうとして少なくとも4日間海上を漂っていたボートに乗っていた90人余りが死亡。詳しい死因は不明だが、生存者4人が商業タンカー「アレグリア1号」に救助された。ジオ・バレンツ号のMSFチームは、漂流船の見張りを続けていたところ、同タンカーにボートの救助を指示する無線通信を受信。速やかにアレグリア1号に対し生存者の医療援助を申し出るとともに、海事法やその他の法的義務に則り、最寄りの安全な港への搬送を要請した。しかしアレグリア1号は要請に応じず、リビアへの航行を続けた。

「4人の生存者への援助を繰り返し申し出て、リビアには連れ戻さないでほしいとも伝えましたが、聞き入れられませんでした。彼らはリビアの地獄から抜け出し、なんの援助もなしで数日間漂流しながら、何十人もの仲間の死を目撃しています。そのような想像を絶する試練の後、リビアへ送還され、逃れようとしていた暴力と搾取と虐待の悪循環に再びのみ込まれてしまったのです」

そう話すウィレメンはEUにこう訴える。「欧州域外国境管理協力局(FRONTEX)をはじめ、この海域にいる欧州の航空機と船舶に、一連の悲劇的な出来事の状況解明を求めます。EUと加盟国が地中海の捜索・救助活動から手を引き、リビア沿岸警備隊の支援に回ったことが、一帯での死者の増加と人権侵害の根底にあるのです。欧州はいつになったら、国境ではなく人命を守る責務を果たすのでしょうか」
 

 MSFは2015年から、地中海中央部の捜索・救助活動を展開し、これまでに単独または他のNGOと合同で8隻の船で活動。複数のチームで合計8万4000人余りを援助してきた。現在のチャーター船「ジオ・バレンツ号」による活動は2021年5月に始まり、2453人を救助し、10人の遺体を引き上げている。

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