海外派遣スタッフ体験談
家庭や職場の理解を得て、初の参加を実現
西島 翔太
- ポジション
- 産婦人科医
- 派遣国
- ナイジェリア
- 活動地域
- ジャフン
- 派遣期間
- 2015年8月~2015年10月

- Qなぜ国境なき医師団(MSF)の海外派遣に参加したのですか?
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海外での医療支援には、以前から興味をもっていました。私には小さい子どもが3人おり、妻を含め家庭の負担を懸念していましたが、外科系ポジションは比較的短期間でも参加可能な事を知り、1年前から準備(主に英語のブラッシュアップ、家庭や在籍している病院での理解・周知)を始めました。
- Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?
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産婦人科の技術面について、不安はありませんでした。英語については毎日触れるようにし、具体的には英会話スクールへ通ったり、それ以外の日は自宅で子どもたちが寝静まってからオンライン英会話を行ったりしていました。在籍していた病院での引き継ぎをスムーズに行うため、派遣2ヵ月前に常勤医からフリーランスへ勤務を変更しました。またMSFのプロトコルや送られてくる資料の確認を行いました。
- Q今までどのような仕事をしてきましたか? また、どのような経験が海外派遣で活かせましたか?
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私はスーパーローテート研修医(※)世代で、さまざまな経験を積める病院に在籍していました。今までの多くの経験が一つの自信になっていましたが、実際行ってみると苦労したのも事実です。
- 初期研修において、一次医療に必要な多種の科を広く研修する方式。
- Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
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ジャフンの病院で手術を行う筆者(左)
私が参加した活動は、産科と、産科フィスチュラ(膀胱膣瘻)のプロジェクトです。ナイジェリア北部にある、ジガワ州のジャフンという地域の病院で働きました。
産科は年々患者数が増加(月に約500件の分娩)し、以前は海外派遣スタッフの産婦人医が1人体制だったのに対し、現在は2人体制となっています。その他の派遣スタッフは医療チームリーダー、助産師(今回この2人は日本人スタッフでした)、麻酔科医、新生児科医、看護師長、薬剤師、ロジスティシャン、アドミニストレーターなど10人以上のチームでした。私が初回派遣ということで、さまざまな面を皆が気を遣ってくれ大変助かりました。
MSFの経験者から聞いてはいましたが、子癇(しかん)や常位胎盤早期剥離(はくり)は毎日診ました。高度貧血の患者も多く、高拍出量性心不全を考慮し輸血の速度に気をつけました。私自身初めて扱う薬もあり、慣れるのに時間を要しました。また乳腺膿瘍(のうよう)や創部炎症に対するデブリードマン(壊死<えし>した部分の切除)も多く行いました。
産科フィスチュラの症例は別の専門医が担当しましたが、今回私は積極的に見学する時間の余裕はありませんでした。
- Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
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午前8時からICU(集中治療室)及び陣痛室(分娩前の救急対応と分娩進行の経過を診る場所)の回診、その後、主に陣痛室での対応や手術を行っていました。
ほとんどの手術は、手術室看護師が助手(いわゆる前立ち)として入ります。夜間は私ともう1人の派遣産婦人科医、別病院からサポートとして来る現地の非常勤産婦人科医の3人で順番にオンコールを担当しました。
オンコール日は何度も呼ばれて大変でした。オンコールのない夜は電子書籍リーダーでダウンロードした日本の小説や漫画を読んで気分転換を図りました。
- Q現地での住居環境についておしえてください。
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個室が用意され、クーラーも付いています。WiFiが使用でき、ビデオ通話ができるアプリ「Face Time」(Skypeより安定してます)で家族と連絡を取ることができました。シャワーはお湯が出ず、水量制限がありました。予想していたより宿舎全体のスペースが広く、閉塞感は感じませんでした。
- Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
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多くの手術は工夫して行う必要がありました。例えば多産婦は子宮筋層が柔らかく、帝王切開時の子宮切開創は予想以上に裂けやすくなっています。また子宮破裂の症例も多く、裂け方によっては膀胱損傷まで来していることもあり、婦人科で行う子宮摘出とはイメージ、視野が大分異なりました。
着任から1ヵ月が過ぎて、病院にある唯一のエコーが故障したため、患者さんの訴えを一段と注意して聞くよう、自身の診察がより慎重になった事を思い出します。
- Q今後の展望は?
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英語のさらなるブラッシュアップを行います。
検査と、検査でわかることが限られている中で、患者さんの病態と治療方針についてディスカッションを行うことが難しいと感じました。また英語力の向上とともにプロトコルに述べられている解釈をより一層理解し、次の活動で迅速に行動できるようにしたいです。
- Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス
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初回の派遣は日本との環境、診療や価値観の違いに苦労するかもしれません。私はそうでした。だからこそ、次はもっと現地で貢献したいという思いがあります。高いモチベーションや行動力があれば、MSFはしっかりサポートしてくれます。まずは履歴書を送ってみて下さい。