海外派遣スタッフ体験談
紛争の激化で急きょ緊急援助へ切り替え
熊澤 ゆり
- ポジション
- 財務コーディネーター
- 派遣国
- イエメン
- 活動地域
- サヌア
- 派遣期間
- 2014年3月~2015年6月

- Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?
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2009年から機会あるごとに活動に参加させていただいていました。前回のフィリピンの緊急援助から帰国しひと休み出来たころに、今回のイエメン派遣のお話をいただきました。当初は、プログラムのアドミニストレーターだったのが、途中で財務コーディネーターにポジションが変更されました。
- Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?
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健康の管理や、語学の研修などを受けました。
- Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?
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サヌアの街、空爆で崩れた建物
イエメンは2回目、しかも同じ地域での派遣でしたので、古くからいる現地スタッフは気心の知れた人たちであり、イエメンの文化や事情もそれなりに理解していたので、仕事はしやすかったです。
また、今回は首都のコーディネーターの仕事ですが、以前のプログラムでのアドミニストレーターの経験が役立ち、実際の活動の視点から財務・人事の仕事を見ることが出来ました。
今回、参加当初は通常のプログラムだったのですが、2015年3月末に連合軍の空爆が始まって以来、緊急援助プログラムに変更になりました。今まで2回緊急援助プログラムに参加した経験があり、人の移動や運営の仕方など、通常プログラムとの違いをある程度把握していましたので、自分の中で切り替えが比較的容易に出来ました。
- Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
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MSFの医療物資がサヌア空港に届けられる
今回は時期的にイエメンの治安状況が急速に悪くなって行ったこともあり、私のポジションも、当初の財務コーディネーターから財務・人事兼任コーディネーター、さらに人事コーディネーターへと、状況の変化とともに変わりました。
また、治安の悪化によるリスクを回避するために、ヨーロッパにある運営本部の方針で、一時期からは、イエメンへの人や物資の輸送の拠点になっているジブチなど、国外に拠点を移し、そこから現地スタッフに指示を出してプログラムを進める形で、遠隔で仕事をしていました。
財務・人事の仕事で若干の変化はありますが、それぞれ、私以外に現地スタッフが2~3人いました。主な仕事は以下の通りです。
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財務コーディネーター
- 予算及び年度途中の補正予算の作成
- 毎月の予算消化状況の把握及び財務報告の作成
- 経理の状況のチェック
- 各種契約書(事務所や宿舎の賃貸等)の管理
- 財務安全規則の定期・随時の見直し及びその実行の確認
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人事コーディネーター
- 人事計画の作成
- 人事管理
- スタッフの移動のためのビザ・航空チケットの手配
- スタッフ研修の申請手配
- 現地スタッフの給与体系の見直しのためのデータ収集など
- Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
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今回、財務・人事の管理的な仕事だったことと、治安の関係で現場にほとんど行けないため、ほぼ終日事務所でメールや電話、スカイプで現場やヨーロッパの運営本部と連絡を取りながら仕事をしていました。
お昼休みは、サヌアでは宿舎で同僚と昼食を食べていました。コックさんがいて食事を用意してくれていたので助かりました。ジブチでは外食が主でした。
仕事が終わる時間はその時の仕事の都合でまちまちでした。特に緊急援助になってからは人の移動などの関係で夜遅くまで気が抜けない状態になることが度々ありました。
サヌアでは外出が出来ない状況だったので勤務外の時間は宿舎で本を読んだり、家族や友人にメールを書いたりしていました。毎日やっているヨガを休日に同僚と一緒にやったこともあります。アンマンは治安が良く自由に外出もできたので買い物や散歩に出たりして、日本と変わらない休日を過ごしていました。
- Q現地での住居環境についておしえてください。
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サヌアでは、事務所から車で5分弱の距離にあるスタッフ用の宿舎で生活していました。それぞれ個室と共同のリビングルーム、台所、トイレ・シャワー室がありました。さらに地下室は倉庫とジムのスペースがありました。治安の関係で外を歩くことが出来なかったので運動不足解消のためにジムを利用している人は多かったです。
ジブチでは、緊急援助の初動だったためホテル生活でした。シングルの部屋が私個人の部屋兼事務室になっていたので、なかなか公私の切り替えが難しかったです。帰国前にスタッフ用の宿舎の賃貸契約が出来たのですが、引っ越し直前に帰国しましたのでホテル生活しか経験できませんでした。
- Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
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空爆により破壊されたサヌア空港の滑走路
今回、現地スタッフのヨーロッパでの技術研修参加のための準備をしていたのですが、イエメンの治安の悪化とともに、ビザの申請が難しくなり、また、空爆が始まって航空便がキャンセルされたため、研修参加がかないませんでした。
かなりの時間とエネルギーを使って計画・準備してきたことが、紛争の影響で完全に中止になり、がっかりしたと同時に、紛争というものが単に物理的な被害だけでなく、いかに国の機能等を低下させるか実感しました。
一方で、待ち望んでいた研修がキャンセルになり一番ショックを受けていたはずのスタッフが、緊急援助で頑張ってくれ、彼らの立ち直りと努力に頭の下がる思いです。状況が変わり、彼らが「復興」に貢献できる日が、そしてそのための支援が出来る日が1日も早く来てほしいと願っています。
- Q今後の展望は?
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今回、1年3ヵ月という長期の、変化の多い活動だったので、今は体調を整え次に備えたいと思います。
- Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス
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MSFの派遣先では「想定外」の事態に直面することが度々あります。その中で、MSFの規則や決定と、自分が最良と考える事が必ずしも一致するわけではありません。当たり前のことですが、これは結構なストレスというか、エネルギーの消耗につながります。
そんな中で自分の心身を健康に保ち、自分として一番良い選択、活動が出来るように整える考え方(柔軟性)だけでなく、運動やちょっとした趣味のような気分転換の方法をいくつか持っていると良いと思います。
MSF派遣履歴
- 派遣期間:2013年11月~2013年12月
- 派遣国:フィリピン
- 活動地域:レイテ島ブラウエン
- ポジション:アドミニストレーター
- 派遣期間:2012年12月~2013年6月
- 派遣国:エチオピア
- 活動地域:アロレッサ
- ポジション:アドミニストレーター
- 派遣期間:2012年5月~2012年7月
- 派遣国:南スーダン
- 活動地域:ワオ/ラジャ
- ポジション:アドミニストレーター
- 派遣期間:2011年1月~2011年9月
- 派遣国:ケニア
- 活動地域:イジャラ県
- ポジション:アドミニストレーター
- 派遣期間:2009年10月~2010年10月
- 派遣国:イエメン
- 活動地域:サヌア
- ポジション:アドミニストレーター