タジキスタン:子どもを薬剤耐性結核から救う——MSF看護師の1日

2012年10月16日

中央アジアのタジキスタンで、国境なき医師団(MSF)は、子どもの薬剤耐性結核(DR-TB)患者を対象とした治療プログラムを提供している。ニュージーランド出身のシンディ・ギブ看護師もその一員だ。子どもの治療をきっかけに、家庭訪問を通じて家族の状況も確認する「家庭内結核プログラム」の一環で、同国内の各地を訪問している。ギブ看護師の1日を追った。

タジキスタンは、かつてのソ連ブロック(ソビエト連邦とその同盟国)の中でも最貧国の1つだ。そのソ連ブロックは、欧州で最も結核の罹患率が高い。しかし、経済上の問題と保健医療体制の資金不足で、薬剤耐性結核(DR-TB)の患者がおざなりにされる構造がある。診療を受けられなければ、感染力の高いDR-TBは瞬く間に友人や親類の間に広がり、家族を崩壊させ、偏見や不安を生み出すとみられる。

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小児結核病院で患者を巡回

MSFのシンディ・ギブ看護師 MSFのシンディ・ギブ看護師

タジキスタンの首都ドゥシャンベの午前8時。夏の日差しで辺りは既に暑い。私は同僚がオフィスに着く前に始業するのが好きだ。

今日は、喀痰(かくたん)誘発の計画に時間を割かなければならない。幼い子どもたちの多くは、検査に必要な痰を出せない。そのため、子どもの結核の細菌学的診断は難しいのだ。

小児結核は"顧みられない病気"で、治療法の研究開発も不十分だ。明確な診断方法もない。今回の治療プログラムは治療の指針を定めるもので、MSFにも世界全体にも有意義だ。

私の勤務時間は、オフィス、ドゥシャンベの小児結核病院、ドゥシャンベから東に17kmの町・マチトンに分配される。マチトンでは先日、DR-TBの子どもを治療する特別病棟をMSFが開設した。

午前9時半。MSFの医師とともに小児結核病院を訪れる。入院中の子どもたちの出身は、ハトロン州から北部のソグト州までと広く、治療が6~8ヵ月続く子もいる。薬の効く結核にかかっている子どもが約30人、DR-TBにかかっている子どもが5人。私の役目は治療と、結核治療薬の副作用に対応する病院スタッフの監督だ。

結核の子どもの家庭を訪問

山道を登って家庭訪問を行うMSFスタッフ 山道を登って家庭訪問を行うMSFスタッフ

さらに家庭訪問もする。院外患者が10人おり、その家庭を定期的に訪問するのだ。その範囲は、車で20分の古い市壁の内側で家族と共に暮らすマルハボさん(13歳)宅から、4時間もかかるハトロン州南部のシャールトゥズやハマドニといった地区にまで及ぶ。同地区は国内でも最もDR-TBの有病率が高い地域の1つだが、保健医療の提供は期待できない。

昨日は、多剤耐性結核(MDR-TB)にかかったナディラさんと、同じく結核の幼い息子たちを訪ねた。家族はドゥシャンベの北の人里離れた村で暮らしている。病院からは40kmほどしか離れていないが、道がひどく、車でも片道約2時間かかる。

最後の20分はいつも徒歩で登山だ。秋から春の間は、この未舗装の道だけになる。冬は雪に閉ざされ、幹線道路からも隔絶されてしまうという。

退院後の治療環境を確認

ここ最近は忙しかった。プログラムの対象になっていた患者が3人、1週間のうちに退院したからだ。今後は自宅で治療を続けることになる。

結核病院からの退院が決まると、私は円滑な退院に向けた準備に取りかかる。薬が手に入るか、地元診療所の看護師に患者の治療を引き継げるだけの訓練経験と意欲があるか、家族が最寄りの医療施設を訪れる必要が生じた際に利用可能な交通手段はあるかを確認するのだ。

通常、服薬の指導や注射を行うのは地元の看護師だ。しかし、ナディラさん一家の場合は、一家の遠縁でMSFの訓練を受けた女性が、ボランティアで行う。彼女は正規の医療訓練を受けていないが、村には他に適任者もいない。

患者の家族や介護人も援助

MSFが自宅療養の患者に届けた1ヵ月分の治療薬 MSFが自宅療養の患者に届けた1ヵ月分の治療薬

私たちは、患者の家族や介護者に、交通費や携帯電話の通話料などを提供している。また、週に1度、缶詰の肉、魚、牛乳、野菜などの基礎物資をまとめた食品セットを配っている。

来週、私はナディラさんの姉妹のグルナラさんの家族を訪問する。グルナラさんだけでなく、2人の娘のハサンちゃんとディルノザちゃんも、MDR-TBを発症している。いわゆる「家庭内結核」だ。家族間に強い絆があり、結婚後も同居する伝統があるため、家庭内の接触経路の特定はこのプログラムの重要な要素だ。

車の中でようやく、結核にかかった子どもの喀痰誘発の計画を練る時間ができた。それ以外の時間はタジク語の練習だ。私の任務は移動が多いが、この任務に就いて、タジキスタンの風景を隅々まで見られることを特別なごほうびのように感じている。援助プログラムは拡大中で、外来治療を受ける患者数も増えている。

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