マンゴーだけを3日食べた。食料は尽きた。5人家族はいま。

2019年07月25日

マンゴーだけを食べて3日。3人の子を育てる母ポエリィス・コルドバは、故郷ベネズエラからの脱出を決心した。この数ヶ月ずっと食糧不足にあえいできた。幼い子たちには何かしら食べさせるために切り詰めてきたが、もう限界だと悟った。そう、生きなくては——。 

Esteban Montaño / MSFEsteban Montaño / MSF

 「かつて夫はレンガ積みの仕事で稼ぎがよく、まずまずの暮らしをしていました。でも、暮らし向きは徐々に悪くなり、手持ちのお金ではイワシやトウモロコシ粉を買うのがやっとに。ついには、子どもたちの分の食料しか買えなくなってしまったんです。やがて、それさえ手に入らなくなり……夫はスーツケースいっぱいのマンゴーを持って帰ってきました。それも食べ切り、もうこれ以上は無理だと悟りました」

ベネズエラは政情不安に陥り、食糧不足やインフレが続いている。人々は故郷を離れ、大挙して隣国コロンビアに逃げ込んでいる。コルドバは、そうしたベネズエラ移民の一人。国境なき医師団(MSF)は、こうした人たちに医療を届ける活動を続けている。政府の対応が、その医療ニーズに追いついていないからだ。

コルドバの一家は、まず夫がコロンビアに渡った。その数ヶ月前、国境の町ノルテ・デ・サンタンデール県ティブに兄弟が移住していた。7カ月後、コルドバは5歳の息子とともに夫に合流し、さらにその1年後やっと7歳と9歳の子どもたちを呼び寄せられた。いま、ディビノ・ニーニョという地域に住む。板張りの床、プラスチックの壁、トタン屋根——家賃を払えないベネズエラの移民が暮らす非公式コミュニティだ。

「生活は楽ではありません」。劣悪な生活環境、食べものの心配。それに加えて、末の子が胃炎を起こした。「大ごとではなさそうだったので、国境なき医師団(MSF)の診療所に連れて行くことにしました。最寄りの病院は、急患でない限り、ベネズエラ人を診てくれないんです」

ベネズエラと国境を接するコロンビアの3地域ノルテ・デ・サンタンデール、アラウカ、ラ・グアヒーラでは、急病、ワクチン接種、出産を除いて、ベネズエラ人は国の医療サービスを使わせてもらえない。そのため、MSFは2018年11月~2019年5月、1万2000人を超えるベネズエラ人患者を診た。

出産すると・・・

マリリン・ディアスもその一人。1年前にベネズエラからティブに渡り、地元病院で2人目の娘を出産したばかりだ。だが、病院を退院させられると、行き場がなかった。薬の処方と産後診療を受けられるのはMSFしかなかった 。

Esteban Montaño / MSFEsteban Montaño / MSF

女性と子どもは特に保健医療のサービスを必要としている。2018年11月~2019年5月、MSFの診療所で受診した患者の約4割が5歳未満だった。産前ケアが約2500件、家族計画の相談が4600件余り。皮ふのアレルギー、呼吸器感染症、尿路感染症、婦人科疾患が目立つ。14歳未満では下痢と腸内寄生虫に関わる疾患が多い。

メンタルヘルス相談も約1000人が受けた。移民という不安定な状態。大変な職探し。離れ離れになった家族——こうしたことから、不安と抑うつ症状が起きる。

「コロンビアに暮らすベネズエラ移民が、基礎的・専門的な医療を受けられずにいるのは、保健医療の危機です。国際社会がもっと目を向けるべきです」。コロンビアでMSF活動責任者を務めるエレン・リムショーは訴える。「移民の医療ニーズに対して、コロンビアの保健医療システムは応えきれていません。リソースも人材も足りません。そのため、多くの移民は、病院で救急医療も迅速に受けられずにいます。法的に保証されているにもかかわらず」

「国際社会のもっと大きな関与が必要です。人道援助を広げ、病院を直接的に支援して、ベネズエラ移民が利用しやすくするべきです。緊急に対応すべき危機です」 

移民に加えて・・・

ベネズエラと接するコロンビアのこの3地域に暮らす35万人の移民だけが、保健医療を必要としているわけではない。連日、数千人が、医療や薬を求めて国境を渡る。多くが、ベネズエラでは受けられない治療を求めて。

ヤミレス・ゴメスはベネズエラから4時間余りかけてコロンビアにたどり着いた。「バスの乗車券を買うお金もなかったので、ヒッチハイクをして来るほかありませんでした」

1月に甲状腺の病気だと診断された。「ベネズエラでは必要な薬が手に入らないんです。コロンビアでも手持ちのお金で買える価格ではありません」

教員だったゴメス。だが、頭痛、頻脈、嘔吐、下痢などの症状に加え、声を出すのにも支障がでて、仕事をやめざるを得なくなった。「MSFで薬をもらえるので、普通の生活に戻れるといいのですが……」
 

Esteban Montaño / MSFEsteban Montaño / MSF

だから医療を届ける

3人の子の母コルドバ、出産したばかりのディアス、教員のゴメス。ベネズエラとコロンビアの国境で、必死に生きる人たちがいる。ベネズエラでは、食べ物も、薬も手に入れるのが難しくなっている。隣国コロンビアに逃げても、そこで安全に生活し、働き、病院にかかれるわけではない。MSFは医療支援を続ける。そこに必要とする人たちがいるから——。 

Esteban Montaño / MSFEsteban Montaño / MSF

(敬称略) 

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