ベネズエラ:崩壊しかかってる地域医療体制 マラリアから患者を守る

2020年02月03日掲載

マラリアかどうかの検査を受ける金鉱山で働く男性 © Adriana Loureiro Fernandezマラリアかどうかの検査を受ける金鉱山で働く男性 © Adriana Loureiro Fernandez

大きな政治経済面の危機に陥っているベネズエラ。だが意外なことに、ベネズエラ南部にある最大のボリバル州では、違法な金鉱山で何年も活気づいている。この『黄色い金属』を求めて、多くのベネズエラ人がボリバルに向かい、ここで生計を立ててから自宅かブラジルへ避難しようと考えている。このボリバル州を含めたベネズエラで近年、マラリアが大流行している。2019年には中南米で最も症例数の多い国となった。診断された症例は、32万件にも上った (出典:汎米保健機構、2019年)。 

ベッドで横になるヨルダンさん © Adriana Loureiro Fernandezベッドで横になるヨルダンさん © Adriana Loureiro Fernandez

診療所のベッドで横になっているのは、ヨルダン・ペントハさん(27歳)だ。ヨルダンさんは今、重症マラリアの治療を受けている。今朝、気分が悪くなり、来院した。だがこれまでにもヨルダンさんは、金鉱山で働き始めてから1年半余りの間に、10回以上もマラリアと診断されている。

「マラリアはこの辺ではペストみたいなものです。あまりにも多くの友達や同僚がマラリアになったので、途中で、罹った回数を数えるのを止めてしまいました」と言って、ヨルダンさんはため息をつく。

50年前、ベネズエラは南米におけるマラリア対策の牽引国として、しばしば耳目を集めていた。根絶には至らなかったものの、この対策によって国内の症例数は激減。だが近年、マラリアはベネズエラで再び大流行しはじめた。2019年には中南米で最も症例数の多い国となった。診断された症例は、32万件にも上った (出典:汎米保健機構、2019年)。 

経済危機で大打撃 不足する医薬品

40回もマラリアに罹ったという女性(右) © Adriana Loureiro Fernandez40回もマラリアに罹ったという女性(右) © Adriana Loureiro Fernandez

「この場所が全ての始まりです。見方によっては全てが終わる場所になるかもしれません」と、ヨルヴィス・アスカルニオさんは話す。ヨルヴィスはボリバルで、国のマラリア対策に従事する公衆衛生調査官を務めている。ここシフォンテス市では、マラリアが風土性になった。

「経済危機がベネズエラを襲ったとき、シフォンテス住民は大打撃を受けました。最初は医薬品の在庫がどんどん減り、その後直ぐに、わずかな医薬品を手渡す患者を選ぶ必要がでてきたのです。重症患者に注力する他なくなりました。他の診療所や診断拠点も同じ状況でした……。私はもう12年間この地域で働いているのですが、この時は本当にきつかったのです」

国境なき医師団(MSF)は2016年に、ボリバルで活動を開始。ベネズエラ保健省と連携して、国のマラリア対策を支援している。それ以来、MSFはボリバル州内にあるさまざまな診断拠点を 支援し続け、マラリア患者が適切な治療を受けられるよう、援助活動を行っている。1年前にMSFは、スクレ州カルパノにあるマラリア研究所とも連携を開始。ここでも国をあげてのマラリア治療体制増強に取り組んでいる。 

MSFの健康教育担当スタッフを務めるヨシュア・ノナト(左) © Adriana Loureiro FernandezMSFの健康教育担当スタッフを務めるヨシュア・ノナト(左) © Adriana Loureiro Fernandez

「ボリバルでは、いわゆる媒介虫駆除分野でも手助けをしています。家屋を燻蒸し、蚊帳を住民に配って感染リスクを減らしているのです。健康教育担当スタッフとして、私は人びとにマラリアの症状はどういうものか、具合が悪くなったらどうすればよいか教えています。重症で手遅れになる前に誰もが治療を受けられるように」とMSFの健康教育担当スタッフを務めるヨシュア・ノナトは説明する。

MSFが立てた作戦は、『マラリア感染リスクがある人びとのできるだけ近くへ行く』というものであった。そのため、診断・治療拠点のほとんどは鉱山の中に設けられている。MSFは国のマラリア対策と連携してこれらの拠点を監督している。

2019年には、5万5000人が地域各地で開催されたMSFの健康教育講座を受講。このほか、MSFは、8万5000人のマラリア患者を治療、6万5000張りの蚊帳を配布し、530世帯で薬剤噴霧を行った。全体では、25万回のマラリア診断検査実施を手助けした。それ以来、シフォンテス市内のマラリア症例数は約40%減少した。 

マラリア以外の病気にも支援を拡大

MSFの顕微鏡検査技師であるモンセラート・バリオス © Adriana Loureiro FernandezMSFの顕微鏡検査技師であるモンセラート・バリオス © Adriana Loureiro Fernandez

「多い時で200人が診断拠点の前に並びました。それとまた別に、大勢の人がマラリア感染のため、診療所に直行しなければなりませんでした。当時はまだ、治療できる場所が今ほど多くはなかったので」とMSFの生体分析担当を務めるモンセラート・バリオスは話す。モンセラートは研修担当として、診断拠点に配属される、新人の顕微鏡検査技師を担当している。 

顕微鏡でみたマラリア © Adriana Loureiro Fernandez顕微鏡でみたマラリア © Adriana Loureiro Fernandez

またMSFは、サント・ドミンゴというラス・クラリタス町内の診療所も支援している。当初は町民2万人のために造られたが、現在では7万5000人余りを担当域に抱えている。ここ数年で、町に来て暮らす人が増えたためだ。MSFはマラリア予防、診断、治療を担ってきたが、支援を拡大して他の病気や健康上のニーズにも応えている。

MSFの医療活動マネジャーを務めるファニーA.カストロはこう話す。

「他の部門も助けがいることが分かっていました。患者が多く、非感染性慢性疾患になった人や急患、病院への搬送もあったためです。現在は、活動の軸足をリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に移しています。それにより、家族計画や分娩も引き受けるようになりました。全体的な状況をもっと良くし、診療を受けやすくしていきたいと考えています。給排水設備も設置したほか、廃棄物管理施設も病院周辺に造りました。これでケアの質はかなりよくなる見込みです」

だが、健康上のニーズは、ラス・クラリタスやシフォンテスの2つの地域をはるかに上回っている。ベネズエラの経済危機により、医療体制全体が大きなダメージを追っているためで、どこへ行ってもその影響が現れているからだ。MSFは、ボリバルをはじめとした国内にある複数の州で最も差し迫ったニーズに応えようと努めている。間もなくMSFは、ボリバル州内にあるトゥメレモ市にある地域病院の支援も開始する。

MSFは今後も、ベネズエラのマラリア対策をさらに強化していく。また、トゥメレモ市をはじめ、国内各地で診療拠点を増やして医療を受けやすくする計画も進めている。 

ボリバル出身の先住民。病院の助産師のサポートを得て、10人目の子どもを産んだ © Adriana Loureiro Fernandezボリバル出身の先住民。病院の助産師のサポートを得て、10人目の子どもを産んだ © Adriana Loureiro Fernandez

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