C型肝炎とHIVに感染…二重感染を克服した元患者が同じ病に苦しむ患者の相談役に
2019年01月11日
世界では、HIVとC型肝炎に二重感染している患者は230万人いるといわれている。HIV陽性の患者の場合、C型肝炎は最も命を脅かす病気だ。進行が速く、治療をしなければ、肝硬変や肝がんで亡くなることが多い。だが、C型肝炎は治療をすれば治る病気だ。
ウクライナ南部ミコライフ。国境なき医師団(MSF)は、C型肝炎になっているHIV感染者の治療に取り組む。無償の診断検査、新薬による治療、家族・患者向けの病気に関する教育、カウンセリングなど、総合的なアプローチを取り入れている。C型肝炎とHIVに二重感染している患者で、治療が成功した患者の割合は、95%を超えている。
「治療せずに放っておけば、C型肝炎は命取りになります。時に、HIVを抱える患者にとっては…。でも、きちんと治療をすれば治る病気です」と話すのは、MSF医療コーディネーター、フランキング・フリアス。「治療にはソホスブビルとダクラタスビルを使います。世界保健機関(WHO)が勧める新しい飲み薬で、C型肝炎を最短12週間で治してくれる上に、副作用も少ない。これに比べて、従来からのC型肝炎治療モデルは注射薬を使うもので、少なくとも治るまでに4倍も時間がかかりました」
患者を支える、「ピア・エデュケーター」

MSFはピア・エデュケーターを採用して治療の手助けをしてもらっている。ピア・エデュケーターとは、『仲間(ピア)に教育する人』を意味し、同じ病を克服した元患者が、同じ病気を抱える患者のさまざまな相談に乗り、問題の解決を目指す。MSFのピア・エデュケーターは、皆がC型肝炎を克服した元患者だ。同じ病気の苦しみを知る『仲間』として、自身の経験を基に、患者にとって生活に治療を取り入れやすくなるようアドバイスをしたり、治療を終えるまでに経験する差別や家計の問題、心身の苦しみなどを分かち合ったりする役割を担う。ピア・エデュケーターのサポートによって、MSFプロジェクトに関わった全ての患者が、全員無事に治療を終えており、成果を挙げている。
私も以前は二重患者でした…マクシムの思い
マクシムも、ピア・エデュケーターだ。マクシムは、C型肝炎とHIV感染の両方にかかった二重感染者だ。
マクシムがC型肝炎になっていると分かったのは、18年前。「風邪をひいたので病院に診察に行くと、C型肝炎による発疹が偶然見つかりました。検査を受けて、やはりC型肝炎だと分かりました。感染症の病院に直行しましたが、そこで受けられるのは、ひどい副作用が出ることで知られるインターフェロン療法だけ。当時は他に治療する方法がなかったのですが、私は何もしないことに決めました。奇跡を待っていたのでしょうね…。具合は日に日に悪くなるばかり。ようやく、ミコライフにあるMSFのプログラムで、新しいC型肝炎療法に出合いました。はるかに続けやすい経口薬を取り入れていたので、治療を始めたのです」
C型肝炎感染が分かってから5年後、今度はHIV感染が分かる。「娘と義理の息子が病気になったので、家族全員で検診に行こうということになったのです。みんなで検診に行ったら、私はHIVに感染していると診断されました。何ヵ月も、家族にさえ打ち明けられませんでした…。でも打ち明けたら、家族は支えになってくれたんです。今はMSFのピア・エデュケーターとして、自分の体験を患者さんたちに話しています。愛する家族にさえ、HIVを打ち明けるのを怖がっている人は多く、中には20年も黙っている患者もいます。だから私は、『家族は支えになってくれます。そして、そうした支えは他にはないですよ』とお伝えしています」
マクシムはピア・エデュケーターとして、投薬期間中に支えを必要としている患者全員を担当。「例えば検査や薬について分からないことがあった時に、医師や看護師への質問を一緒に考えたり、患者さんたちの不満を聞いたりしています。毎日薬を決められた時間に飲んでいるか、患者さんに声をかけることもしています」
もっと健康的な生活を送るよう、患者さんたちにアドバイスもするという。また、患者のご家族にも、協力を仰ぐことがある。例えば、患者の家族にHIV感染予防のために避妊具を使うことを勧めたりもしている。
マクシムは「C型肝炎は治りますし、HIVに感染していても抗レトロウイルス薬(ARV)を使った治療で長く元気に生きられます。HVでも幸せに暮らせるのです。私の場合も、妻も子どもたちもHIVは感染していません。こうしたことを患者さんたちと話し合うと、患者さんたちは、自身の人生について改めて考え、『できることはまだたくさんあるはず』と気づくことができるのです」
マクシムのように、ピア・エデュケーターは治療を成功に導く立役者となっている。これまでのところ、ミコライフにあるMSFのプロジェクトでは、全員治療を完了。薬の服用や来院を忘れて、治療を終えられなかった患者は一人もいなかった。これまでに、340人以上の患者がHIV感染者用の抗レトロウイルス薬(ARV)治療と、MSFのC型肝炎投薬の治療を終えた。予備群にあたる143人の患者も既に検査を終え、ほぼ全員でC型肝炎が治癒したことが確認されている。
ウクライナ国内には約200万人のC型肝炎感染者がいるとされている。だが、そのほとんどの患者にとって診断キットや治療薬は費用が高く、手が届かない。ミコライフでMSFのC型肝炎治療プロジェクトで治療を受ける患者は間もなく1000人に達する。そのうち750人は、HIVとの二重感染者。MSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるジェリ・ドリスキルは、「ウクライナは、診断器具や治療薬が極めて限られている。そうした中でも、効果的なC型肝炎治療法を考えていく」と話している。