「私は決して患者を見捨てない——」 あるシリア人医師の物語

2019年09月27日掲載

「投げ出したくなる時もある。でも私は決して患者を見捨てない」
爆撃が続き、明日が見えない毎日。そんなシリア・イドリブ県で、前を向き続ける地元出身の医師がいる。彼が取り組むのは、腎移植患者への治療だ。その背景には、自身が経験したある出来事があった。ユセフ医師は語る——。
 

医師と患者の立場が入れ替わった

Illustration by Lucille Favre - MSF SwitzerlandIllustration by Lucille Favre - MSF Switzerland

こんにちは。私はモハマド・アル・ユセフ。シリア生まれで、医師をしています。10年前、私は腎移植の手術を受けました。その時立場が逆転し、私は医師から患者になったわけです。移植手術が、私の人生の転機となりました。

それまで私が内分泌科医として取り組んでいたのは、主に糖尿病の治療でした。しかし、自身の移植手術と、その2年後に始まった戦争を機に、自分と同じように腎移植を受けた人たちへの治療を始めました。この分野の医師は、シリア北部では非常に少ないのです。

月収を上回る薬代

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シリア内戦がぼっ発するまで、腎移植患者が治療を受けるのに大した問題はありませんでした。国立病院や診療所で治療を受けられ、透析と投薬は無償でした。しかし、戦争が始まった2011年、それが一変します。

道路の至る所に検問所が立ち始め、かつてのように村や町から病院に治療を受けに行くことができなくなってしまいました。出身地によっては、拘束されるどころか、殺害される恐れまで出てきたのです。病気があろうとなかろうとおかまいなしに……。

腎移植経験者にとって、薬は命綱です。腎移植後は、身体が新しい腎臓を拒絶しないように、生涯にわたって免疫抑制剤を投与しなければなりません。薬が無償でなくなってからは、皆、自費で薬を購入するか、国外の親類に薬を送ってもらうよう頼み、なんとかしのいでいました。

免疫抑制剤は通常、月に150~200米ドル(約1万6000~2万2000円)程度の金額がかかります。これはシリアの人びとには大変な額で、1人あたりの平均的な月収を上回ります。大部分の患者が、とても負担できませんでした。
 

MSFに希望を託す

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苦しむ患者たちのために何かできないか——。私は、国境なき医師団(MSF)と接触することを決めました。MSFには、投薬治療の費用が賄えない状態にある腎移植患者22人を把握していると伝え、22人の医療記録を引き渡しました。

するとMSFは、治療を無償で提供することに同意してくれたのです。これは願ってもない喜びでした。内戦が始まってからそれまで、そうした患者たちの境遇は大半の人道援助団体にも完全に見過ごされていたのです。
 

増え続ける患者

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私が支援をするようになった患者の数は、その後、月日を経て増えていきました。初めは22人だったのに、それが45人、73人と治療するようになり、ついには約100人にまで上りました。紛争に追いやられ、国内の別の地域からやって来た人もいます。この支援がどれほど必要とされていたかがわかります。

決して見捨てない

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このところのイドリブは特に状況が悪く、戦争の終結はまだまだ先です。このような状況で働き暮らすのは、とても疲れます。投げ出してしまいたいと思うこともあります。でも、患者たちが私を放しませんでした。「続けてもらわなくては困る。他に頼れる人はいない」と言われたのです。

患者たちは、普通の生活を送りたいだけです。何もかもが日々移り変わるので、先々の見通しもききません。いま唯一確かなのは、患者が治療を必要とする限り、私がこの活動を投げ出すことはないということです。私は、患者たちを決して見捨てません。

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