10万人の命を守れ!MSFの新しい病院 人びとの希望に

2019年05月31日

新しくできたMSF病院の様子 © Igor G. Barbero//MSF新しくできたMSF病院の様子 © Igor G. Barbero//MSF

国境なき医師団(MSF)は南スーダン北東部に位置する上ナイル地域の町ウランに、MSFの新しい病院ができた。周辺の村などの住民約10万人を対象とした、地域で唯一の2次医療施設となる病院だ。ウランは、エチオピア国境付近の町。長年の内戦などによってエチオピアに脱出し、難民キャンプ生活から帰って来た住民などがいる。医療を受けられずにいる人びとも多く、MSFは今後、長期的に彼らの医療ニーズを支えていく。 

医療にアクセスできない人びと

南スーダンのMSF活動責任者アブダラー・フセインは、「紛争のせいで戦線に挟まれたこの地域から大勢の住民が退避を余儀なくされました。それも一度きりではありません。エチオピアに脱出し、難民キャンプにとどまっている人も多いです。帰国した人もいますが、公共サービスも暮らしの糧も失われています」と話す。

2018年7月に始めた短期の緊急対応では、ウランと周辺地域で移動診療を展開。10月には、ウランとソバト川流域に点在する村に住む約10万人を対象とした唯一の2次医療施設となる病院を設置。ベッド数は30床ある。そして4月、長期プロジェクトとして活動を続けていくことが決まった。

「私たちは、繰り返し暴力の被害に遭い、基礎的な医療もろくに受けられない弱い立場の人たちに医療を届けます。彼らは時に、必要な医療を受けるために、何日も歩かなければならないこともあるのです」 

新しい命「1番目」と「2番目」

双子のボスちゃんとドゥオスちゃんを抱くヨコングさん © Igor G. Barbero//MSF双子のボスちゃんとドゥオスちゃんを抱くヨコングさん © Igor G. Barbero//MSF

プロジェクト・コーディネーターのマデリン・ウォルダーは、病院ではたくさんのお母さんと子どもを目にするという。

「彼らは、遠くから来るのが普通で、長い道のりを歩かなければいけません。深刻な容体でたどり着く患者さんもいます。合併症のある妊婦さんや、重症マラリアの患者さん、部族衝突で銃撃された患者さんらを治療しています。しかし、彼らは1年以上前から症状があっても、診断や治療を受けていないケースがあります」

5人の子どもがいるヨコングさん(36歳)は3月下旬、ウランのMSF病院で双子を出産した。双子は、現地のヌエル語で「1番目」という意味のボスちゃん、同じく「2番目」という意味のドゥオスちゃん。初めての病院での出産だったという。

ヨコングさんは、ウランまで徒歩で2時間かかる所の村が地元だ。仕事もあまりなく、いつもお腹をすかせている人が多いという。ヨコングさんは、漁で魚を釣ったり、果物とトウモロコシを育てたりして生活しているが、「一番上の子は15歳。子どもを育てるのは大変です」。

「紛争で、兄弟2人をはじめ、家族を何人か亡くしました。おじの家でも男の子が3人亡くなっていて、とても悲しいです。平和になれば、子どもたちももっといい生活が送れて学校にも通えると思います。卒業したら私の助けにもなってくれると思います。妊娠中の私は調子が良くありませんでした。目まいがしたり、お腹が痛くなったり。羊水が漏れたこともあって。出産にはまだ早いことがわかっていたので、つらかったです。MSFがウランで病院を開いたことを地元で耳にしていました。こちらに来ていなかったら、大変だったでしょう。結局は普通にお産できましたが。MSFがいてくれるおかげで安心して出産できました。ずっとここにいてほしいです」

病院が遠い 治療が遅れる患者たち

MSF医療活動マネジャーのイマド医師 © Igor G. Barbero/MSFMSF医療活動マネジャーのイマド医師 © Igor G. Barbero/MSF

結核とHIV/エイズに同時にかかる二重感染にかかっている患者も多い。アルジェリア出身のMSF医療活動マネジャーでもあるイマド医師は、「ウランの住民はとても苦しんでいます。私たちが治療する中には、脱水症状のある5歳未満の子どもたちも大勢いますし、肺血性ショック、肺炎、合併症を伴う栄養失調などで来院する子もいます。ジフテリアや破傷風など簡単に予防できるはずの病気が発生しているのは、子どもたちのワクチン接種率が非常に低いからです」と話す。

イマド医師は、B型肝炎、結核、HIV/エイズの患者もよく治療している。

「これらの慢性疾患は、1年以上前に症状が出ていた可能性もありますが、患者さんはこれまでに診断や治療を受けていません。HIV/エイズや結核との二重感染も多いカラアザールのような、いわゆる顧みられない病気も目にします。二重感染が生じると、患者さんが亡くなるリスクも高くなります。また、部族衝突も繰り返して起きているため、銃撃などで負傷した患者さんは、救急処置室へ受け入れています」

「子どもの患者も、大人の患者も受診の遅れが大きな問題となっています。病院がとても遠いということも状況を難しくしています。患者さんの生死を分けるのは時間です。交通手段がなく、ウランにたどり着くまで時に2~3日も歩かなければなりません。継続した治療が難しい要因にもつながります」

時には飛行機で患者の搬送

またMSFは、遠い場所にある診療所からウランのMSF病院まで、患者を送り届けたりするなどの患者搬送の仕組みも作った。移動には高速艇を使うことも多く、手術や専門的な処置が必要な患者さんの場合には、空路で首都ジュバに患者を搬送することもある。また、必要があれば移動診療もしている。

「ウラン一帯ではスタッフの輸送も、患者の輸送もとても大変です。1年のうち8カ月続く雨期の間は湿地が広がり、船が唯一の輸送手段となります。飛行機もたいてい、着陸できません。乾期はいくらか立ち入りも移動もしやすくなりますが、医療を受けるまでの道のりはとても遠いのです」

ウランのMSFチームは、2018年10月~2019年4月にかけて、3200件の診療を担った。分娩を介助した妊婦は81人、受け入れた入院患者は719人に上り、うち287人が小児病棟の子どもたちだった。 

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