「地中海でさらに人命が失われる」イタリアの新法令 20の市民団体が撤回を要請

2023年01月10日
MSFなどの民間団体は地中海で遭難した難民・移民を救助する活動が続けている=2022年8月 © Michela Rizzotti/MSF
MSFなどの民間団体は地中海で遭難した難民・移民を救助する活動が続けている=2022年8月 © Michela Rizzotti/MSF

地中海の荒波をゴムボードなどで渡ろうとして、命を奪われる難民・移民が毎年後を絶たない。欧州各国が遭難者の救助活動を2014年に打ち切った後、その役割を担ってきたのが民間の援助団体だ。

こうした中、救助船が寄港するイタリアで今月2日、同国政府がNGOの活動を規制する新たな法令を発布。国境なき医師団(MSF)をはじめ、地中海中央部で捜索救助の活動をする20の市民団体は1月5日、以下の声明文を発表した。

法令は海上で命を救う活動を妨害し、犠牲者を増やす

私たち市民団体は、海上の人命救助を妨害することを目的とした、イタリア政府の新たな試みに重大な懸念を表明する。

1月2日にイタリア大統領が署名した法令は、海上での救助態勢を弱めるもので、死者数が世界最多の移民ルートの一つである地中海中央部は、危険さを増すことになる。表向きは救助を行うNGOを標的にしているが、真の代償を払うのは地中海を越えられず遭難してしまう人びとだ。

欧州各国は2014年に国家による救助作戦を停止し、意図的に空白の海域を残した。以来、NGOの救助船はその空白を補い、海上で失われる命を防ぐために不可欠な役割を担っている。また、適用される法律を一貫して守りながら今日に至る。

しかし、欧州連合(EU)加盟国、特にイタリアは長年にわたって、中傷、行政手続きによる嫌がらせ、NGOや活動家の犯罪者扱いなどを通じて、市民による救助活動を妨害しようと試みてきた。

32人の未成年者を含む79人が乗ったゴムボート。MSFのジオ・バレンツ号による救助活動は困難な状況下で行われ、生存者は疲労困憊していた=2022年8月 © Michela Rizzotti/MSF
32人の未成年者を含む79人が乗ったゴムボート。MSFのジオ・バレンツ号による救助活動は困難な状況下で行われ、生存者は疲労困憊していた=2022年8月 © Michela Rizzotti/MSF

海上での救助活動には、すでに包括的な法的枠組みが存在する。国連海洋法条約(UNCLOS)や、海上における捜索救助に関する国際条約(SAR条約)などがそれにあたる。だがイタリア政府は、民間の救助船にさらなる規則を課して、活動を妨げ、海で遭難した人びとを危険にさらす道を選んだ。

例えば同政府が定めた規則の一つは、民間の救助船に対し、救助後直ちにイタリアへ向かうことを義務づけている。これは人命救助の活動を遅らせることにつながる。通常、船は数日間にわたって複数回の救助を行うからだ。海上に他の遭難者がいるにもかかわらず、民間の捜索救助団体に港への直行を指示することは、船長の義務に反している。UNCLOSに明記されているように、遭難者の即時救助は船長の義務である。

この規則は、このところ同政府が「遠距離の港」を頻繁に指定する方針を打ち出していることで、さらに状況を悪化させる。場合によっては、救助地点から入港まで最大4日間も航行しなければならないのだ。

どちらも背景には、船舶を遭難が起きる海域から長期間遠ざけ、救助能力を低下させる狙いがある。政府による捜索救助が行われず、すでに手一杯のNGO救助船も減れば、海で溺死する人が増える事態は避けられない。

地中海マルタ島沖で沈没しかけた木造船から67人を救助。同日夜、さらに同じ海域で遭難したゴムボートから29人を救助した=2022年5月11日 © Anna Pantelia/MSF
地中海マルタ島沖で沈没しかけた木造船から67人を救助。同日夜、さらに同じ海域で遭難したゴムボートから29人を救助した=2022年5月11日 © Anna Pantelia/MSF

また、この法令にはもう一つ問題がある。国際保護を申請する意思を示した人たちのデータを船上で収集し、その情報を当局と共有することを義務づけているのだ。こうした手続きを始めるのは国家の義務であり、民間の船は適切な場所ではない。難民申請は、安全な場所に下船し、緊急のニーズが満たされてから対処されるべきだと、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も強調している。

この法令は全般的に国際海事法、人権法、欧州法に反するものだ。そのため、欧州委員会、欧州議会、EU加盟国と諸機関から強い反発を招くものとみられる。

私たち市民団体は、イタリア政府に対し、この新法令を直ちに撤回するよう要請する。また、イタリア議会の全議員には、この法令に反対し、法律への転換を阻止するよう呼びかける。

いま必要なのは、政治的動機によって海上での救助活動を妨害するさらなる枠組みではない。私たちは、EU加盟国が既存の国際法と海事法を順守し、民間による捜索救助の活動を保証することを求めている。

◆この声明に署名した捜索救助活動団体

  • Emergency
  • Iuventa Crew
  • Mare Liberum
  • Médecins Sans Frontières (MSF)(国境なき医師団)
  • MEDITERRANEA Saving Humans
  • MISSION LIFELINE
  • Open Arms
  • r42-sailtraining
  • ResQ - People Saving People
  • RESQSHIP
  • Salvamento Marítimo Humanitario
  • SARAH-SEENOTRETTUNG
  • Sea Punks
  • Sea-Eye
  • Sea-Watch
  • SOS Humanity
  • United4Rescue
  • Watch the Med - Alarm Phone
◆連帯署名団体
  • Borderline-Europe, Menschenrechte ohne Grenzen e.V.
  • Human Rights at Sea

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