「これは、私たちが経験したことだから」 ガザの子どもたちが描く、紛争の記憶──絵を通じた心のケア
2026年10月26日
パレスチナ・ガザ地区で暮らす子どもたちは、自分が描いた絵について静かに説明する。しかし、その絵が物語る光景は決して穏やかなものではない。
子どもたちが絵を描いたのは、国境なき医師団(MSF)が続けている心のケアの活動の一環。そこに描かれたのは、自身が目にしてきたもの、感じてきたこと、そして恐怖と暴力によって形づくられた子ども時代の記憶だった。
「家」を知らない子どもたち
ルフは続ける。
さらに現在、危機は目につきにくい段階へと移り、こうした症状を悪化させています。パレスチナの人びとが生きていくために必要な条件そのものが、イスラエルによって組織的に奪われているのです。
MSFのパレスチナ活動責任者 フランツ・ルフ
安心して過ごすこと、友達と遊ぶこと、学校へ通うこと、家族と一緒にいること。そんな子どもにとって当たり前の日常が奪われた。代わりに残ったのは、暴力の記憶、次の攻撃がいつ起きるか分からない恐怖、そして破壊された街の光景だ。
水をくみに行く、食料を受け取る列に並ぶ、家族が生き延びるのを手伝う。いまや、こうしたことまで子どもたちの日常の一部になっている。避難生活や空爆の音しか知らずに育った幼い子もいる。
MSFの心理カウンセラーであるマフムード・アル・バルビシは、紛争の中で育ち、いま3、4歳になった子どもたちが、生活における基本的な物事を知る機会さえ失っていると指摘する。
例えば、「家」とは何かを知らない子も少なくありません。家で暮らした経験がないので、テントがその子たちにとっての「家」になっているのです。
MSFの心理カウンセラー マフムード・アル・バルビシ
奪われた子ども時代、絵に託す記憶
とりわけ影響を受けやすい子どもや青少年には、レクリエーション活動もしている。
ガザ市にあるMSFのザイトゥーン診療所では、絵や音楽、ゲーム、物語を通じて子どもが自分の気持ちを表現できる場をつくっている。その後のセッションでは、紛争が激化する前の自分を思い出し、自らの感情を理解できるよう手助けする。
子どもたちは絵を描いたり遊んだりする際、周囲で目にする光景を再現するようになった。
例えば、普通の子どもらしい遊びではなく、援助物資の配給をまねたり、攻撃について語ったり、破壊された建物のがれきの中で遊んだりしている。
ディナさん(9)は、まだ幼稚園に通っていたころ、家族と共に自宅を追われたときのことを覚えている。
父親は以前、援助物資を受け取りに行った際にトラックに足をひかれてけがをしていた。ディナさんは、その父親を車いすに乗せて押しながら避難したという。
いま、彼女が願っているのはとてもささやかなことだ。
前みたいな暮らしに戻りたい。(亡くなった)おばあちゃん、おじいちゃんと一緒に。
9歳の少女 ディナさん
ラハフさん(11)が描いたのは、自分が実際に経験してきた日々だ。
これは、私たちが経験したことだから。
11歳の少女 ラハフさん
窓のところに立つと、戦車が砲撃しているのが見えることがある。そのときは、母親の身を案じて「中に入って。戦車が砲弾を撃っているから」と声をかけるという。
いとこの女の子は殺されました。あの子のことが忘れられません。いつも一緒に遊んでいたから。
11歳の少女 ラハフさん
安心して回復できる場所を
アル・バルビシは言う。
私たちは活動を通じて、この子たちも1人の人間であり、そして何より子どもなのだということをもう一度思い出してもらおうとしています。
MSFの心理カウンセラー マフムード・アル・バルビシ
MSFでは他にも、自身の体を守ることを学ぶ活動「私の体は、私のもの」などによって、子どもたちに安全に過ごす権利があることを伝えている。子どもたちが日常的に危険にさらされている環境だからこそ、重要な取り組みだ。
ルフは、長引く暴力が子どもたちにとっての「安全」や「子どもらしく生きること」の意味を変えてしまったと指摘し、いまも回復する機会がないと強調する。
ガザでは、心のケアを必要とする人が非常に多くいます。しかし、イスラエル軍によって医療システムが組織的に破壊され、必要な支援も、子どもたちが安心して回復できる場所も、深刻に不足しているのです。
MSFのパレスチナ活動責任者 フランツ・ルフ




