襲撃、自宅破壊、監視カメラ──イスラエル人入植地問題 パレスチナ住民の訴え

2023年06月30日
破壊された家のがれきのそばに立つパレスチナ人一家 © Samar Hazboun
破壊された家のがれきのそばに立つパレスチナ人一家 © Samar Hazboun

長年にわたって、イスラエル人の入植地が、ヨルダン川西岸地区の一帯に造成されてきた。その規模が拡大するにつれて、パレスチナ人住民とイスラエル人入植者との衝突が頻繁に起きている。場合によっては嫌がらせや暴力行為に至り、逮捕者が出る事態もある。

当事者となった3人のパレスチナ人が、国境なき医師団(MSF)のインタビューに応じた。 

自宅襲撃に黙って耐える日々──ニスリーン・アルアゼさん

51歳のアーティストであるニスリーン・アルアゼさんはヘブロンの住民だ。ヘブロンはヨルダン川西岸地区の南端に位置する都市である。イスラエル占領下にあるため、入植者が多い地域の一つだ。

ニスリーンさんは、自宅の窓に面格子を取り付けている。自宅の真上に、イスラエル人入植地があるためだ。「窓を開けるたびに向こうの人たちが見えるんですよ」とニスリーンさんは語る。近隣の入植者たちが彼女の自宅敷地に何回も侵入して、窓ガラスを石で割ってくる。その上、入植者たちは、窓の外から棒状のものを何本も突き出してくるという。ニスリーンさん一家は家の中に閉じこもり、黙ってやり過ごすしかない。

「窓が壊されるのを見ると、思わず悲鳴をあげたくなります。でも、私たちが家の中にいることを気付かれてはならないと夫に言われ、黙っているしかないんです」と、ニスリーンさんは嘆く。彼女によれば、このような襲撃行為があっても、イスラエル兵たちは何も制止しないという。嫌がらせはエスカレートするばかりだ。

私たちを住みづらい状況に追い込んで、この地から追い出そうとしているんです。イスラエルで新しい政権ができましたよね。あの政権を後ろ盾にして、この地を奪いたがっているのです

ニスリーン・アルアゼさん

2022年11月、イスラエルでは、パレスチナに対してさらなる強硬姿勢を取る政権が誕生した。この政権は、イスラエル人入植者の武器使用も認めている。

ニスリーンさんは、2016年にMSFに助けを求めてきた人である。当時も、激しい暴力が急増して、彼女の住む地域の人びとが何人も入植者や兵士たちに殺害されている。 

故郷を追われ、新居も破壊され──ムスタファ・ムリカットさん

ヨルダン川西岸地区の北部に位置するドゥーマ村──この村の近くの岩山に急ごしらえで建てられたテントハウスで、ムスタファ・ムリカットさんと、娘のジナーンさんに話を聞いた。彼らは、自宅から強制退去させられた上に、自宅を破壊されている。2人の話は、イスラエル入植者による暴力と、イスラエル軍による武力という二つの恐怖が、ヨルダン川西岸地区において厳然と存在することを物語っている。

死海の近くにムアラジャットという遊牧民ベドウィンの集落がある。現在50歳になるムスタファさんは、そのムアラジャットに元々住んでいた。しかし、自宅のまわりにイスラエル人入植者たちが家を建て始めるとともに、彼らとのトラブルに見舞われるようになる。

彼らは羊を飼っているんですが、私の土地に入ってきて、庭のものを羊に食べさせるんですね。私も羊を飼っているので言い争いになると、彼らは、チャットアプリのWhatsAppを使って仲間を呼び出してくる。30人以上がやってくるんですよ

ムスタファ・ムリカットさん

ムスタファさんの弟も同様の目に遭い、イスラエル人入植者たちに殴られたこともあるという。ムスタファさんをはじめとして、多くのムアラジャット住民が、その地を去らざるを得なくなった。

ムスタファさんは、入植地から遠いという理由で、ドゥーマ村の近くにあるこの土地を購入した。だが、今年に入り、そこに建てた300平方メートルの家がイスラエル軍によって取り壊された。購入した土地は、ヨルダン川西岸地区の中でも、イスラエル当局の管轄下にある「C地区」に位置する。そして、イスラエル側は、パレスチナ人たちに建設許可を出そうとしないのである。

イスラエル当局は、2月2日にブルドーザーで自宅を取り壊しに来たとムスタファさんは話した。家具も台無しになり、タンクも破壊され、子ヒツジも1頭死んだ。すべてを失ったムスタファさん一家は、次の落ち着き先が決まるまで、テントや小屋で寝泊まりしている。 

ゴーストタウン化、監視カメラ、濡れ衣──ハービエ・アルザルさん

ハービエ・アルザルさんの住まいは、紛争最前線のヘブロン旧市街にある。かつての活気あふれる商業都市は、いまやゴーストタウンと化した。パレスチナ人がこの地に居住するのをイスラエル当局が制限するようになったからだ。

この通りは賑わっていましたね。交通の便もよく、商店が軒を連ねていて、活気がありました。今は、どの店も閉まっています

ハービエ・アルザルさん

ハービエさん一家も、この賑わいの中で生きてきた。自宅建物の一部を貸し出して、医院、薬局、ショップなどを入れていた。現在、この地域にはイスラエル軍が駐屯しており、イスラエル人入植者たちを守るという理由から、ハービエさん一家の屋根に監視カメラを設置した。のんびり横になったり、洗濯物を干したりしていた一家のささやかなプライバシーは奪われた。

ハービエさんは、イスラエル兵や入植者から家族が受けてきた数々の暴力や屈辱について、涙をこらえながらMSFに語った。最近、ハービエさんが親戚たちを招いて夕食をとっていた時も、イスラエル兵たちが暴力的に自宅にあがりこんできて、盗んだ自転車を返すよう要求してきたのだという。近隣のイスラエル人入植者がハービエさん一家を犯人として名指ししてきたのだ。その夜は、一家の誰も食事に手をつけられなかった。子どもたちは泣きじゃくり、親戚たちは恐怖におびえ、ハービエさんの息子ムタズさんはイスラエル当局に連行された。

盗まれた自転車は、後日、ある店の中で発見されている。 

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