ナイジェリア:かつてない数の栄養失調児を治療 食糧難のピークに向け、援助拡大が急務

2023年05月11日
ナイルファ・キジ栄養治療センターで中等度の急性栄養失調の治療を受ける子ども Ⓒ Siddhesh Gunandekar
ナイルファ・キジ栄養治療センターで中等度の急性栄養失調の治療を受ける子ども Ⓒ Siddhesh Gunandekar

今年4月後半以降、ナイジェリア北東部、ボルノ州の州都マイドゥグリにある国境なき医師団(MSF)が運営する栄養治療センターには、前例のないほど多くの栄養失調児が救命処置を必要とする状態で来院している。2023年の入院者数は、毎年恒例の「ハンガーギャップ」(※)を前に過去最高を記録。MSFは早急に対策を講じなければ、大惨事が迫ると訴える。

「ハンガーギャップが来たときに壊滅的な状況に陥らないよう、栄養失調の予防と治療を速やかに拡大する必要があります」とMSFの医療コーディネーター、ヘット・アウン・チー医師は話す。

※前年の収穫で蓄えた食糧がなくなり、栄養失調に陥る人数や重症度がピークに達する時期

入院患者が急増

マイドゥグリにあるMSFのナイルファ・キジ栄養治療センターのチームは、中等度と重度の急性栄養失調による入院患者の急増を目の当たりにしている。1月には、過去5年間の同時期平均の約3倍にあたる、約75人の子どもたちが重度の栄養失調で毎週入院。4月上旬には、1週間の入院者数が昨年同時期の2倍となる150人近くまで増加した。

「このような事態は2017年にここで栄養失調の活動を始めてから一度も見たことがありません」と、ヘット・アウン・チー医師は話す。

「週次の入院患者数は、過去5年間の同期比の2~3倍となった上に、いまも増えているのです。昨年は、ハンガーギャップの始まりである6月に来院者が急増し警鐘を鳴らしましたが、今年は食糧難のピークを数週間後に控えて、すでに心配な数字が出ています。残された時間を活かして行動しない限り、大惨事になるでしょう」

診察を待つ女性たち Ⓒ Siddhesh Gunandekar
診察を待つ女性たち Ⓒ Siddhesh Gunandekar

人道危機はさらに悪化

長年にわたる紛争と治安の悪化で人道危機に陥っているマイドゥグリでは、栄養失調は今に始まったことではない。多くの人びとが自宅を追われ、現在も非公式の居住地や受け入れ地域、あるいは収容キャンプを経て、不安定な状況の中で生活をしている。

MSFが重度栄養失調の治療を行う患者の数は2022年に爆発的に増加し、8000人以上の子どもが集中栄養治療のために入院した。また、7人に1人は、反政府武装勢力の元メンバーやその家族、同武装勢力の支配下で暮らしていた人びとが収容された、ハッジ収容キャンプから来ていた。多くの人は、このキャンプに着いた時点で既に健康を損ねており、生活環境の過酷なこの一時滞在キャンプに住むことでさらに体調を崩していた。

2021年末には、公式の避難民キャンプが閉鎖され、人道援助や食糧援助も削減された。多くの人びとにとって生活環境は非常に厳しく、移動が制限され、職についたり作物を育てたりすることができない場合もある。人びとは以前にも増して、弱い立場に置かれるようになった。また、最近ではナイジェリアの新紙幣の運用に伴う現金不足や、マイドゥグリの大規模な市場が複数破壊されたことにより、事態はさらに悪化していた。

「食糧援助だけでは足りない」

「食糧援助だけでは足りません。当局や援助団体は、栄養失調関連の活動を直ちに拡充し、集中栄養治療センターのベッド数を増やすだけでなく、一時滞在キャンプの生活環境を改善し、人びとが医療をより受けやすくすることも必要です」とMSFのプロジェクト・コーディネーターであるガブリエレ・サンティは言う。
 
「そのためには、援助国からの資金のうち多くを速やかにこの分野に充て、最も困っている人びとに食糧が届く状態を徹底する必要があります。現段階では、栄養治療分野が必要とする資金の16%しか確保できていません。これも懸念すべきことなのです」

MSFのナイジェリアでの活動

・2023年1月初旬から4月20日までの間に、MSFは1283人の栄養失調児を集中栄養治療センターに受け入れ治療を行った。これは前年同期比で約120%増となった。

・栄養失調児に入院・外来治療を行うと同時に、中等度の栄養失調児には、栄養状態の悪化予防目的で栄養補助食を提供。移動診療チームは、ハッジ収容キャンプやムナ、マイサンダリの非公式の居住地に住む人びとの基礎的な医療を担う診療所を運営している。

・マイドゥグリの栄養危機に加え、ナイジェリア北西部の他の場所でも大規模な医療・栄養失調の危機に対応。カノ、カツィナ、ケビ、ソコト、ザムファラ各州の32カ所の外来栄養治療センターと10カ所の入院栄養治療センターで活動を行っている。2022年、MSFはナイジェリア北西部全域で14万7860人の重度急性栄養失調児を治療した。

食欲の程度を判断するため、栄養治療食を食べる子どもを観察するMSFのスタッフ Ⓒ Siddhesh Gunandekar
食欲の程度を判断するため、栄養治療食を食べる子どもを観察するMSFのスタッフ Ⓒ Siddhesh Gunandekar

この記事のタグ

関連記事

活動ニュースを選ぶ