海外派遣スタッフ体験談
世界の「広さ」を知る経験に──産婦人科医として向かったナイジェリアで
2024年12月16日窪田 葵
- 職種
- 産婦人科医
- 活動地
- ナイジェリア
- 活動期間
- 2024年8月~10月
医療従事者の両親の影響もあり医師の道へ。大学病院の医局員として7年勤務した後、2024年に国境なき医師団に参加。初回のアフガニスタンに続きナイジェリアが2回目の派遣となる。(写真・本人左)
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「かっこいい」国境なき医師団へ
応募時の一番の不安はやはり英語です。それまでの海外経験は、父の留学に家族で帯同した1年間のアメリカ生活のみ。小学1年生の時の滞在だったため、仕事で英語を使いこなす、というレベルではありません。半年間ほど語学学校やオンラインレッスンなどを駆使し、使える時間を全てつぎ込んで英語の勉強にあてました。
大切なのは語学を極めることよりも、コミュニケーション力。また、活動中は英語しか使わないため、どうしたって英語力は鍛えられました。
![ナイジェリア、マイドゥグリの産科プロジェクトのスタッフと Ⓒ MSF](/news/expat/detail/gc9k0900000045az-img/Aoi_06_760_507.jpg)
洪水で患者が減った その理由は
今年の8月から10月まで派遣されたのは、ナイジェリア北東部ボルノ州の州都マイドゥグリ。長引く情勢不安に加え、栄養失調の危機にも直面している、人道状況が深刻な場所です。MSFはマイドゥグリで栄養治療センターを運営し、5歳未満の栄養失調児への対応を行っています。今年6月、新たに産婦人科のプロジェクトが立ち上がり、産婦人科医として活動に参加しました。
![マイドゥグリで新たに立ち上がった産科プロジェクトの病棟 Ⓒ MSF](/news/expat/detail/gc9k0900000045az-img/Aoi_04_760_507.jpg)
原因として考えられることの一つは、妊婦検診などの産前ケアが十分ではないこと。そもそも多くの人が出産に対し「家でできるのに、なぜお金をかけて病院で?」という感覚を持っており、積極的に病院に来ようとしません。健康に対する意識や文化的背景も、妊産婦を取り巻く状況に大きな影響を及ぼしていると感じました。
洪水は家屋や畑、医療施設などに甚大な被害をもたらし、数年ぶりの未曽有の大災害に現地スタッフも驚いていました。
![洪水により甚大な被害を受けたマイドゥグリ=2024年9月18日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF](/news/expat/detail/gc9k0900000045az-img/MSB207204_760_507.jpg)
お互いに教えたり、教わったり
実は、最初に派遣されたアフガニスタンでは、人間関係に非常に苦労しました。今思えば、その時はやはり自分が言い過ぎてしまうところがあったように思います。その反省を生かし、今回は「言い過ぎない」「でも、言うべきところはしっかり言う」などと決め、結果的にスタッフと信頼関係を築くことができたのだと思います。
![産科病棟は女性ばかりのチーム。一緒に働いた助産師たちと Ⓒ MSF](/news/expat/detail/gc9k0900000045az-img/Aoi_03_760_507.jpg)
11人の子どもを育てるスタッフ
現地スタッフの一人に、子どもを11人育てているという方がいました。話を聞くと、全員が自身の子どもではなく、武装勢力に殺されてしまった弟の子どもが5人、交通事故で亡くなった妹の子どもが4人とのことでした。彼らを引き取り、自分の実子2人とともに育てているというのです。紛争の影響で家族を亡くした。そのような話はほかのスタッフからもたくさん聞きました。
紛争や自然災害、治安の悪化により、ある日突然すべてを失ってしまうかもしれない──。現地の人びとの間には、そのような恐怖がいまも現実のものとして存在しているのだと感じました。
「日本の当たり前」ではない働き方に触れて
実際にMSFの活動に参加してみると、意外なこともたくさんありました。医療従事者だけではなく非医療職のスタッフもいることや、多くの現地スタッフがいることにも驚きました。海外派遣スタッフについても、欧州や米国の出身者を想像していましたが、そんなことはありません。南米のブラジルやアルゼンチン、中東で現地スタッフとして働き始めて海外派遣スタッフになった人も。MSFの活動を通して、世界の「広さ」を知ることができました。
海外派遣スタッフの働き方の多様さにも刺激を受けました。月曜日から金曜日まで休みなく働き、場合によっては土日も仕事して……。そんな「日本の当たり前」をやる人は少ないくらい。
皆、自分の人生の時間を上手にやりくりして、MSFに参加しているのです。さまざまな働き方を目の当たりにし、仕事に対する考え方も変わりました。
私はもともと女性医学に関心があり、産婦人科医の道を選びました。MSFの活動地は産科医療のニーズが高いため、当分はMSFでの活動を続けたいと思っています。また、活動地では女性の産婦人科医も必要とされています。文化的な背景から男性医師が女性を診察することが難しい地域もあるためです。日本で働く女性も、興味があったらぜひ挑戦してみてほしい。一度経験すると、自分の世界がぐんと大きく広がります。
活動地のひとコマ──ナイジェリア編
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