暴力に怯える暮らし 家も水もなく必死に生きる避難民

2019年06月26日

紛争で離れ離れになっていた母子 再会してプルカの避難民キャンプで暮らしている紛争で離れ離れになっていた母子 再会してプルカの避難民キャンプで暮らしている

もう10年も紛争が続くナイジェリア北東部。この紛争で、数千人が命を落とした。国連人道問題調整事務所によると、ボルノ州、アダマワ州、ヨベ州では200万人近くが国内で避難生活を送り、770万人が人道援助を必要としている。人びとは政府軍と反政府武装勢力との紛争に巻き込まれ、深刻な人道危機に直面してきた。国境なき医師団(MSF)はこうした人びとに緊急に必要な医療を提供している。 

避難民も受け入れ住民も苦しい生活

避難民は雨で溜まった水を生活用水に使っている © Igor Barbero/MSF避難民は雨で溜まった水を生活用水に使っている © Igor Barbero/MSF

カメルーンとの国境にあるボルノ州の町プルカは、この紛争を象徴するような町だ。プルカに避難している人は現在4万人余り。避難民キャンプや、受け入れ地域の中で生活している。現地には文民当局がなく、町は完全に政府軍に支配されている。移動できるのは町の境界線から農場までの限られた短い距離だが、多くの人はそれさえも危険に感じている。

MSFの医療マネジャー、タルシッス・シンガ・ングンドゥは話す。「人びとは生計を失って、食糧援助に頼りきって生きています。地元の人でさえ困っています。農作物の世話をしている最中に襲撃されることもあります。軍に護衛を頼んで農作業をする人もいます。大変ですよ」

カメルーンに避難していた人びとの帰還が事前の計画もなく大規模に行われ、しかも、必ずしも人びとの自由意思ではなかった。プルカには次々に新たな国内避難民が到着しており、中には移動を強いられた人もいる。多くは反政府武装勢力の支配地域から避難してきている。ボルノ州には人道援助団体が立ち入ることのできない地域があり、80万人がそうした場所で暮らしていると推定される。新しくプルカへ到着してくる人びとは、政府軍から敵側の協力者ではないか疑われることも多い。水や仮設住居などの生活基盤がない状態が続いていて、避難者も、受け入れる地域の人びとも生きるのに必死だ。 

危険な生活のなかで子どもを養う女性たち

ボルノ州では多くの女性がひどい暴力に遭っている © Santiago D. Risco/MSFボルノ州では多くの女性がひどい暴力に遭っている © Santiago D. Risco/MSF

女性と子どもは、この紛争で特に悲惨な目にあっている。女性を襲う暴力は極めて激しく、プルカでは大勢の女性がさまざまな体験をしている。「17歳で無理やり結婚させられ、妊娠しました。お腹から赤ちゃんを取り出され、膀胱まで傷つけられ・・・」「家を焼かれ、目覚めなかった人はそのまま焼け死にました。息子も父親と寝ていて・・・」

彼女たちが繰り返し語るのは、拉致や反政府武装勢力の一員との強制結婚、殺人や過激な暴力を目撃し、レイプされ、体や心を傷つけられ、また言葉による虐待を受けた経験だ。

プルカに到着する女性は、子どもだけ連れてくることが多い。男性は殺されたか、反政府武装勢力の支持者とみなされる危険があって移動できない。家族を養うため、女性は昼夜を問わず休みなく働かざるを得ない。町の中でも暴力行為が起きて、安全が保証されているとは言えないが、町の外はさらに危険だ。それでも、煮炊きに必要なまきを探しに外へ出かけなければならない。 

深刻な医療不足を改善するために

重度の栄養失調で入院したモハメドちゃん © Santiago D. Risco/MSF重度の栄養失調で入院したモハメドちゃん © Santiago D. Risco/MSF

ボルノ州の隣に位置するヨベ州は、ナイジェリアの中でも最も貧しい州だ。治安情勢は比較的落ち着いているものの、州の北部と南部では反政府武装勢力が活発に動いている。医療機関はきわめて簡素で数も少なく、住民が治療を受ける機会はごく限られている。

MSFは2017年から州都ダマトゥルにあるヨベ州立専門病院で活動している。小児救急科と栄養治療センターを運営し、重度急性栄養失調と、関連した病気に苦しむ5歳未満の子どもを治療している。マラリアのピーク期は8月と10月の間で、この時期には症例数が急増する。2018年はとりわけ多くの症例がみられた。 

生後8ヵ月のモハメド・アブバカルちゃんは、重度急性栄養失調と気管支肺炎のため、ダマトゥル病院の集中治療室に入院した。その後、コレラの診断もされ、適切な治療を受けて回復した。2018年には8000人が、モハメドちゃんと同様にMSFのコレラ治療を受けている。

院内の状況は2018年10月から大きく改善している。そのためMSFは、2019年4月にヨベ州立専門病院の活動を保健省に移譲した。ただ、緊急対応チームは引き続きヨベ州の衛生状態を見守り、ナイジェリア北東部で医療面での問題が起きていないかどうか、目を配っていく。2018年末にコレラが流行した時、MSFはすぐに対応を始めた。今後も同様に、保健省の要請があればいつでも対応できるようにしている。 

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