「声を出せば殺される」 強盗団の襲撃を逃れ2万人が難民に

2019年07月11日掲載

ナイジェリア・ソコト州から逃げてきたチトゥーさん © MSFナイジェリア・ソコト州から逃げてきたチトゥーさん © MSF

「逆らったり声を出したりしたら、殺されます」

ニジェールに逃げて来たナイジェリア難民のチトゥー・アブドゥーさんは、銃で武装した男たちが故郷の町を襲ったときの様子を、国境なき医師団(MSF)のスタッフにそう話した。2019年5月、ナイジェリアのソコト州とザムファラ州で殺人や拷問、強盗、誘拐などの残虐行為が急増し、2万人が国境を越えてニジェール南部にあるマラディ県に避難した。受け入れ側のニジェールの人びとも先行き不透明な生活のなか、質素な住まいや食べ物などを避難民と分け合っている。 

次は自分の村か…広がる恐怖

強盗団に村が襲われる前に避難したナイジェリア難民の家族 © MSF強盗団に村が襲われる前に避難したナイジェリア難民の家族 © MSF

2018年以降、ソコト州とザムファラ州の治安は悪くなる一方で、人びとがニジェールに避難するきっかけを生み出している。同じナイジェリアでも、ボルノ州とヨベ州ではさまざまな武装勢力が入り乱れた地域紛争が泥沼化しており、ソコト州とザムファラ州では、強盗団による冷酷な暴力行為が増加している。6月にはソコト州から大勢の人が避難し、このうち2万人はニジェールのマラディ県ギダンルンジに身を寄せた。国連によると、ソコト州では少なくとも、25の町から人影が消えた。

チトゥーさんは、ソコト州ゲチェから逃げたときのことを振り返る。「武装した強盗団が村にやって来ました。奴らは頭巾をかぶり、牛を盗んで、金を出せと迫りました。お金を持っていない人には、誰が持っているか聞くんです。近くの村も、いくつも襲撃されました。カッサリ村では地元の猟師が強盗団を迎え撃ちましたが、それでも奴らは村人を14人も殺し、数人は連れて行かれました。強盗団が立ち去った後、日没の祈りを捧げる頃に、銃で撃たれた負傷者を皆で避難させました。友人が私をバイクで迎えに来て、ザンデール県のガリン・マザまで連れて行ってくれて、その晩は牛を連れたまま低木に隠れて過ごしたんです。暗がりでも、辺りを見回っている強盗団が見えましたよ」

ニジェールのギダンルンジに逃れてきた多くの難民から、似たような話が聞かれている。武装集団は多い場合で20人ほどの男たちで、ライフルを持って村に現れ、村人を脅して家財はないか、財産を持っている人を知らないか聞いてまわっているという。強盗、身代金目当ての誘拐、殺人、強姦や拷問も起きている。まだ襲撃されていない村の人びとは、次は自分たちの村かと心配し、恐怖が広がっている。 

受け入れる地域住民にも重圧が

家族と逃げたマリアナさんは「抵抗すれば殺される」と語る © MSF家族と逃げたマリアナさんは「抵抗すれば殺される」と語る © MSF

MSFは2019年5月末、調査のためギダンルンジに入った。ナイジェリアからの難民は、地元の家庭や学校、廃屋などに寝泊りしている。ニジェールでMSFの活動責任者を務めるアブドゥル=アジズ・オー・モハメドは、「世界で最も富める国々の政府が難民を門前払いして危険に追いやっている一方、MSFは、自分たちも大変な状況にあるなか、安全を求めて逃げて来た人を数週間で2万人も受け入れている地域の人びとを目にしています」と語る。「この状況がどうなっていくのか、わかりません。大勢の難民が短期間にやって来ているため、現地の公共事業、資金や人材は限界に達しています」

現地には、新しく到着する難民の数が地元住民の人口を上回っている場所さえある。現地当局によると、タンカマ地域では現在約300世帯の地元住人が450世帯以上の難民を受け入れている。また、人口3000人未満のバッシラには4500人の難民が到着した。

「現地の訪問と状況調査に加えて、すぐに医療機関の支援を始めました。すぐに、治療が必要な患者であふれかえる事態も予想されたためです」と、ギダンルンジで医療機関調査の監督にあたったA. M.アブドゥル・ラシド医師は話す。MSFは現地医療機関に薬と機器を寄贈して、下痢やマラリアなど、現場でよく見られる病気の患者を治療できるようにした。 

病気が大流行する危険も

栄養治療センターへの入院傾向は今のところ落ち着いているが、毎年7月から10月にはこの地域で栄養失調とマラリアの流行がピークを迎えるため、状況も変わってくるはずだ。また、難民としてニジェールに来た子どもたちの大多数は、生まれてから一度も予防接種を受けていないと言われており、これも懸念される。

「公衆衛生の観点から言うと、ちょっとしたことから病気の大流行につながりかねない状況です。MSFはマラディ県の保健省と連携してギダンルンジの状況を注意深く見守り、今後の援助対応に備えて待機しています」とA. M. アブドゥル・ラシド医師は話す。

現地のインフラ設備はこれほど多くの人口に対応することを想定して設計されたものではないため、医療以外にも、仮設住居や適切な下水設備、食糧と飲み水の確保など、住民に必要不可欠な公共事業が求められている。 

MSFは1985年からニジェールで活動。乳幼児死亡率の低減、小児医療と産科医療の質の向上、暴力の被害者への支援のほか、ディファ県からザンデール県、タウア県からティラベリ県にかけた地域と、アガデス県でも難民・国内避難民・移民の援助に当たっている。また、MSFは定期的に病気の流行に対応し、現地保健当局を支援して予防接種率を引き上げ、必要に応じてコレラ、はしか、髄膜炎などの病気から人びとを守っている。

ニジェールには現在20万人の難民が滞在しており、大半はナイジェリアから来ている。ほぼ同じくらいの数の国内避難民も存在しているほか、ニジェール政府はリビアから避難しニジェールの首都ニアメで第三国の受け入れを待っている2700人を保護している。

MSFはナイジェリアのソコト州とザムファラ州でも活動。暴力の激化により生じた新たなニーズに、複数の州で対応できるよう医療活動を調整している。ザムファラ州では2010年から鉛中毒の子どもを治療しているほか、アンカ病院とアウトリーチ活動※の移動診療で栄養治療と小児治療を行っている。ソコト州では2014年から、ソコト州にある「水がん(ノーマ)子ども病院」で、水がん患者を対象にした再建外科治療を無償で行っている。

※医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動。 

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