「下半身に電気ショックをうけた」メキシコ南部 暴力や拉致被害に遭う移民が急増

2019年11月01日

米国を目指して北上する旅を続ける男性たち © Juan Carlos Tomasi米国を目指して北上する旅を続ける男性たち © Juan Carlos Tomasi

メキシコ南部の国境地帯で、移民・難民に対する拉致事件増加し、暴力が深刻化している。

国境なき医師団(MSF)の医療や心のケアを担当するスタッフが、メキシコ南部を通る移民から聞き取った証言によると、大勢の患者が拉致や拷問、激しい暴力、残虐行為、性暴力被害などについて話をしていることが分かった。これらの暴力は、グアテマラとの国境を越え、メキシコ南部のテノシケ市に入ってすぐに起きている。「今、この地域では、犯罪組織による拉致と拷問が飛躍的な勢いで増えています」とMSFの医療コーディネーター、ヘンマ・ポマーレスは話す。
 

服を脱がされ、寒暖差が厳しい外に放置され……

移民・難民は情報を集めるためにもシェルターを活用している © Juan Carlos Tomasi移民・難民は情報を集めるためにもシェルターを活用している © Juan Carlos Tomasi

メキシコには、暴力と貧困を逃れようと米国を目指する数千人が毎年入国している。ほとんどが、中米の「北部三角地帯」と呼ばれるエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスを出発して北上してきた人たちだ。だが、メキシコで安全な場所や保護を得るどころか、激しい暴力にさらされているのが実情だ。

テノシケ市でMSFは、1カ月足らずの間に11人の移民を治療。治療した患者は全て、拉致と拷問の被害者だった。このデータは2019年1月~8月末までにMSFが同市で治療した拉致被害者の数に等しい。

診療とカウンセリングを受けた被害者からは、非人道的な被害の実態が明らかになった。移民・難民は廃屋に連れて行かれ、服などを無理やり脱がされた。その上で、屋外に何時間も縛られたまま放置。寒暖差が激しい環境にさらされ、親戚の電話番号を脅し取られた。

MSFはこれまでに銃撃か刃物で負傷した患者のほか、性暴力の被害者を治療。一部の性暴力の被害者は、肛門など下半身に電気ショックを受けるなどの拷問被害にも遭っていた。こうした被害に遭った患者のうち、数人は、共に行動していた仲間がレイプされるのを見るよう強制された、とも語っている。 

メキシコ南部でも暴力が横行

© Juan Carlos Tomasi© Juan Carlos Tomasi

MSFはメキシコ南東部テノシケ市で、これまで4年間にわたって医療援助活動を実施してきた。グアテマラを出発してメキシコを通る移民への暴力は常に存在していた。だが、これほどの激しい暴力はかつてはなかった。従来と異なるのは、これまで暴力があまりみられなかった南部でも、同様の暴力が起きるようになったことだ、とポマーレスは話す。

つい2週間ほど前にもMSFは、メキシコ政府に対して、移民・難民を犯罪者として拘束し、祖国に送還することで米国への流れを封じ込めようとする政策について、警鐘を鳴らしたばかりだ。こうした政策のため、移民は違法な手段に走り、以前よりもさらに危険な経路をたどっている。

その結果、女性から子ども、男性まで犯罪組織の被害に遭っている人たちが増えている。犯罪組織は、移民が通る経路全域で刑罰を受けることなく活動。特にグアテマラとテノシケ市をつなぐ道筋で活発に活動している。米国との国境付近に位置するメキシコ国内の複数都市でも活動していて、MSFが援助した人びとの半分以上が、拉致されたことがあると話している。 

移民・難民のケアにあたるMSFスタッフ © Juan Carlos Tomasi移民・難民のケアにあたるMSFスタッフ © Juan Carlos Tomasi

「北部国境地帯でMSFが目撃していた移民・難民への激しい暴力が、南部でも見られるようになるのは時間の問題に過ぎませんでしたと」とメキシコでMSF活動責任者を務めるセルヒオ・マルティンは話す。

「現在起きている事態は、人道問題です。移民政策強化によって、命がけで逃げてきた何千人もの人の苦しみを増やしているのですから。保護も受けられずにこれほどの残虐性をもって移民・難民が扱われている現状は容認不可能です」

※写真はいずれも2018年2月撮影 

関連記事

活動ニュースを選ぶ