マダガスカルで最悪レベルの食料危機──「医療砂漠」と化した現場で起きていること
2021年05月31日「大勢の人が命の危機にひんしています。食べるものが本当に何もないのです」。マダガスカルで国境なき医師団(MSF)のプロジェクト・コーディネーターを務めるジュリー・レベルセがこう危惧するように、同国南部はいま、過去数十年で最も深刻な食料・栄養危機に直面している。
マダガスカルの栄養危機状況を監視するシステムおよび、国連機関などが最近発表したデータによると、同国南部の地域全体で急性栄養失調に陥っている子どもの数は7万4000人、そのうち1万2000人は重度の栄養失調でこれは2020年の同時期と比較すると80%の増加だ。最も被害の大きい地域であるアノジー地域圏アンボアサリ郡にある複数の村でMSFが行った調査では、5歳未満の子どもの28%が急性栄養失調、さらにそのうち3分の1は重度栄養失調であることが明らかになった。
こうした状況を受け、MSFは2021年3月下旬から、アンボアサリでの移動診療を通じて、急性栄養失調のスクリーニングと治療、基礎的な医療を担っている。
深刻な食料危機と、関連するさまざまな問題
今回の食料危機には、主に三つの要因が挙げられる。一つ目は過去30年で最悪とされる干ばつで農業が大打撃を受けたこと、二つ目は森林伐採によって引き起こされた砂嵐が耕作地の多くを砂で覆い、収穫の少ない時期に食べるサボテンの実などの食料も失われたこと、そして三つ目は新型コロナウイルス感染症が島の経済に影響を及ぼしたことだ。さらに、現地の言葉で「ダハロ」と呼ばれる、食料、財産、家畜を狙った強盗犯も増えているという。
バサオテセさん(51歳)は3歳のノリザ君を連れ、川の対岸にあるアンカメナから2時間かけてMSFの移動診療所があるラノベまでやってきた。
食料不足のほか、マラリアの流行、医療へのアクセスの難しさや清潔な飲み水の不足なども、健康状態の悪化につながっている。
幼い娘を連れてMSFの移動診療所を訪れたメティーさんはこう話す。
資金不足、移動制限……届かない援助
世界食糧計画(WFP)やその他の援助団体が食料の配布を行っているものの、資金不足のため配給は半日分に限られており、中には食料援助を全く受けられない村もある。今後数カ月にわたって作物の収穫は期待できないため、食料危機のさらなる悪化が懸念されている。
物流面の問題も援助を阻む要因の一つだ。南部には人里離れた村が多い上に、ほとんどの道路は舗装されていない。首都アンタナナリボからアンボアサリ郡の主要な町までは、車で3日以上かかり、そこから最も離れた村までは、さらに数時間の道のりが待ち受ける。また新型コロナウイルス感染症流行の第2波により、マダガスカルへの入国制限、首都と南部地域を結ぶ国内便の停止などの措置がとられ、援助物資の運搬に影響が出ている 。
ラノベの移動診療所で患者のケアにあたるMSFの医師、ファニー・トーディエは言う。
マダガスカル南部では、数十万人もの人が援助団体からの食料支援援助のみで命をつないでおり、事態は一刻を争う。今後数カ月にわたって十分な量の食料配給を定期的に行うためには、資金だけでなく、輸送、人材面でも相当な努力が必要であり、援助活動従事者がスムーズに入国・移動できるような体制の整備が不可欠だ。