「お前はここで死ぬんだよ」 虐待、暴力、殺害──国境なき医師団が目撃した、リビア収容センターの実情

2024年01月10日
収容センターにて鉄パイプで殴打された男性 © MSF/Candida Lobes
収容センターにて鉄パイプで殴打された男性 © MSF/Candida Lobes


リビアの首都トリポリ──。この地の収容施設に拘束された難民、保護希望者、移民らの状況は深刻だ。暴行、性暴力、そして殺害にまで至るケースすらある。彼らは、食料も水も満足に与えられず、衛生設備は劣悪で医療もまともに受けられず、人間としての最低限度の生活すら組織的に奪われている。

国境なき医師団(MSF)は、2023年8月までトリポリで医療活動に従事してきた。その間、女性や子どもを含む数千人が正当な理由なく拘束され続けているアブサリーム収容センターとアインザラ収容センターの実情を目撃している。その生活状況や虐待の詳細は、このたびMSFが発表した報告書『You’re going to die here(お前はここで死ぬんだよ)』(英文)のなかに収められている。 

収容センター内にて受けた虐待を証言する男性 © MSF/Candida Lobes
収容センター内にて受けた虐待を証言する男性 © MSF/Candida Lobes

リビアの収容センターでMSFが目撃したもの

リビアにおけるMSFの現地活動責任者、フェデリカ・フランコは語る。

「アブサリームとアインザラの収容センターで目撃してきたものには、恐怖を覚えます。 人びとは人間性を奪われ、残酷で劣悪な環境に日々さらされています」

両センターで診療にあたったMSFのチームによれば、看守による集団的で無差別の暴力が相次いでいた。命令に従わなかったり、医療を求めたり、食事の追加を求めたことに対する処罰として、あるいは、抗議行動や脱走があった際の制裁措置として行われることが多かったという。

リビアの収容センターから逃走した際に有刺鉄線で負傷した女性 © Mahka Eslami
リビアの収容センターから逃走した際に有刺鉄線で負傷した女性 © Mahka Eslami
両センターのうち、アブサリームでは、女性と子どもだけが収容されている。女性たちによれば、裸にされて身体検査され、髪などに金品を隠していないか探すためのボディチェックも受けてきた。殴打、性暴力、レイプなども起きているという。こうした虐待は、看守だけでなく、収容センターの外からやってきた男性によるものも多い。中には武装した男たちもいたという。 

暴力と屈辱を受けた人びとの証言

アブサリームに拘束されていた女性は語った。

「ある晩のことです。女性看守が、私たちをある部屋に連れて行きました。そこにいたのは、私服を着た男たちでした。もしかしたら、看守か警察官だったのかもしれません。女性看守は、私に対して、誰か1人とセックスしたら部屋から出てもいいと言ってきたのです。私は叫びました。すると、女性看守は、私を引っ張り出してパイプで殴りつけ、他の女性たちがいる大部屋に連れ戻したのです」 

その時、彼女は私に言いました。『お前はここで死ぬんだよ』と。

一方、アインザラでは、拘束されていた男性たちが、人権侵害の実態についてMSFのスタッフに語った。強制労働、ゆすり、暴力。医療を受けられずに死んだ者が少なくとも5人はいることも教えてくれた。MSFは、2023年1月から7月までに起きた71件の暴力事件を記録している。実際に、骨折、腕や足の傷、目のまわりの黒あざ、視力障害などの治療にもあたっている。

拘束された人びとによると、暴力は、脅迫や侮辱と組み合わされることが多かったという。女性や子どもに汚水や下水を浴びせる、処罰の意味で食事を抜く、何日も明かりのない生活を強いる、といったさまざまなやり口である。 

この点について、先ほどのMSFスタッフ、フェデリカ・フランコは、次のように語っている。

「何百人もの人が狭い独房に詰め込まれていました。みなが座ったままの姿勢で寝るしかないほどの狭さです。あふれた浄化槽や詰まったトイレから汚水も流れ出ていました。 食べ物も足りない。飲み水も足りない。洗い物に使う水にも欠く状況です。このような環境ですから、急性水様性下痢、疥癬(かいせん)、水ぼうそうといった感染症も流行していました」

収容センター内の不衛生な環境下で皮膚病にかかった男性 © Lauren King/MSF
収容センター内の不衛生な環境下で皮膚病にかかった男性 © Lauren King/MSF


衣類、マットレス、衛生用品キット、毛布、おむつ、粉ミルクといった必需品は不定期にしか配給されない。しかも、それらすら看守たちがたびたび没収していったという。アブサリームでは、タオルやビニール袋で作った間に合わせのおむつを長時間使用しているせいで、赤ちゃんの肌に影響が出ているのも、MSFは目撃している。女性たちも、毛布の切れ端や破れたTシャツを、その場しのぎのタンポンや生理用ナプキンとして使わざるを得なかったという。 

MSFへの相次ぐ妨害、そして活動停止へ

両センターに収容されている人びとは、幾度となく救命医療や人道援助を受ける機会も奪われている。MSFも、これまで何十回にもわたって、両センターに立ち入ることを拒否されている。センター内に入る機会が与えられても、個々の部屋に入れないことがたびたびあった。アブサリームでの医療援助活動の最中に、MSFに対する妨害行為──例えば、守秘義務侵害や物資没収など──があったことも、少なくとも62件ほど記録されている。 

7月初旬、MSFは、アインザラ収容センターへの立ち入りを全面禁止された。8月には、アブサリーム収容センターについても同様の措置を受けた。援助活動に対する相次ぐ妨害、そして立ち入り禁止措置──こうして、MSFはトリポリでの活動を停止せざるを得なくなったのである。

先ほどのフランコが、次のように話す。

「私たちは、トリポリで7年間ほど活動を続けてきた。その間、収容センターで悲惨な状況を目撃してきました。これには欧州諸国にも責任があります。欧州諸国は、リビアから人びとが流入してくるのをなんとしてでも阻止しようと、リビアへの強制送還を図る有害な移民政策をとってきた。それが収容センターの悲劇につながっているのです」 

収容されている少女の話し相手を務めるMSFスタッフ © Sam Turner/MSF
収容されている少女の話し相手を務めるMSFスタッフ © Sam Turner/MSF

リビアは不当な身柄拘束を停止せよ

MSFは、リビアにおける正当な理由なき身柄拘束を停止すること、すべての難民、保護希望者、移民を収容センターから解放すること、実質的に意味のある保護措置をとること、安全な避難施設を設けること、安全かつ合法的な出国経路を図ることを訴える。

2016年から2023年8月にかけて、MSFはリビアの首都トリポリで医療・人道援助活動を実施してきた。収容センターに収容されている難民、保護希望者、移民などはもとより、トリポリで不安定な生活を強いられている住民などにも焦点をあててきた。

トリポリでの活動を停止してからも、MSFはリビア国内のミスラタ、ズワラー、デルナといった諸地域で活動を続けている。地中海中央部を横断する難民、保護希望者、移民を支援するため、海難捜索救助活動も継続中だ。 

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