世界肝炎デー:C型肝炎治療をもっと簡単に 新しい治療モデルが患者の命を救う

2019年07月28日

プノンペンのプレア・コサマク病院でC型肝炎の薬を服用する患者 © Todd Brownプノンペンのプレア・コサマク病院でC型肝炎の薬を服用する患者 © Todd Brown

世界全体でおよそ7100万人が感染しているC型肝炎ウイルス。治療しなければ肝障害や肝がん、そして時には死に至る病気だ。近年、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)という効果的な薬が、より手の届く価格に下がってきた。この薬で12週間の治療コースを完了した患者の治癒率は97%に上る。一方、診断とDAA治療を簡単に受けられない国々では、C型肝炎は重大な健康問題だ。カンボジアはそんな国の1つ。国境なき医師団(MSF)はカンボジア保健省との協力のもと、首都プノンペンのプレア・コサマク病院で治療機会の拡大と、革新的な診療方法の導入に取り組んでいる。 

患者の不安と負担を軽減

プレア・コサマク病院で検査と治療を受けるC型肝炎の患者 © Todd Brownプレア・コサマク病院で検査と治療を受けるC型肝炎の患者 © Todd Brown

2016年にMSFがカンボジアでプロジェクトを開始した頃は、C型肝炎患者が検査を受けて治療を開始するまでに140日もかかっていた。「患者さんも不安がっていました」と語るのは、この3年、大勢の患者を診てきたMSFのサン医師だ。「C型肝炎ウイルスは血流で運ばれると聞かされながら、治療を始めるまで長く待たなければなりませんでした。自分の体がどうなってしまうのか、心配だったでしょう」

チョウ・ヴァンナさんは、数週間前に新しい治療モデルでDAA治療を開始した患者だ。「症状は頭痛と熱と悪寒でした。まず伝統療法を試したのですが、効き目はありませんでした。MSFがプノンペンで治療を行っているとフェイスブックで知り、地元のシェムリアップからバスで8時間かけてやってきました。簡単な治療法があることも知らず、初めは心配していましたが、いろいろと丁寧に説明してもらいました」 

プレア・コサマク病院のC型肝炎診療所で順番を待つ患者 © Todd Brownプレア・コサマク病院のC型肝炎診療所で順番を待つ患者 © Todd Brown

以前は、診断を受けて治療を始めるまでに患者は8回も病院に通わなければならなかった。今は検査が簡略化され、チョウさんは2回目の来院で治療を開始。患者は肝疾患の病態や病期に関係なく同じ治療を受けられるようになり、初期治療に必要な事前分析の大部分が省かれている。DAAの安全性も高く、治療前・治療中に行われていた追加検査とモニタリングも不要になった。計16回だった診療が今は5回となり、患者への負担は大幅に軽減した。

12週間前に治療を完了したセン・スレイモムさんは、この日、ウイルスが血中から完全に駆逐されたことを確認する最後の血液検査のため来院した。「清掃の仕事をしていて、ここに来るたびに上司の許可を得ないといけません。仕事を代わってくれる人を探さなければならないので……。これまでのところはうまくいっていますけどね」

回数だけでなく、通院にかかる交通費も大きな負担だ。2016年から勤務しているMSFのソマレヌ・パ医師は「カンボジアは貧しい人が多い。診療の回数が減れば交通費も少なくなり、患者さんはとても助かります」と話す。
 

病院側も効率が上がる

C型肝炎患者のファイルを整理するMSFスタッフ © Todd BrownC型肝炎患者のファイルを整理するMSFスタッフ © Todd Brown

新しい治療法は患者にとって簡単で便利なだけでなく、病院スタッフにとっても効率がよい。医師の診療は1回だけで、残りは看護師が対応できる。「看護師の役割が大幅に拡大しました」と話すのは、MSF看護師スーパーバイザーのサヴォルン・チョウプだ。「患者のトリアージも診療も、看護師が行っています」

診療の回数が減ると、病院の混雑も緩和され、同じ人員でこれまでより多くの患者が治療を開始できる。2016年以降、1万3000人余りがこの病院で治療を受けた。「患者さんは皆、新しい治療法の恩恵を受けています」と、消化器・肝臓科長チヒト・ディマンシュ医師は言う。

治療モデルを変更する際は、その質を慎重に観察しなければならないが、治癒率は97%と変わっていない。また、セン・スレイモムさんをはじめ多くの患者が、最後の血液検査の結果を電話で数日以内に通知されることに同意しており、改めて来院する必要もなくなった。 

C型肝炎の根絶にも期待

治療が簡単になれば患者の人生が変わる © Todd Brown治療が簡単になれば患者の人生が変わる © Todd Brown

MSFの長期的な目標は、C型肝炎の治療をさらに簡単なものにし、患者がより治療を受けやすくすることだ。診療のために長い移動をする必要もなくなる。現在MSFは、バタンバン州内の都市圏外にある複数の診療所で、看護師を中心にケアの分散化モデルを実践。うまくいけば、これまでの効果がさらに上がるだろう。「2030年までにカンボジアからC型肝炎を根絶したい」と、ディマンシュ医師は期待を寄せる。

この期待はただの願望ではない。サン医師は言い添える。「このやり方はカンボジアだけを対象としたものではありません。新しい治療法はアジアやアフリカのどこでも導入できます。この病院の試験的プロジェクトで得られた知見に基づく、確かな期待なのです」 

MSFは複数の国でC型肝炎患者を治療しており、イラン、ミャンマー、ウクライナ、パキスタン、インド、カンボジアでは専門プロジェクトを展開。2018年は世界全体でおよそ1万4419人にC型肝炎の治療をして、患者の生活を大幅に改善させた。 

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