「悪霊の仕業」と信じる人も ケニアのてんかん患者を苦しめる差別と偏見

2021年02月22日掲載

てんかんを患うピーター・ギトンガさん。現在は薬で発作を抑えることができている 🄫 Paul Odongo/MSFてんかんを患うピーター・ギトンガさん。現在は薬で発作を抑えることができている 🄫 Paul Odongo/MSF

一般的に、人は理解できないものを恐れる。ケニア中部に位置するエンブ郡に暮らす人びとにとって、てんかんという病気もその対象の一つだ。

てんかんは非感染性の慢性疾患で、突然けいれんを起こしたり、意識を失って倒れたりすることなどが主な症状だが、この病気を知らない人たちの中には、発作が起こるのは悪霊に取りつかれたせいだと信じる人も少なくない。

てんかん患者に向けられる差別と偏見

エンブ郡カンジャ町の外れで小さな雑貨店を営むピーター・ギトンガさん(41歳)は、てんかんを患う患者の一人だ。9歳のとき、小学校の授業中に発作が起きたことで、病気が明らかになった。

「薬をきちんと飲んでいれば発作はおきませんし、仕事もできるのですが、この辺りの人たちは、私のことを障害者だから働けない、と言います 。仕事をしたくても『あいつは発作でいつも倒れる』と雇い主に告げ口されてしまうので、職に就くことができませんでした」。ピーターさんは今、自分の農場でとれた作物を売って生計を立てている。

また2年間連れ添った妻も、彼の元を去った。「風呂場で発作を起こした私を見つけたとき、『しょっちゅう死んだり生き返ったりする人と暮らすのは、もううんざりだ』と言われたんです」

病気の治療だけではない、心理ケアの必要性

「薬を飲み始めてから、発作は起きていません。たまに副作用が出ることがあったのですが、担当医に相談し、薬の量を調整してもらえたおかげで、今では働くことができようになりました」。ピーターさんがこう語るように、てんかんは適切な治療を受ければ通常の生活を送ることが可能だ。いつ襲われるとも分からない発作におびえたり、心配したりする必要もない。

しかしこの病気には、治療とともに患者への心理面のケアが欠かせない。てんかん患者は社会や家族から差別や偏見を受けることが多く、中にはうつ病になるほど追い込まれてしまう人もいるからだ。

「てんかんの患者さんが病院に来たときは、『よく頑張りましたね』と声をかけることにしています」。こう話すのは、エンブ郡で活動する国境なき医師団(MSF)の医療スタッフ、ステフェン ・キムワキ。「患者さんは病気だけでなく、周囲の人からの差別や偏見にも苦しんでいるのです」

エンブ郡には、てんかんなどの慢性的な病気を患う患者同士が互いに励ましあうグループがあり、ピーターさんはカンジャ町で、てんかん患者のグループの代表を務めている。このグループには現在25名が参加しており、精神面だけでなく経済的にも支え合うシステムの運用も始めているという。

ピーターさんが代表を務めるてんかん患者のグループ。互いに励ましあいながら治療に臨む。 🄫 Paul Odongo/MSFピーターさんが代表を務めるてんかん患者のグループ。互いに励ましあいながら治療に臨む。 🄫 Paul Odongo/MSF

地域で診療を受けられるプログラム作りを

2017年6月から、MSFはエンブ郡において、てんかんのほか、高血圧や糖尿病、ぜんそくなどの非感染性疾患について、ケアモデルの検証を目的としたプログラムを実施している。このプログラムは11カ所の医療機関で実施され、MSFによる現地保健省の医療スタッフの指導も行われている。

これまでこの地域には、非感染性疾患患者を治療できる診療所がなかったため、患者やその家族は自宅から遠く離れた場所にある、より高度な医療機関まで時間と費用をかけて通院する必要があった。

しかしMSFによる技術指導や物資提供を受けた地域の医療機関が、こうした病気の診療を開始したことで、現在は多くの患者が自宅に近い場所で治療を受けることができるようになっている。

2017年8月以降、MSFが支援する医療機関で非感染性疾患の診療を受けた患者数は6150人、そのうちてんかん患者は366人。MSFは今後すべての医療サービスを郡に移譲すべく、準備を進めている。

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