新型コロナウイルス:イラク、コロナ禍の中で誕生する命 止めてはならない必須医療サービス
2020年08月21日激しい戦闘の末、過激派組織「イスラム国」(IS)の支配から3年前に解放された、イラク第二の都市モスル。多くの医療施設が紛争によって破壊され、いまだ医療システムは脆弱な状態が続く。さらに新型コロナウイルス感染症の流行が広がり、医療システムは逼迫。しかしそのような中で、日々新しい命が力強く誕生している。
コロナ対応と同時に、産科や救急など既存の必須医療サービスを守ろうと活動する、国境なき医師団(MSF)の取り組みを伝える。
「コロナ以外の医療ニーズがなくなったわけでない」
ニナワ県モスルの西市街でMSFが運営する病院では、緊急診療や、妊産婦・新生児ケア、小児診療、心理ケアなど、人びとに不可欠な医療サービスを幅広く提供している。
「私たちの病院は、この地域で機能している数少ない病院の一つなのです。新型コロナウイルスが流行しているからと言って、コロナ以外の医療ニーズがなくなったわけではありません。コロナ禍の中にあっても、皆が必要とする医療を提供し続けることに、疑問の余地はありません」と、救命救急室の医師であるヒューマン・ヌーリは話す。
「感染の流行が始まって以来、患者の数は減っていません。さまざまなけがなどで運ばれる患者を、今でも1日に100人ほど診ています。産科病棟では、毎日多くの女性たちが出産しています」
イラクの活動責任者を務めるマルク・ファン・デル・ミューレンはこう話す。「私たちがモスルで行っていることは、MSFがイラク全土で行おうとしていることの一例に過ぎません。イラクのような医療システムの脆弱な国では、既存のサービスの維持と、新型コロナの緊急事態への対応、その両方に対応することが非常に重要です」
受診をためらう人びと
モスルにおいて、新型コロナウイルスはこの2カ月で急激な拡大を見せている。しかし、感染が疑われる症状があっても受診をためらう人びとが少なくない。新型コロナに感染した人びとが差別を受けることがあるためだ。
MSFは、症状があったらできるだけ早く受診することが、自分のためにも地域のためにもなるのだと訴えている。
東モスルの新型コロナウイルス感染症治療センターで看護師長を務めるアリ・アル・ズバイディーはこう話す。「この病気はどのように広がるのか、そしてどう防ぐことができるのか。そのような情報を患者に伝えることに、私たちは多くの時間をかけています。人びとが感染の予防をおざなりにし、医師に診せるのを遅らせてしまえば、今後さらに感染者数は増えていくことでしょう」
正しい情報を伝えるために、MSFはモスルで新型コロナの予防法を伝えるオンラインキャンペーンを開始した。既存の必須医療を守りながら、新型コロナウイルスへの新たな対応が進んでいる。