ハイチ:ハリケーン「マシュー」被災後の緊急援助(10月28日現在)
2016年10月31日
孤立集落へ向かうMSFスタッフ
ハイチ南西部を大型ハリケーン「マシュー」が直撃してから3週間が経ったが、被災地では依然、適切な仮設住居と十分な食糧・飲用水を得られてない被災者が多い。しかも、一部地域では孤立状態が続いている。
国境なき医師団(MSF)は災害の発生直後から被災地に入り、緊急援助を続けている。現在、南県、グランダンス県、ニップ県で被災者の健康悪化を確認しており、対策を急いでいる。
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被災地に食糧不足の兆し

被災地では食糧不足の兆しが表れはじめている。大部分の農作物や家畜が被害を受けたからだ。グランダンス県でMSFプロジェクト・コーディネーターを務めるエマニュエル・マサールによると「家畜、果樹、自宅用の備蓄食料がダメになっています。どうにか残った食料も、その後の雨で腐ってしまっています」という。
MSFは南県とグランダンス県で行っている移動診療に、5歳未満の子どもの栄養状態の調査を組み込んだ。必要に応じて、そのまま食べられる栄養治療食(RUTF)を配布する態勢を整える。
ハリケーン「マシュー」の強さはカテゴリー4。南西部の住宅は大半が屋根を吹き飛ばされ、暴風に耐えたわずかな住宅も豪雨により損壊した。ニップ県担当のプロジェクト・コーディネーター、レナーテ・シンケは「どの世帯も家を失い、掘っ立て小屋仮住まいしたり、1部屋に複数の家族が身を寄せあったりしています」
安全な水が手に入らない
井戸、水道網、貯水池も打撃を受けた。ニップ県で活動中の給排水・衛生専門家のイブ・リール=マルセルスは「もともと不安定だった上水道システムも被害を受けました。ハリケーンに続き、洪水が追い打ちをかけ、清潔な水が手に入らなくなっています」と報告する。
MSFがポルタピマンからレ・コトーに至る海岸線の井戸6基を調査したところ、3基に海水が混じっていた。山間部でも一部の水源に不衛生な川の水や土砂が混入している。
道路寸断で孤立した集落に危機

都市部から遠く離れた一部地域は、以前から交通の便が悪く、行き来することが難しかった。被災後はほぼ不可能に近い。例えば、バラデール郡に至る2本の道路は寸断され、物資の搬入や商取引の再開が望めない状況だ。
集落の孤立は保健医療を提供する上でも痛手だ。マサールはこう説明する。「山間のプルシーヌ村に到着した際は、すぐに重傷者14人と、流産した女性1人の診療に取りかかりました。開放創は適切に処置しないと敗血症を引き起こします。切断手術も含めた必要な手当てが受けられなければ、命を落とすことになってしまうでしょう」
コレラ流行の阻止に向け、監視体制を強化
被災後から問題となっていたコレラの流行について、10月25日時点では、ポルタピマンのMSFコレラ治療センター(CTC)の入院患者は6人にまで減少した。一方、近隣のシャルドニエールから、40人に感染の疑いありとの報告があった。
コレラ流行は予断を許さない状況で、新規症例の把握、十分な数の治療センターの設置、センターへの交通手段の確保、安全な飲用水の提供が重要だ。
MSFは、仮設住居、安全な飲用水、食糧、移動の困難が相まって、被災者の健康状態全般を悪化させかねないと懸念している。MSF緊急医療コーディネーター、キアラ・ブルツィオは「孤立集落でのコレラなどの感染症と、5歳未満の子どもの栄養状態の悪化が特に心配です」と話す。
ハリケーン被災地での緊急援助(2016年10月28日時点)
- 27集落で合計2500人以上を診療した。ニップ県では主に下痢、消化管感染症、尿路感染症、上気部呼吸器感染症に対応。南県とグランダンス県では多数の外傷症例の治療を続けている。
- 患者10人を首都のポルトープランスにヘリコプターで搬送した。9人はタバル地区のMSF外傷センターに、1人はMSFの重度熱傷センターに受け入れられた。
- 南県で1400世帯分の仮設住居を用意した。
- 南県ポルタピマンとニップ県バラデールにコレラ治療センターを設置し、感染疑いの229人を治療した。
- グランダンス県のコレラ治療センター6軒とニップ県の1軒でスタッフの研修を実施。また、給排水・衛生システムの支援を提供した。
- アルティボニット県の診療所2軒とコレラ治療センター2軒に、医療物資やその他の救援物資を寄贈した。
- 1基あたり1日15㎥を給水できる袋状タンクをグランダンス県で4基、ポルタピマンで1基設置した
- 南県で水の消毒用錠剤を90万個配布した。
- 10県でコレラの疫学的監視を強化した。